株式会社LINPS(代表取締役・常泉隆太郎)は、IT・Webサービスと新規事業開発を主軸に、企業へITのノウハウを届けてきた会社だ。音楽業界の演者から、デザイナー、Webディレクター、不動産ベンチャーを経て起業した常泉氏は、「金額で物事を考えない」という判断軸と、遊び心と創造性を武器に、ありふれた制作の枠を超えた「企画」を生み出そうとしている。本稿では、その歩みと価値観、そして数年先に描く働き方の未来を追う。
演者からデザイナー、そして起業へ
常泉氏のキャリアは、音楽業界の演者としてインディーズデビューしたところから始まる。自分たちのバンドTシャツの作成や、バンドロゴの作成など演者経験のなかで培ったデザインの経験を携え、グラフィックデザイナー/Webデザイナー/DTPデザイナーとして制作会社に入社。やがてWebディレクターを任され、およそ5年をそこで過ごした。
その後は横浜のベンチャー系不動産会社へ移り、Webディレクションや営業企画、新規事業開発を担当。「不動産×Webサービス」という領域に取り組み、3年ほど従事したのち退職する。そして2020年、IT・Webサービスと新規事業開発を主とする株式会社LINPSを立ち上げた。
起業の動機は、率直なものだった。「単純に自分で稼いだほうが金になるし、惜しみなくアイデアを提供できる」と思った。折しくもコロナ禍を目前にした時期で、Webの力がまだ十分にアナログを置き換えきれていない時代でもあった。数多ある企業にITのノウハウやスキルを落とし込み、ITリテラシーを高めていく——その概念を広げていくことに、常泉氏は照準を定めた。
遊び心と創造性を、価値に変える
LINPSには、明確な理念(VMV)がある。ビジョンは「革新的な企画とITの力で、常に一歩先を進む世界を作り上げる」こと。ミッションは、エンドクライアントの揺るがない思いをもとに、その「変えたい未来」を創造する手伝いをすること。そして提供するバリューとして、常泉氏は「遊び心と創造性」を挙げる。
「クリエイティブな発想と、そのアウトプットをプロダクト/プロジェクトに落とし込み最大限の効果を提供できる」。そう語る言葉には、単なる受託制作にとどまらない自負がにじむ。
強みは、企画の主体性と方向性にある。「よくありそうなプロダクトやプロジェクトを作るというより、みんなが知らないようなものを作り業界のトップランナーとなるような企画を我が社で一気通貫で作る」。他社がひしめく領域にあって、常泉氏はその独自性を軸に据える。集客は、いまも紹介(リファラル)が中心だ。
悔しさを知る経営
代表就任からの歩みは、平坦ではなかった。創業の翌年、常泉氏は上場企業の役員を兼任する。卸・小売・美容・教育・服飾などを手がけるM&A主体の会社だったが、前例や事例の乏しいなかで、これまで安定して読めていた数値が予測しづらい状況に直面した。
「あまり効果を生めなかった。経営が活発にならない時期で、悔しい思いをした」。二社を同時に走らせる負荷そのものより、思うような成果に届かなかったことに、常泉氏はいまも悔しさをにじませる。
日々の経営判断で拠りどころにしているのは金額ではなく、直感である。受託・支援する案件はプロジェクト主体のものが多く、それが今後どう展開していくか、同業界のどんな動きが活発になっているかを、自分の肌感覚でつかめるか——その直感を何より大切にしているという。
属人化と「右腕」という課題
集客をリファラルで回せている今、常泉氏の目は内部へ向いている。ネックとなっているのは、教育と、社内体制の属人化だ。
「技術職が多く、感覚で勝負している。その感覚を言語化できない人が結構いる」。いわゆる職人気質のメンバーが多いぶん、暗黙知の言語化が難しい。組織はチーム制で運営され、ディレクター、デザイナー、編集者、エンジニア、カメラマンなど制作会社として構成する全てを一気通貫で担うが、営業のフロントに立つのは常泉氏一人だ。
そんな常泉氏の悩みの一つが、自分の分身となり、確認作業や意思決定を任せられる人材——いわゆる「右腕」の不在である。「それができる人を発見したり育てることが現時点での大きな重荷で、ここ数年ずっと悩んでいる」。多くの経営者が通る道を、常泉氏もまた歩んでいる。
5分の隙間にも仕事を——描く働き方の未来
3〜5年の中期で常泉氏が見据えるのは、働き方そのものの刷新である。フルフレックスとパラレルを掛け合わせた働き方を推進し、「電車の移動中や、昼休憩、ドライヤー中のながら作業」でも仕事を提供できる世の中をつくりたいという。
「5分だけでも仕事ができる」そのくらいの感覚でフレキシブルな働き方は、より多様な人を集め、業務を簡略化し、自分たちの専門領域とは離れた人たちにも門戸を開く。「そういう方向性を目指せる企業が、まだ日本には少ない。だからこそ広げ新たな領域に常に挑戦し続けたい」と常泉氏は語る。
事業の立ち位置についても、常泉氏の視線は先を向く。現在は「製作会社」としての性格が強いが、これを「企画会社」へと移していきたいという。洗練された無形商材を最大限の価値として届ける——ただし、大手事業会社の企画のように重厚なものではなく、いろんな人が手を出しやすい、さまざまなアイデアや形、イミ、コト、モノを考えていく方向だ。「コンビニのように、手に取りやすい制作・企画会社として展開できれば、業界のなかでは珍しいポジションになると思っている」。
その発想は本業の外にも及ぶ。海外ではアウトドアのブランドを手がけ、廃棄物を引き取ってアウトドア用品へと生まれ変わらせる取り組みも進めている。既存の枠にとらわれない「一歩先」の企画。それが、常泉氏とLINPSの通奏低音だ。
会社概要
- 会社名:株式会社LINPS
- 代表者:常泉隆太郎
- 事業内容:IT・Webサービス、新規事業開発、企画・制作
- 創業:2020年
編集後記
演者からデザイナー、経営者へ。異色の経歴を持つ常泉氏の言葉には、肩の力の抜けた率直さと、既存の常識を疑う視点が同居していた。「金額で測らない」という判断軸も、「5分の隙間に仕事を」という構想も、根っこにあるのは遊び心と創造性だ。属人化や後継人材という等身大の悩みを抱えながらも、常に「一歩先」を描き続ける姿勢は、変化の速い時代における企画制作会社のひとつの形を示している。
