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正解のない問いに、子どもの声を届ける

大阪出身の石井蒼彩さんが率いる合同会社エークリエイトは、小学生向けのオンラインコミュニケーションスクール「コミス」を運営している。新聞の営業現場で数多くの親子と向き合うなかで芽生えた「子どもが自分の言葉で語れる場をつくりたい」という思い。正解を求めず、一人ひとりの意見をそのまま受け止める教育のかたちと、その先に描く未来を聞いた。

目次

新聞営業の現場で聞こえてきた、親たちの声

石井さんのキャリアで最も長かったのは、新聞販売店での勤務だった。その後、どちらかといえば営業に特化した仕事をしたいと営業会社へ移り、朝日新聞の販売営業に長く携わってきた。

新聞が読まれなくなっていくなかでも、営業先で出会う保護者からは切実な声が届いていたという。

「『自分は新聞を読んできたけれど、子どもにはやっぱり読んでほしい。社会をたくさん知ってほしいから』という声が、本当に多かったんです」

その声にできるだけ応えようと動いていたものの、大手新聞社との取り組みのなかでは、自分の思い通りにできない部分も少なくなかった。やがて所属していた営業会社が事業を畳むことになる。「それなら、自分で責任を負ってでも、本当に必要だと思えることをやりたい」——独立を決めた瞬間だった。

「コミス」——正解のない対話をつくる

現在のメイン事業が、小学生向けオンラインスクール「コミス」(コミュニケーションスクール)だ。子ども向けの新聞記事を教材に、オンラインで自分の意見を他者と語り合う場をつくっている。

いきなり「自由に話して」と言っても、子どもたちは何を話していいか分からない。そこでコミスでは、まず記事を読んで意見をまとめる作文を書いてもらい、それを土台にオンラインで発表し合う。

「同じ記事を読んでいても、話すうちに意見が変わったり、見方が変わったりする。そこで自然にディスカッションが生まれるんです。いろんな化学反応が起きるので、子どもたちも楽しんでくれます」

講師が子どもに知っておいてほしいニュースをスライド形式で紹介し、「これについてどう思う?」と問いかけ、子どもたちが自由に発表していく。石井さんがこの事業で最も大切にしている時間だ。

背景には、石井さん自身の性分もある。バスケットボールを続けてきた石井さんは、息子世代の子どもたちの練習に加わり、顧問の先生が伝えきれない部分を噛み砕いて伝えることもあるという。

「人が成長していく姿を追うのが、昔から好きなんです。たまたま今回は小学生でしたが、教育というところにはずっと関心がありました」

正解を言わない、という関わり方

コミスの根っこにあるのは、「正解論に立たない」という姿勢だ。

数多くの小学生と話すなかで石井さんが感じたのは、自分の意見を語るとき、先生や大人に認められる答えを出そうとする子が多いということだった。たとえば「海にプラスチックのゴミがたくさんある」という記事を読めば、「環境に気をつけないといけない」といった当たり障りのない答えに落ち着いてしまう。

「そうじゃなくて、合っているか間違っているかは一旦置いておいて、自分が本当に思えることを話せる環境をつくってあげたかったんです」

だから講師も、子どもの発言にできるだけ正解を言わない。「いい視点だね」「大人にはない意見だね」と返し、正解・不正解という言葉そのものを場からなくしていく。この関わり方が、子どもが安心して自分の言葉を綴る作文へとつながっている。

自分で走ってほしい——組織づくりの葛藤

エークリエイトには、社員4名とアルバイト3名が在籍する。組織づくりでも、石井さんの姿勢は子どもへの接し方と変わらない。

「社員には『これをしてください』とあまり言わないんです。今の会社に何が必要で、どこをどうすればいいのかを、クリエイティブに考えてほしい。指示を受けて動くのはアルバイトでいい。社員には、僕の指示の外側で『こういうこともできるんじゃないか』と自分たちで走っていってほしいんです」

自分ができないところを社員が持っていてくれればいい。個性から生まれたものは大切だから、どんどん出してほしい——そう考えている。ただ、その自由さに社員が戸惑っている面もあると、石井さんは率直に認める。

いま感じている課題も、そこに重なる。

「会社としては今いけている。でも、この手法のまま5年、10年経ったときに本当に大丈夫なのか。その危機感が、少し足りないのかもしれない」

石井さんは、社員から出てくる意見に反対するつもりはない。面白がって一緒にやっていきたい。それでも「こうしましょうよ」と自ら動く前に、指示を待ってしまう場面が多いと言う。もっと自発的なメンバーが増えていけば——そんな思いを抱いている。

リアルとオンライン、両輪で描く未来

3〜5年後、石井さんが思い描くのは「社会に貢献している会社」だ。

「スタッフが、自分たちのサービスを届けることで社会に役立てている、子どもたちの教育に役立てていると自信を持てる会社にしたい」

いまはオンラインが主軸だが、秋には預かり型の民間学童としてのスクールもオープンさせる予定だという。単に子どもを預かるだけでなく、放課後の時間に探求学習を提供する場にしたいと考えている。オンラインにはオンラインの良さがある。近くに通える場所がない子や、家の近くで人と会う機会が少ない子も入会してくれた。だからこそ、リアルとオンラインの両輪を主軸にしていきたい。

長期の視野でも、石井さんの関心は一貫して子どもに向かう。

「今は子どもに関わることしか考えていません。学童をどれだけ大きくできるか、オンラインの生徒をどれだけ増やせるか。そこだけですね」

最後に、これから出会う保護者へのメッセージを尋ねた。

「子育ては本当に大変です。日本には『親が見ないといけない』という文化がありますが、それはもう何十年も前の話。第三者に頼ることは、恥ずかしいことじゃないんです。むしろ第三者に関わることで、子どもは自立していく。勉強だけがすべてじゃない。学力を活かすには、その根底に人間力が必要です。それを身につけられる場に通うのも、一つのいい方法だと思っています」

会社概要

  • 会社名:合同会社エークリエイト
  • 代表者:石井蒼彩
  • 事業内容:小学生向けオンラインコミュニケーションスクール「コミス」の運営、民間学童(探求学習)の運営

編集後記

新聞営業の現場で聞いた「子どもに読んでほしい」という親の声を、石井さんは正解探しではなく“自分の言葉で語る力”を育てる場へと形にした。正解を言わない、指示をしすぎない——子どもにも社員にも一貫するその姿勢は、時に相手を戸惑わせながらも、一人ひとりの個性を信じ抜く覚悟の表れに映る。学力の土台に人間力を、というまなざしが、これからの学びの選択肢を静かに広げていく。

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