福岡出身で、大手SIerでSAPコンサルタントとしてキャリアを積み、2020年に独立したグランパスコンサルティング株式会社の大平祐輔氏。SAPコンサルティング・結婚相談所・学習塾という一見バラバラな三つの事業を手がけながら、その根っこにあるのは「みんなが楽しいかどうか」というシンプルな問いだ。売上やノルマではなく、多様な人が自由に集まる“おもろい会社”を目指す大平氏に、独立の経緯と経営観を聞いた。
「逃げ」から始まった独立
大平氏のキャリアは福岡に生まれ、大学進学を機に上京。中央大学を卒業後、大手SIerのSCSKに入社し、そこでSAPコンサルタントとして約12年を過ごした。SAPの領域には一貫して携わり続けてきた。
独立のきっかけを尋ねると、大平氏はやや照れながら率直に語る。「会社は好きだったんですけど、だんだん息苦しさを感じるようになってきて。一人のほうが身軽かなという感じで、自分だけの会社を作ろうというのが最初のスタートでした」。
事業を大きくしたい、独立して何かを成し遂げたい——そんな野心が出発点だったわけではない。「どちらかというと逃げからのスタートみたいなところ」だったと本人は言う。転職も考えたが、他社に移るより「自分の会社のほうが気楽にやれる」と判断した。やることを変えるのではなく、働き方を変える。その選択が、2020年の起業につながった。
SAPを軸に、三つの事業を展開する
現在の中心事業はSAPコンサルティングだ。大平氏自身が企業のシステム導入に携わるほか、フリーランスの人材に案件を紹介し、ともにプロジェクトを進める形をとっている。
顧客は大手コンサルファームや大手SIerが中心で、その先にいるのはほとんどが上場企業だ。「SAPは導入に数十億から数百億かかるようなソフトウェア。それを払えるとなると、やはり上場企業でないと難しい」。おのずと単価は高くなる。
競合との違いを尋ねると、大平氏は「技術力の高い人、スキルの高い人が多い」ことを挙げる。業界に長くいるぶん人脈が広く、優秀な人材とのつながりを持てるのが強みだという。加えて、SNSやYouTubeなど複数の媒体で発信を続けており、認知の広さも武器になっている。
SAPと並行して、結婚相談所と学習塾(フランチャイズ)も運営する。一見脈絡のない三事業だが、大平氏の中では一本の線でつながっている。
すべての事業に通じる「課題・原因・解決策」
顧客と向き合ううえで大切にしていることを問うと、大平氏はこう答えた。「その人の課題が何で、原因がどこにあって、どう解決するか。それを常に考えて提案するところですかね」。
この視点は、事業の種類を問わず共通しているという。「学習塾なら成績が伸びない、結婚相談所なら結婚するには、と、人それぞれ抱えている課題がある。それをどう解決できるかを考えるのは、全部の事業で一緒なんです」。手法は事業ごとに変わっても、根本は変わらない——三つの事業を束ねているのは、このコンサルティングの思想だ。
「楽しいかどうか」が一番大事
経営で最も大切にしている考え方を尋ねると、返ってきたのは意外なほどシンプルな言葉だった。「みんなが楽しいかどうかが一番大事かな、という感じですね」。
ノルマはなく、売上や実績を第一に追う会社ではない。「みんなが楽しかったらOK」という緩やかさは、息苦しさから独立した大平氏自身の原点にも重なる。「みんなの夢や目標が叶えられたらいいなと思っているので、そういう意味で、みんなが楽しく過ごせたらいいんじゃないかなと。私もそれで楽しいんです」。
働くメンバーとのコミュニケーションも意識してとっている。会社に人が合わせるのではなく、人に会社が合わせる。それが大平氏のスタイルだ。「高卒でもOKだし、スーパーハイスペックな人もいる。いろんなバックグラウンドの人がいて、全然自由です」。多様な人が集まる、あえて言えば“まとまりのない”組織を、大平氏はむしろ面白がっている。
採用という課題と、「自分で育てる」への転換
一方で、代表になってからの最大の苦労は採用だと打ち明ける。従業員は約30人いるが、全員が業務委託かアルバイトという構成だ。過去にはフリーランスから正社員採用へ切り替えた時期もあったが、うまく続かなかった。会社のあるべき姿を模索しながら、試行錯誤を続けてきた。
そのうえで大平氏がたどり着いたのは、「自分で育てる」という方向だ。「求める人を採用するのは難しいと少しずつ分かってきた。だったら育ててみようかなと」。
そのヒントは、自社の平均年齢の若さと、学習塾事業にある。学習塾で教えた生徒がアルバイトとして加わり、やがて正社員として入ってくれる——そんな循環が、大平氏の描く理想だ。
数字より「おもろさ」を——3〜5年後に目指す姿
今後の展望について、大平氏は「売上的な目標は一切ない」と言い切る。代わりに見据えているのは、事業をまたいだ人の循環だ。「学習塾に通ってくれた生徒が、うちの会社でアルバイトして、正社員で入ってくれる。それがどんどん広がっていくと、おもろい会社になるんじゃないかなと」。
数字よりも“おもろさ”。自分が教えてきた子どもたちが自社で働く姿を、大平氏は素直に「楽しそう」と語る。
最後に、経営者である読者へのメッセージを尋ねると、大平氏はこう結んだ。「うちはB2Bの側面もあって、ITコンサルティングの案件を相談されることが多い。案件に参画してくれる会社があれば、ぜひ」。
会社概要
- 会社名:グランパスコンサルティング株式会社
- 代表者:大平 祐輔
- 創業:2020年
- 事業内容:学習塾、結婚相談所
編集後記
「逃げからのスタート」と自らを語りながら、大平氏の言葉には終始てらいがない。売上でもノルマでもなく「みんなが楽しいか」を判断軸に据え、多様な人が自由に集う組織を面白がる姿勢は、これからの働き方のひとつの形を示しているように感じた。課題・原因・解決策という思考の軸で異なる三事業を束ね、教えた子どもが仲間になる循環を描く——数字を超えたところに会社の意義を見出す経営者である。
