アメリカでネイリストとして技術を磨き、一軒の自宅サロンから歩み始めた内田真理さん。いま滋賀の地で、ネイルサロン3店舗にカフェ・バーを加えた「ISY 合同会社」を率いている。「経営者になるつもりはなかった」と語る内田さんを会社設立へと動かしたのは、ひとりの技術者への思いだった。ネイリストという仕事の地位を引き上げ、女性が胸を張って働ける場所をつくる——その哲学と、これから描く大きな構想を伺った。
アメリカでの修業から、独立、そして法人化へ
内田さんのキャリアは、アメリカでネイリストになったところから始まる。現地でネイリストとなり、ネイルサロンで4年間勤務。技術を積み上げたのち、2010年に独立した。
独立といっても、はじめは大きな構えではない。自宅サロンを開き、個人事業主として一歩ずつ実績を重ねていった。
その延長線上で、2024年8月、法人「ISY 合同会社」を設立する。会社にしたのは事業拡大のためというより、後述するある思いがきっかけだった。現在は社員とアルバイトあわせて複数名の仲間とともに、事業を運営している。
3店舗のネイルサロンと、飲食が支える事業
現在の主軸はネイルサロンで、直営で3店舗を展開する。加えてカフェとバーも手がけ、美容と飲食の両輪で事業を組み立てている。
強みは、立地にある。都市部と違い、この地域にはネイルサロンが少ない。内田さんは近接する市内に3店舗をまとめて構え、地域のシェアをしっかりと押さえてきた。「京都や大阪でやるのとは全然わけが違う」と語るように、競争の激しい都会とは異なる戦い方で足場を固めている。
多店舗化やフランチャイズには慎重だ。ネイルサロンは「お客さんとスタッフが増えれば必然的に店舗も増えていく」ものと捉え、自分の目が届く直営の範囲を大切にする。飲食を無理に広げる考えもない。規模の追求ではなく、質を守る経営がここにある。
「ネイリストを守る」という経営哲学
内田さんの言葉で一貫しているのは、ネイリストという職業への強い思いだ。「ネイリストは美容業界でも地位が低い」「社員扱いで保証してもらえない」。その現実に対して、「女の人が胸を張って、好きなことで会社員でいられることを保証してあげたい」——一人のスタッフを思ったことが、法人化の出発点だった。
その思いは、顧客との向き合い方にも表れる。ネイリストの離職率は高く、一人前に育て上げられることは稀。だからこそ、クレームで技術者が自信を奪われるくらいなら、内田さんは顧客のほうを選ぶ。「一人の技術者を傷つけて自信を奪うぐらいだったら、うちは選らばないで、というスタンス」。お客様を大切にしながらも、守るべき優先順位を明確にしている。
人を育て、送り出す
多くの経営者が独立を引き止めるなか、内田さんは「珍しく独立を推すタイプ」だと言う。同じ志を継いだネイリストが、自分のネイルの会社をやってほしい。そう願っている。
背景には、業界への問題意識がある。安い給料でひたすら働かせ、技術者を「コマのように」扱う店も少なくない。内田さんはその逆をいく。チェーン店で大切にされてこなかった子ほど、丁寧に育てる。「そういうネイルサロンの代表が増えていけば、ネイリストの離職率も減るし、もっと胸を張れる職業になれる」。自社の成長にとどまらず、ネイリストという職業そのものの地位向上を見据えている。
田舎から発信する、美と健康の複合施設
3〜5年の先に、内田さんは大きな構想を描く。自身はいまも現場に立つ職人だが、いずれは育てたスタッフに現場を委ね、オーナー業へと軸足を移していく考えだ。
目指すのは、美容と健康に特化した複合施設。ネイルはもちろん、サウナやお風呂、エステ、ヨガやスタジオ、さらに健康食やダイエットサポートまで——「一人の女性が、一つの場所で、健康と美容のすべてが叶う」場をつくることが最終目的だ。カフェやバーも、その「食から入る健康」の一部として位置づけられている。
鍵となるのは「田舎ならでは」の価値だ。落ち着いた環境と自然の恵みを生かし、外側も内側もまとめて美しくなれる場所。「都会の人にも、田舎の美を味わいに来ていただけたら」。地方だからこそ描ける、ゆたかな美のかたちを構想している。
会社概要
- 会社名:ISY 合同会社
- 代表者:内田 真理
- 事業内容:ネイルサロン運営(直営3店舗)、カフェ・バー運営
- 創業:2024年8月(法人設立)
編集後記
「経営者になるつもりはなかった」と繰り返しながら、内田さんの言葉には、技術者への一貫した眼差しが宿っていた。売上や規模ではなく、まず人を守る。その姿勢は、離職率の高いネイル業界にあって、働く人の尊厳を取り戻そうとする静かな挑戦にも見える。田舎から発信する美と健康の複合施設という夢もまた、自らが現場で見てきた課題への、彼女なりの答えなのだろう。
