株式会社ワールドクラフトは、エンジニアとデザイナーが集うIT企業だ。代表取締役の大和田博道氏は、生き物の神経や感覚の研究から出発し、外資系IT企業を経て独立。以来20年にわたり、中小企業や個人事業主が本当に手の届く価格で、ITからデザイン、コスト削減までを一気通貫で支える事業を築いてきた。技術の進展が働き方を大きく変えるいま、大和田氏が見据える「人間力」に宿る付加価値とは何か。その哲学と歩みを聞いた。
生物の研究からITへ——異色のキャリア
大和田氏のキャリアは、一般的なIT技術者とは大きく異なる。東京農工大学農学部生物生産学科で生物を学び、卒業論文では豚の色覚を人間と比較する研究に取り組んだ。大学院では魚の神経回路をコンピューター上で再現するニューラルネットワークモデル、すなわち今日のAIの基礎技術にあたるパーセプトロンモデルを扱った。
「生き物の神経回路、感覚器、感覚の認知といったところの研究だったんです。そのシミュレーションを通してITに詳しくなっていった」と大和田氏は振り返る。大学院生の頃からパソコンのインストラクターも務め、農学部出身でありながら次第にITへと軸足が移っていった。
その後、外資系IT企業に就職。エンジニアを大切にする社風のもとで経験を積んだが、当時の日本のIT業界には、キャリアの積み方や専門性の高め方に難しさがあると感じていたという。「もっと現場に近い仕事がしたい」という思いも重なり、独立への道を歩み始める。
苦労の船出と、講師業という広がり
会社を立ち上げたのは2006年末。しかしその直後から、世の中は大きく揺れる。「2007年、2008年、2009年と進む中でリーマンショックがあり、東日本大震災があり。創業から5年以内くらいで、結構いろんなことが起きた」と大和田氏は語る。
その一方で、仕事に少し余裕が生まれた時期には講師業にも力を注いだ。地元・香川県の中小企業応援ファンドが運営する高度人材育成事業や、セキュリティ大手のアカデミーで講師を務め、現在も大学でプログラミングの授業を続けている。人材育成への関心は、後の事業構想にもつながっていく。
「ワークファン・プレーファン」——一生懸命を楽しむ会社へ
創業の根底には、明確な問題意識があった。IT業界で「よく悪く言うと虐げられて働いている人たち」の存在を変えたい——。そんな思いから、大和田氏は自らの会社を「働く人が幸せになれる場所」にしようと決めた。
掲げたのが「ワークファン・プレーファン」という言葉だ。「楽して働くという意味のファンではなく、一生懸命楽しむという意味のファン。一生懸命働くことが楽しくなるような環境を作っていきたい」。この価値観は、ホームページにも記され、今なお会社の背骨であり続けている。
いまワールドクラフトには26名の社員が在籍し、今年で21期目、創業20周年を迎えた。エンジニアとデザイナーを中核に据えた組織だ。
中小企業を「十分に手の届く価格」で——一気通貫の強み
ワールドクラフトの事業は幅広い。中小企業向けのITサポート「ITアシスタント」、デザイン制作、ホームページ制作、サーバーやインフラの構築、さらには電力料金をはじめとするコスト削減まで、企業経営のDXとコスト削減を一手に担う。月額1万円でサーバー付きのホームページが作れるサービスもある。
強みは、これらを自社サービスで完結できる点にある。「サーバーは他社のものを使い、デザイナーは外注、という会社が多い。うちはインフラもデザインも社内にいて、サーバーも含めてトータルでできる」と大和田氏は説明する。デザイナーもコーディングができるなど、社員一人ひとりの守備範囲が広い。
価格へのこだわりも際立つ。「中小企業や個人事業主でも手の届く価格。ギリギリではなく、十分に手の届く価格で、他にはないレベルのサービスを」。さらに、コスト削減サービスを利用する顧客には、システム障害時やAI活用の相談先となるITアシスタントのエントリープランが付帯する。「見積もりをしてからしか動かない。いきなり後から請求することはない。中小企業相手だからこそ、そこをしっかりやっている」。安心して任せられる仕組みが、他社にはない付加価値だと語る。
求めるのは「私ならあなたの会社に貢献できます」という人
事業を伸ばす上での課題として、大和田氏はリード獲得と並んで採用を挙げる。エンジニアとデザイナーは常に不足しており、求める人物像は明確だ。
「未経験でもいいが、熱意と情熱がないと厳しい。『社員になりたい』という人は基本的にお断りしている。『私ならあなたの会社に貢献できます』という人を探している」。採用面接を、大和田氏は結婚に例える。「企業と人のお見合いのようなもの。いい加減な結婚をすると不幸になる。だから、不幸にならないための話をその場でするようにしている。後延ばしにしても何も生まれない」。
謙虚さを美徳とする日本人には難しい問いかけかもしれない。それでも大和田氏は、互いに幸せであり続けられる関係を、入口の段階で誠実に見極めようとする。
技術の先にある「人間が関わる価値」——唯一無二を目指して
AIの台頭により、ライティングや簡単なイラスト、プログラムの仕事が急速に姿を消しつつある。パーセプトロンモデルを研究した大和田氏は、この変化を「出るべくして出た」と受け止めつつ、10年後を「正直読めない」と率直に語る。
だからこそ見据えるのは、人間が関わるサービスにこそ宿る付加価値だ。「作るということそのものよりも、コミュニケーションやプロジェクトの作り方、さらにコスト削減も含めてトータルでサポートしていく」。社員がコミュニケーションを学ぶための取り組みや、IT・デザインの仕事で不足しがちな身体性を取り戻す農業体験のプロジェクトにも取り組むなど、技術だけにとどまらない価値を備えた人材の育成に力を注ぐ。
そして大和田氏には、譲れない志がある。「中小企業に特化して本当にうまくいったITサポートの会社は、まだ見たことがない」。大企業との取引に流れれば収益は上がる。それでも「日本を支えている中小企業を、さらに支える」という創業の原点を捨てるつもりはない。「補助金がなくても、そもそも安くやる。それを、嘘をつかずにやり続ける唯一無二の会社になりたい」。技術が激変する時代にあって、その言葉は静かな覚悟に満ちていた。
会社概要
- 会社名:株式会社ワールドクラフト
- 代表者:代表取締役 大和田博道
- 事業内容:中小企業・個人事業主向けのITサポート、デザイン制作、ホームページ制作、サーバー・インフラ構築、コスト削減(電力料金等)サービス
- 創業:2006年
- 従業員数:26名

編集後記
生物の研究者を志した青年が、神経回路のシミュレーションを入口にIT の世界へ——。大和田氏の歩みは一見異色だが、根底には一貫して「人間そのものへの関心」が流れている。技術が人の仕事を代替し始めた時代に、あえて人間力とコミュニケーションに価値を置き、日本の屋台骨である中小企業を誠実な価格で支え続けようとする姿勢。その静かな信念に、これからの企業支援のひとつの理想像を見た。
