株式会社影は、YouTubeを軸にした動画制作・運用代行を主力に、企業の集客と売上づくりを支援する会社だ。代表取締役社長の雄川銀史朗氏は、大学在学中に個人事業として立ち上げた事業を法人化し、業務委託を含め50〜60名の体制へと育ててきた。「本物を照らす影となる」という理念のもと、優れた商品やサービスを持ちながら世に知られていない中小企業に、YouTubeの力でスポットライトを当てる。若き経営者が描く事業の核心と、これからの展望を聞いた。
ブログから動画編集へ、学生起業の原点
雄川氏が事業を始めたのは、大学1回生のときだった。きっかけは、その少し前にさかのぼる。
高校3年生のとき、有料ブログに挑戦した。Googleアドセンスの審査は通過したものの、成果はなかなか出ない。ちょうどコロナ禍の第一波で、緊急事態宣言が相次いで出されていた時期。大学は指定校推薦で早々に進学が決まっており、オンライン中心でアルバイトもできない。父親が入学祝いに買ってくれたノートパソコンを手に、時間を持て余しながらブログと向き合っていた。
「泣かず飛ばずだった」というブログに区切りをつけ、大学入学から半年ほど経った頃に出会ったのが動画編集だった。ここから動画編集をスタートし、個人事業として始めた仕事を、大学卒業とともにそのまま法人化した。それが株式会社影の始まりである。
徹底した伴走と自社内製が生む「大外ししない」支援
同社の主力は、YouTubeを起点とした集客・運用代行だ。企業がYouTubeから自社の商品やサービスを売れるよう、企画から制作、運用までを一貫して手がける。
強みは大きく三つある。ひとつは徹底した伴走姿勢だ。「これが正解、これが間違いという答えがない業界」だからこそ、顧客が体現したい思いや伝えたい言葉を大切にし、負担をできるだけ抑えながら寄り添う。
ふたつめは自社制作体制。制作会社に外注する仲介型ではないため、余分なコストがかからず、その分費用を抑えられる。
そして三つめが「大外ししない」設計だ。これまで支援したチャンネルはおよそ30。「ある程度時間をかけてやれば成果を出せるように設計している」と雄川氏は語る。
その言葉は実績が裏づける。窓と断熱というニッチな領域のリフォーム会社では、登録者数こそ多くないものの、先月単月で会社全体の案件獲得数はおよそ15件、うち約10件がYouTube経由だった。1件あたり100万〜200万円規模のリフォーム案件であり、少ない登録者数からでも大きな売上につながっている。淡路島の不動産会社では、投稿1本目から8万回再生を突破し、動画で紹介した物件が実際に成約。支援開始から半年ほどでの成果だという。
料金は月額制で、投稿本数に応じて変動する。月2本であれば15万円からとミニマムに始められる設計だ。
「働けてよかった」と思える組織をつくる
事業を伸ばす一方で、組織づくりには試行錯誤が続いてきた。同社は業務委託を中心とした協業型の組織で、いわゆる雇用関係とは異なる。メンバーは他社の案件も抱えるため、定着や体制づくりが難しかったという。
「重要な役割をお願いしても、その方がうちだけにコミットしているわけではない。そのなかで、どう株式会社影にいてくれるかを考えるのが、最初の頃は苦労した」
転機となったのは、「この会社で頑張りたい」と言ってくれるメンバーが増えてきたことだ。その人たちを中心に組織図をつくり、バランスの取れた形を模索する。これまで製作部しかなかった体制に、事務まわりを担うバックオフィスの部署を新設。負担を分散させながら、会社が円滑に回る仕組みを整えつつある。
判断に迷ったときの軸は、二つあると雄川氏は言う。ひとつは「自分がワクワクするか」。もうひとつは、それが本当に顧客のためになり、ひいては会社のためになるか。「売上だけを目指すのは、僕はあまり面白くない。メンバーが働けてよかった、お客様が使ってよかったと思える。その両方を満たせる選択をしていきたい」
影響力という次の課題、そして内製へのこだわり
これまでは、ありがたいことにリファラル(紹介)で仕事が回ってきた。広告を出さずとも依頼が絶えなかった一方で、雄川氏は次の段階への課題も見据えている。会社をもう一段、二段と拡大させるために必要なのが「影響力」だ。
そのため、自社で資材を投じてメディア事業を立ち上げている。手がけるのはAIをテーマにしたメディアで、AI研修やコンサルティングの販売につなげる狙いだ。AIに強い専門家を演者に立て、同社がプロデュースして運営する。加えて、雄川氏自身がYouTubeやSNSで発信し、会社の看板として前に出ることも検討している。
採用面では、上流の人材を外から引き入れるのではなく、編集者を一から育てる自社教育の仕組みづくりを重視する。「ディレクターやマーケターを採用するのは簡単。でもそれをしてしまうと、うちのバリューが発揮できない。すべて自社で内製するところが、僕の会社の強みだと思っている」
3年後、5年後──そして社会へ
今後の展望として、雄川氏はまず3年以内に事業規模で1億円を必達目標に掲げる。5年後には3億〜5億円を視野に入れる。
その頃には、売上の柱も変わっていくと見る。YouTube運用がおよそ40%、バックオフィスのBPOサービスが10%、そしてメディア事業が50%ほど。メディアの比率が大きくなっていくイメージだ。
その先に据えるのは、「社会の1%の人に、1%でもいい影響を与える会社にしたい」という思い。売上だけでなく、「うちを使ってよかった」「うちで働けてよかった」と思える環境を育てていく。
根底にあるのは、「本物を照らす影となる」という理念だ。日本企業の大半を占める中小企業のなかには、素晴らしいサービスや商品を持ちながら、その価値が知られていない会社が数多くある。地方でも都心でも変わらない。「窓と断熱の会社も、本当に丁寧なサービスをしているのに、月に15件ほどの人にしか価値を届けられていない。それはもったいない」。大企業との広告宣伝費のマネーゲームでは埋もれてしまう優れた中小企業に、YouTubeというプラットフォームでスポットライトを当てていく。それが自分たちの使命だと雄川氏は語る。
会社概要
- 会社名:株式会社影
- 代表者:雄川 銀史朗
- 事業内容:YouTube運用・動画制作代行、バックオフィスBPO、メディア事業
- 設立:2025年4月
- 従業員:業務委託を含め約50〜60名
編集後記
学生時代の手持ち無沙汰から始まった一台のノートパソコンが、いまや50名を超える協業の輪へと広がった。雄川氏の語り口は終始穏やかだが、「本物を照らす影となる」という理念には、埋もれた中小企業の価値を世に届けたいという静かな熱がにじむ。売上の数字を追いながらも、働く人と顧客の「よかった」を選択基準の中心に置く姿勢は、これからの若い経営者の一つのかたちを示しているように感じた。
