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収益より、自分の時間を──元国税調査官がたどり着いた「やりたい仕事」の経営

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リード文

Yuki H1合同会社代表の平井信行氏は、大阪国税局で36年超を過ごした元国税調査官である。大企業の税務調査や査察の最前線に立ち続けた末、定年を機に税理士として独立し、コンサルティング会社を立ち上げた。MBAと国税実務の両輪を武器に、他にはない立ち位置で経営者を支える。本記事では、その歩みと、収益よりも「やりたい仕事ができる時間」を大切にする経営観を紹介する。

国税一筋36年、そして学び直しへ

平井氏のキャリアは、大阪国税局から始まった。関西国際空港株式会社への出向、査察部(いわゆるマルサ)での臨検捜索・差押え、そして大企業や上場会社を対象とする調査部での勤務。36年の在職期間のうち、半分以上をこの調査部で過ごし、著名な大企業の税務と向き合い続けた。

現職のさなかにあっても、平井氏は学びを止めなかった。神戸大学大学院経済学研究科で経済学修士を取得し、さらにイギリスの大学院でMBAを修了して経営学修士を得ている。仕事と勉強の両立は決して楽ではなかったという。

「オンラインでも課題がどんどん出るので、それをこなしていく。仕事と勉強の両立はしんどいところがありました」

大企業のマネージャークラスの受講生と机を並べ、刺激を受けながらやり遂げたMBA。この経験が、後の独立を支える土台となった。

定年後、自分のスキルを試したかった

国税局調査第二部の統括国税調査官(税務署長級)を最後に退職した平井氏は、平井信行税理士事務所を開業するとともに、Yuki H1合同会社を設立した。定年後にゆっくり過ごすという選択もあったはずだが、平井氏の思いは違った。

「自分のスキルを試してみたい、という気持ちがありました。実際に会社を立ち上げて、自分の実力で上げていきたい」と語る。

現職の公務員時代から、退職後に事業を始めることを見据えて準備を重ねてきた。MBAで経営を体系的に学んだことも、新規事業の立ち上げにあたって大きく生きたという。もっとも、営業とは無縁だった前職からの転身だけに、当初は顧客獲得に苦労した。MBAで知り合った経営者との顧問契約や、社外監査役への就任などを通じて、少しずつ縁を広げていった。

その延長で、国際資格の専門学校からアカウンティングの講師として声がかかり、さらには自身の母校からも招かれ、大学院MBAの講師も務めるようになった。人とのつながりが、次の機会を呼び込んでいった。

他の税理士にはない「強み」

平井氏が語る強みは明快だ。MBAを持つ元国税調査官であること、国際税務に強いこと、そして長年培った税務調査対応力である。

「普通の税理士事務所では負けないようなスキルと経験があります。それに加えて、経営面にもタッチできる。他の税理士事務所にもない、他のコンサル会社にもない強みだと思います」

実際の依頼の多くは、税務調査への対応策だ。日々の申告業務を担う税理士がいながらも、「調査対応が怖い」「どうしたらいいか分からない」という企業に、セカンドオピニオンとして入る。平井氏のもとには、こうした相談が絶えない。

国際税務も、平井氏ならではの領域だ。海外子会社との取引をめぐる費用の損金化、外資系企業の従業員が得るRSU(譲渡制限付株式ユニット)の課税、国同士が所得を主張し合う移転価格──いずれも高度な専門性を要する分野である。

「租税条約による情報交換で、海外口座の株式が課税対象だと分かってしまうケースが増えています。全世界所得として合算しなければならない、という相談が最近は多いですね」

大企業の調査を数多く手がけてきた経験が、こうした複雑な案件で生きている。

従業員は雇わない、AIとともに

Yuki H1合同会社は、従業員を抱えない。相続税の申告のように時間を要する案件は、業務委託の形で提携先の税理士法人へ渡し、インセンティブを得る仕組みをとっている。

「60を過ぎて定年退職した後、従業員を雇うリスクや責任は、もういいなと。マネジメントは現役時代にしてきたので、今は自分がやりたいことをやらせてもらっています」

日々の事務作業はAIを積極的に活用し、「AIによって従業員はいらないな、と今は思っています」と語る。個人事業としての税理士業と、法人でのコンサルティング、セミナー・講師業を分け、それぞれで着実に収益を伸ばしている。

営業基盤も安定してきた。数百社の顧問先を持つ税理士事務所や税理士法人の相談役顧問として、事務所側では手に負えない調査対応や国際税務の相談を引き受ける。自分の顧問先を個別に増やすのではなく、提携先の事務所がグリップする多数の企業の課題を、必要な場面で解決していく。この形が、平井氏の働き方に合っている。

これからのビジョン

今後3〜5年を見据えて、平井氏が口にするのは規模拡大ではない。

「収益を伸ばすことよりも、自分がやりたい仕事、やりたいことができる時間をつくることが一番大事です」

自身の実務経験やステータスを評価してくれる企業に対して、真摯に取り組む。案件を選べる立場だからこそ、一つひとつの信頼を丁寧に築いていく。MBAで学んだ学友からの紹介のほか、資格やメディア・出版を通じて広がったご縁を大切にしながら、平井氏は自分らしい経営を続けていく。

会社概要

  • 会社名:Yuki H1合同会社
  • 代表者:代表 平井 信行
  • 事業内容:税務コンサルティング、経営コンサルティング、セミナー・講師業(国際税務・税務調査対応を中心に、提携税理士事務所等への支援・セカンドオピニオンを提供)
  • 代表者略歴:大阪国税局に36年3か月在籍。査察部・調査部などで大企業の税務調査に従事。大阪国税局調査第二部統括国税調査官を最後に定年退職。神戸大学大学院で経済学修士、英国国立ウェールズ大学大学院トリニティセントデイビッドでMBA(経営学修士)を取得するとともに、CFE(公認不正検査士)やAFP(ファイナンシャルプランナー)等の資格を取得。現在は平井信行税理士事務所での顧問業に加え、Yuki H1合同会社社長(CEO)として従事。米国マサチューセッツ州立大学大学院MBAフィナンシャルアカウンティング講師を経験後、現在、英国国立ウェールズ大学大学院トリニティセントデイビッドでMBAアカウンティング講師も務める。
Yuki H1合同会社 代表 平井 信行

編集後記

36年を国税の最前線で過ごし、定年後にあえて「自分のスキルを試す」道を選んだ平井氏。その語り口はどこまでも穏やかで、実績を誇示する気配はない。従業員を持たず、案件を選び、やりたい仕事に時間を注ぐ──その働き方は、キャリアを積み重ねた人が次の段階で何を大切にすべきかを静かに問いかけてくる。セカンドキャリアを模索する多くのビジネスパーソンにとって、平井氏の歩みは一つの確かな道標となるだろう。

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