熊本ザ・グローバル学院を運営する株式会社GlocaRise(グローカライズ)の学院長・糸岡天童氏。英検合格に特化した「英語・英検専門塾」という珍しい形態で、熊本の子どもたちに英語を教えている。国家資格の全国通訳案内士を持ちながら、自身は大学受験で英語につまずいた過去を持つ。「英語ができない気持ちは誰よりもわかる」と語る糸岡氏の歩みと、熊本の英語教育にかける思いを聞いた。
神奈川、アメリカ、議員秘書──遠回りの末にたどり着いた英語
糸岡氏の経歴は多彩だ。父が国家公務員だった関係で熊本に生まれ、育ちは主に神奈川県。スラムダンクの舞台としても知られる鎌倉高校を卒業した。
しかし大学受験は失敗が続き、一浪しても合格には至らなかった。転機となったのがアメリカ行きだ。語学学校で1年学んだのちミネソタ州の大学に合格し、4年間を過ごす。合わせて5年間の海外生活が、後の英語講師としての土台となった。
帰国後は議員秘書を務めるが、政権交代で仕えていた議員が落選し失職。熊本へ戻る。ハローワークで見つけた結婚式場のウェディングプランナーとして5年間営業に携わり、最終年には全国に支店を持つ大手企業で売上約2億円を達成。全国一位を記録した。
父からの独立、そしてコロナ禍でのスタート
英語を教える仕事に就いたのは、英語関係の仕事をしていた父のもとで教え始めたことがきっかけだった。やがて経営方針の違いから約6年前に独立し、今の学院を立ち上げる。当初は友人が率いるグループ会社の一角でのスタートだったが、その友人が代表を退くことになり、約2年前に資本も含めて完全に独立した形態へと移行した。
学院のオープンは2020年4月1日。奇しくもコロナ禍の始まりと重なったが、事業はスタートから右肩上がりで推移してきたという。現在は法人として3期目を迎えている。
「教えること以外に、塾には意外と多くの業務があるんです」と糸岡氏。事業を拡大していくうえで最大のネックと感じているのが、自分の「右腕」となる人材づくりだと明かす。
「英検専門塾」という差別化
数ある英語塾のなかでも、糸岡氏の学院は「英検専門塾」を掲げる点で際立っている。
「英語塾はいくつもありますが、英検に特化した専門塾はほとんど聞きません」と糸岡氏は語る。背景には、出願資格として英検の級を求める大学が増えている現実がある。志望校は決まったが英検の級が足りない、しかも期限が迫っている──そうした切実なニーズを抱えた受験生が毎年一定数いるのだ。
糸岡氏自身の資格と経験も、大きな強みとなっている。国家資格である全国通訳案内士に3年前に合格。この試験は長い歴史を持つ難関で、熊本在住の合格者としては歴代でもごくわずかだという。5年間のアメリカ在住経験と難関資格の両方を併せ持つ講師は、熊本県内でも極めて希少だ。
さらに糸岡氏が強調するのは、「英語ができなかった経験」そのものが指導の武器になっているという点だ。
「私は大学受験で失敗した原因が英語でした。苦手なところからここまでやってきて、資格も取った。だから、学習者がどこでつまずいて、どうすれば克服できるのか、経験ベースでわかるんです」
英語ができない子どもの気持ちに寄り添える──それが紹介による生徒の広がりにつながっていると、糸岡氏は手応えを語る。
求めるのは「英語力」と「人間性」を併せ持つ人
現在のスタッフは糸岡氏を除いて5名。海外経験があり英語の資格をしっかり持つ人材に恵まれているが、いずれも学生アルバイトで、常駐する社員がいないことは課題だと感じている。
「きちんと社員を入れて、自分の右腕として任せられる人をつくっていかなければいけない。それを今、痛切に感じています」
求める人材像は明快だ。自分で勉強ができること、英語の資格を取れること、そして子どもにわかるように説明できること。糸岡氏いわく、この三つは「似て非なる技能」だという。指標のひとつとして英検2級以上、TOEIC700〜800点程度の基礎があれば伸ばしやすいとしつつ、最も重視するのは英語力と人間性の両立だ。
「子どもにも好かれ、保護者にも信頼される。人間性と英語力を併せ持つ人はなかなかいません。でも、そういう方がいれば本当に嬉しい」
教育者としての、生涯をかけた挑戦
今後3〜5年の展望として、糸岡氏には具体的な構想がある。実は父も英語専門塾を営む同業者で、74歳になった今も現役だ。かつては経営方針の違いもあったが、現在は和解しており、いずれまた力を合わせられればという思いを抱いている。
その背景には、熊本の英語教育が置かれた厳しい現実への危機感がある。文部科学省の調査では、熊本の中学生の英語力は全国でも下位に位置し、高校生に至っては全国最下位だという。一方で台湾の半導体企業の進出など、熊本の国際化は急速に進んでいる。
かつて糸岡氏は、ある事業家に「あなたは教育をしたいのか、ビジネスをしたいのか」と問われ、答えに詰まったことがあるという。時間をかけて考え抜いた末にたどり着いた答えは、はっきりしていた。
「行き着く先は、やっぱり教育なんです。もちろんビジネスが必要なのは重々承知していますが、この思いがすごく強い」
集客面では口コミ・紹介とホームページがおよそ半々。近年はAI検索への対応(AIO)や公式YouTubeの活用など、新しい発信手段の強化にも取り組んでいる。
「熊本のこの状況を変えたい。英語を通じて、未来の子どもたちのために一緒に頑張っていける方と出会えたら、これほど嬉しいことはありません」
会社概要
- 会社名:熊本ザ・グローバル学院 株式会社GlocaRise(グローカライズ)
- 代表者:学院長/代表取締役 糸岡 天童
- 事業内容:英検合格に特化した英語専門塾の運営
- 創業:2020年4月
編集後記
遠回りとも言える経歴の一つひとつが、いま「英語ができない子どもに寄り添える講師」という唯一無二の強みに結実している。難関資格を持ちながら、自らのつまずきを隠さず語る姿に、教育者としての誠実さがにじむ。全国最下位という熊本の英語教育の現実を、当事者として静かに、しかし確かに変えようとする糸岡氏の歩みに注目したい。
