株式会社ITSは、電気工事を軸にマンションの大規模改修から排水管洗浄まで幅広く手がける、神奈川発の会社だ。代表取締役の市川武士氏は、東急コミュニティでの勤務を経て独立。「ごまかさない」という一点を貫きながら、事業の裾野を広げてきた。職人の世界で誠実さを積み重ねてきた経営者の言葉には、派手さはないが確かな重みがある。
職人から経営者へ——独立までの道のり
市川氏のキャリアは、高校卒業後の就職から始まる。最初に勤めたのはマンション管理会社の東急コミュニティ。その後、電気工事店へと移り、職人としての経験を積んだ。
転機となったのは、前職の東急コミュニティから「仕事をしないか」と声がかかったことだった。2009年、市川氏は個人事業主として独立する。
「いろいろあって、独立に至った感じですね」
東急コミュニティとの縁は今も続いており、一時期は「そこしか工事をやっていない」時期もあったという。取引先との関係を大切にする姿勢は、独立当初から一貫している。
「市川電機」から「ITS」へ——事業を広げるための社名
個人での事業を2年続けた後、2011年11月11日に法人化。株式会社ITSが誕生した。「1」が並ぶ縁起のよい日付を、市川氏はあえて選んでいる。
社名には明確な狙いがあった。当初は「市川電機」として定款に入れることも考えたが、それでは電気工事店のイメージに固定されてしまう。アルファベットの「ITS」とすることで、建築や飲食など、幅広い事業を展開できる余地を残した。
その狙い通り、事業は電気工事を軸としながら多岐に広がっている。取締役に建設業許可を数多く持つ人材が加わったことで、マンションの大規模改修といった建築工事も増加。最近では排水管洗浄など、新たな領域にも踏み出している。
「できないことがない、という感じかな。基本的に依頼された内容で、教示が違わなければ、もうできてしまう」
多くの工程を自社で完結できることが、ITSの現場力を支えている。
誠実——ごまかさないという一点
経営で市川氏が大切にしているのは、「誠実」の二文字だ。
「要はごまかさない、ということですね。仕事の内容も、工事の金額に関しても全部そうなんですけど、いくらでもごまかそうと思えばできてしまうじゃないですか。だから、そこは誠実にやる」
工事という仕事は、専門知識のない相手にはその中身が見えにくい。だからこそ、金額にも施工内容にもごまかしを持ち込まない。ミスがあれば逃げずに向き合う。事故を起こさないことはもちろん、「話が違う」というクレームを生まないためにも、誠実さは欠かせないと市川氏は語る。
「ちゃんと向き合ってやっていれば、クレームにはならないんですよね」
取引先からの依頼や紹介が途切れないのは、この基本を積み重ねてきた結果なのだろう。
人を育て、任せられる組織へ
代表就任後、市川氏が最も苦労してきたのは「人」だという。若い人材が入ってもなかなか定着しない——その繰り返しに直面してきた。
一時は従業員を20人規模まで増やそうと考えた時期もあったが、方針を転換。人員を無理に増やすより、下請けを活用したほうが早いと判断した。それでも、現場が増えれば人手も必要になる。市川氏は「人がいれば増やせる」と、組織拡大の余地を見据えている。
採用で求めるのは、特別なスキルよりも「辞めない人」。
「別に辛いわけじゃない。むしろ楽なほうだと思うんですよね。ちょっと頑張れば、嫌なことも乗り越えられる」
今後の組織課題は人材育成だと市川氏は明言する。仕事を任せられる人を一人でも多く増やしていくこと。それが会社の次の成長を左右する。
もう一つの柱をつくる——3〜5年後の展望
現在の主力は電気工事だが、市川氏は次の成長エンジンを模索している。
「今、電気がメインなんですけど、建築のほうと新事業じゃないですけど、そういう話もありそうで。規模を大きくしてやっていこうかなと思っています」
目指すのは、3〜5年のスパンで「もう一つの違う柱」をつくること。建築分野の大規模改修や解体といった案件に加え、工事の中間に立って調整役を担うような新しい業態の可能性も探っている。周囲からさまざまな話が持ち込まれるなかで、形になりそうなものを見極め、着実に育てていく構えだ。
電気という既存の柱を走らせながら、新たな柱を立てて事業を分散させる。そのバランス感覚こそが、市川氏の描く次の一手である。
会社概要
- 会社名:株式会社ITS
- 代表者:代表取締役 市川 武士
- 事業内容:電気工事、建築工事(マンション大規模改修等)、排水管洗浄ほか
- 創業:2009年(個人事業として独立)/2011年11月11日 法人設立
- 従業員数:5名
編集後記
「強みは特にない」と市川氏は言うが、話を聞けばその言葉の裏に、依頼にはまず応えるという職人としての矜持と、金額にも施工にもごまかしを持ち込まない誠実さが一貫して流れていることが分かる。派手な言葉で自社を飾ることをしないその姿勢こそが、取引先の信頼を長く支えてきたのだろう。電気から建築へ、そしてまだ見ぬ次の柱へ——静かに、しかし着実に歩みを進める経営者だった。
