10年以上をSaaSの世界で過ごし、事業成長の現場で幾度もリードの枯渇に直面してきた田中悠氏。その経験から見出したのが「紹介」という古くて新しいテーマだった。2025年4月に株式会社AREYOを設立し、紹介・リファラルを科学するプロダクト「Jolt」を世に送り出した田中氏に、起業の背景、Joltが解く二つの課題、そしてAI時代の事業観を聞いた。
一眼レフからSaaSへ、そして起業へ
愛媛県で生まれ育ち、大学進学を機に上京した田中氏のキャリアは、キヤノンから始まる。一眼レフカメラのグローバルマーケティングなどに携わったのち、スタートアップの世界へと軸足を移した。プレイド、バニッシュ・スタンダードと、いずれもSaaSプロダクトを手がける企業で経験を重ね、事業のPLに責任を持ちながら成長を牽引してきた。
「起業自体は、もともとどこかのタイミングでしたいと思っていました」と田中氏は振り返る。急いていたわけではない。自身の経験とスキル、人脈、そして長年SaaSに向き合う中で蓄えてきた課題感とヒント——その全てが揃い、「この課題は、こういう方法なら解決していけるのではないか」という手応えを得たとき、独立に踏み切った。それが2025年4月のことである。
「ありそうでなかった」を形にしたJolt
AREYOが提供するJoltは、企業の「紹介」を仕組みとして機能させるためのプロダクトだ。田中氏のもとには「ありそうなのに、なぜなかったんだろう」という声が多く寄せられるという。
「紹介はいろいろな場所で実際に起きているもので、皆さんイメージはできる。マーケティングやセールスの領域でも起きている事象なのに、それを支えるサービスがあまり世の中になかった」。ありそうでなかった——その手応えが、Joltの出発点にある。
田中氏がJoltを着想したのは、まぎれもない自身の実体験からだ。広告やアウトバウンド営業でリードを獲得しようとしても、コスト効率が悪く、リードが取れないという壁に何度もぶつかってきた。「一方で、既存のお客さまや代理店からの紹介は受注率が高く、成果報酬型でコスト効率もいい。ここはめちゃくちゃいいよね、と」。それでも紹介が広がらないのは、全ての顧客に依頼を働きかけたり、代理店を開拓・稼働促進したりする作業が人手に頼り、どうしても後手に回るからだった。「もっと科学したら、紹介は増えるんじゃないか」。その直感を深掘りし、プロダクトへと結晶させた。
紹介が増えない理由を、両面から解く
Joltの核心は、「なぜ紹介が生まれないのか」という問いにある。多くの企業は紹介を「偶然たまに起きるもの」と捉え、KPIを掲げることもなければ、予算をかけても動かないと考えがちだ。田中氏はそこに二つの構造的な課題を見る。
ひとつはベンダー側の課題だ。紹介契約の締結、誰が誰を紹介したかの管理、企業ごとに異なる報酬率や報酬額、商談後のフィードバック、報酬の請求書回収と支払い——紹介にまつわる業務は驚くほど多く、複数部門にまたがり、コミュニケーションコストも大きい。「だから、パートナーを増やそうという方向になりにくい。本当はもっと代理店を増やしたいのに、後工程が大変すぎて、法人の代理店数十社で止まってしまう」。個人をパートナーにできれば紹介は一気に増えるが、その運用まではとても手が回らない。
もうひとつはパートナー側の課題である。「紹介した後がブラックボックス化している。あの案件どうなりましたか、と聞いてもフィードバックが返ってこない」。信頼する相手を紹介したのに進捗が見えず、モチベーションが続かない。結果として、多くのパートナーは一件紹介したきりゴースト化してしまう。
「この両面を解決しないと、紹介は増えない」。ベンダーとパートナー、双方の課題を同時に解くこと——それがJoltが選ばれる理由だと田中氏は語る。AREYO自身もJoltを使い、ほぼ紹介だけで商談が2〜3週間先まで埋まる状態を実現している。「紹介を科学したら、ここまでやれる。それを我々自身が証明しています」。
幅広い業種に広がる活用
Joltと相性がいいのは、まずSMB向けのSaaSだという。「紹介できるターゲットが広く、単価もリーズナブルで紹介しやすい。広く使われているサービスなら、自分も使ったことがあるから紹介しやすい」。加えて、フリーランスやプロ人材のマッチング、経営者コミュニティ、さらには不動産や金融など代理店を組成しやすい業種でも活用が進む。「営業が発生する場面なら、基本的にフィットします」。
象徴的な事例が、沖縄で卓球クラブ「琉球アスティーダ」を運営し、経営者コミュニティも手がける企業での導入だ。会員には経営者が多く、広告で新たな経営者にリーチするのは難しい。そこで、会員が会員候補を紹介する紹介プログラムを設計し、その裏側でJoltを稼働させている。「経営者が経営者を連れてくる。そういう循環を仕組みとして回しています」。
田中氏が強調するのは、紹介を単なる業務効率化で終わらせないことだ。「効率化はベンダー側の課題解決に過ぎない。パートナー側の環境をほとんど誰も気にしていない。効率化するだけでは伸びない、というのはすごく伝えたいことです」。
業務委託チームの壁と、AIがもたらした加速
創業初期の苦労として田中氏が挙げるのは、限られた資金の中でのプロダクト開発だ。開発は本業を持つ副業のエンジニアやデザイナーに支えられていたため、想定通りにスケジュールが進まないこともあった。デザイナーの離脱によって新たな人材を探し、インプットからやり直すこともあり、リリースは当初計画より後ろ倒しになった。「最終的には、不要そうな機能を削って1カ月の遅れに抑えました」。
局面を変えたのはAIだ。「今は毎週のように機能をリリースしています。こんなにも速い速度でここまで作れるのか、というくらいのスピード感です」。ただし田中氏は、開発をAIに丸投げしているわけではないと釘を刺す。「我々はプロダクトと領域の知識を深く持っている。最初の設計や走り始めるところは自分たちの手で作る。その土台の上にAIを乗せてコーディングしてもらう。だからこそ方向性がブレず、開発の速度だけを上げられる」。ゼロからAIに委ねるサービスとは一線を画す、という自負がそこにある。
変化に対応し続ける組織であるために
会社としての課題を尋ねると、田中氏は「突き詰めると、売上と採用に行き着く」と答える。売上も採用も入り口の母数をいかに確保するかという話であり、その一点に集約されるという。中でも今、最も注力したいのはリード拡大と認知度の向上だ。採用についても、「いかにお金をかけずに採用できるか」に知恵を絞りたいと語る。
今後のビジョンについては、あえて細かく描かない姿勢を貫く。「AI時代は変化が激しすぎる。外的要因が事業に与える影響はこれから増えていく。だからこそ、変化に対応できる組織とマインドを持ち続けられるかを重視しています」。事業としては、Joltという軸を保ちながら複数プロダクトを走らせていく構想があり、次なるプロダクトのリリースも間近だという。方向性は同じく紹介・口コミの最大化にあり、B2C領域で紹介コードをアフィリエイト的に管理できるサービスを見据える。
最後に、田中氏は経営者へのメッセージをこう結んだ。「リードの枯渇に苦しむ企業は、今後さらに増えていくと思います。AI時代でプレイヤーが増え、競争が激しくなる。広告やアウトバウンド営業も、信頼という面で厳しくなっていく。だからこそ、人と人との繋がりが生きてくる。その繋がりを生かした紹介を科学として捉え、リード獲得の環境を今のうちに作っていくことが、とても重要な局面だと思っています」。
会社概要
- 会社名:株式会社AREYO
- 代表者:田中 悠
- 事業内容:リファラルマーケティングSaaS「Jolt」の開発・提供
- 設立:2025年4月

編集後記
10年以上をSaaSの現場で過ごした人だからこそ見えていた「紹介」という鉱脈。その語り口には、誇張も飛躍もなく、自らが課題にぶつかり、自らが解いてきた者の落ち着きがあった。AIで開発を加速させながらも土台は手放さない、変化に備えて未来を固定しすぎない——その一貫した現実感覚は、これからのスタートアップ経営のひとつの型を示しているように感じられた。人と人の繋がりを仕組みへと翻訳する試みが、リード枯渇の時代にどんな循環を生むのか。続きを見届けたい。
