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日本の美術を、世界のアートの文脈へ――「もの」と「もの」との関係性から新しい価値を生み出す

*「自分たちの思いを形にする」。*

Shinwa Auction株式会社の取締役社長・泉山隆が、仕事を語るときに大切にしている言葉だ。

古美術、茶道具、浮世絵から、明治以降の近代美術、戦後現代美術、そしてコンテンポラリーアートまで。同社が扱う領域は幅広い。さらに、一点の作品だけではなく、長年にわたって築かれたコレクションそのものを読み解き、一括して市場へ送り出す仕事にも強みを持つ。

目次

「もの」と「もの」との関係性から価値を見出す

しかし、話を聞いていると、社長の関心は「何をいくらで売るか」という市場の論理だけにはない。

作品の背後にある人の思い。その作品が生まれた時代。異なる作品同士の関係。そして、日本という文化の中で育まれてきた美意識。それらを丁寧にたどりながら、「もの」が持つ価値をもう一度見つけ直そうとしている。

その姿勢は、長年にわたって美術の現場に立ってきた経験から生まれたものだ。

社長は1990年に前身会社へ入社。営業の最前線で顧客や作品と向き合い、営業部門の責任者、取締役を経て、2023年8月にShinwa Auction株式会社の取締役社長に就任した。

長い年月、さまざまな作品と、それを所有する人たちを見てきたからこそ、作品には価格だけでは測れないものがあると考えるようになった。

一枚の絵、一つの器にも、それぞれの歴史がある。

誰が手に入れ、どのように大切にしてきたのか。なぜその作品を選んだのか。複数の作品が集まれば、そこには所有者の人生や、その時代の文化まで浮かび上がってくる。

だからこそ、同社では一点の作品だけを見るのではなく、コレクション全体を理解することを重視する。有名コレクションの一括セールなどでは、作品を単体の商品として扱うのではなく、その集合体が持つ意味や背景まで含めて市場に伝えていく。

そこには、社長自身の「もの」に対する独特の見方がある。

「もの」の価値は、そのものだけで決まるのではない。

作品と作品、人と作品、コレクションとコレクション、過去と現在。異なる「もの」が出会い、取り合わされることで、それまで見えていなかった意味や魅力が現れることがある。

社長が注目するのは、まさにその関係性だ。

一つの作品を単独で見たときには気づかなかった魅力が、別の作品と並べることで見えてくることがある。一つのコレクションを紐解くことで、その時代の文化や持ち主の人生が浮かび上がることもある。

「もの」の価値は、固定されたものではない。

人や時代、文化との関係の中で、新たな価値が生まれる。

この考え方は、社長の美術観であると同時に、経営そのものにも通じている。

文化を「つながり」として捉える

社長が美術を考えるとき、いつもその背景には「文化」という大きな視点がある。

数学者・岡潔は、自然や人との関わりの中に生まれる「情緒」を、文化の根底にあるものとして捉えた。社長もまた、美術を単なる「もの」ではなく、人の心や暮らし、自然、歴史との関わりの中から生まれるものとして考えている。

日本の文化には、自然との関わり、季節感、余白、素材を生かす感覚など、長い時間をかけて培われてきた美意識がある。

それは絵画や工芸だけに存在するものではない。

浮世絵、建築、文学、食、ワイン・リカー、ウイスキー、ジュエリー、時計、さらには漫画やサブカルチャーまで。異なる分野に目を向けていくと、日本の文化に共通する感覚や価値が見えてくる。

日本のウイスキーが世界的に評価されるブランドになったことも、その一例だという。

「美術だけを特別なものとして考えるのではなく、文化全体の中で考えていきたい」

そこには、美術市場だけを見ていては新しい価値は生まれないという考えがある。

異なる分野が交われば、新しい見方が生まれる。異なる文化が出会えば、新しい価値が生まれる。

これは、社長が大切にする「取り合わせ」という発想にもつながっている。

オークションは、価値を社会へ出す仕組み

では、なぜオークションなのか。

社長にとってオークションは、単に作品を売るための場所ではない。

誰かが長年大切にしてきた作品が、市場に出ることで新しい人と出会う。多くの人がその作品を見ることで、これまで所有者の中にあった価値が社会に開かれる。そして、競りという仕組みを通じて市場の評価が価格として可視化される。

落札された作品は、次の所有者のもとへ渡り、そこでまた新しい物語を始める。

つまりオークションとは、価値を「交換」するだけではなく、価値を「循環」させる仕組みでもある。

社長が目指しているのは、その経済システムとしてのオークションの力を、美術や文化のためにもっと活用することだ。

「売る」ことだけを目的にするのではなく、心の中にあった価値を社会につなぎ、新しい出会いをつくる。

その発想に立てば、オークションとプライベートセールのどちらが優れているという話ではない。

広く市場に問いかけることで新しい価値を発見できる作品もあれば、特定のコレクターに丁寧に紹介するほうが、その作品にふさわしい場合もある。

大切なのは方法ありきではなく、「この作品、このコレクションにとって、どのような出会いが最もふさわしいのか」を考えること。

それが、社長の考えるこれからのオークション会社の役割である。

AIの時代だからこそ、「もの」は強くなる

一方で、AIやITによって情報が瞬時に伝わり、あらゆることが効率化されていく時代に、美術市場はどう変わっていくのか。

社長の答えは意外なほどシンプルだ。

「だからこそ、実際の『もの』が重要になる」

画面では伝わりきらない作品の大きさ、質感、素材感。実際に作品の前に立ったときに感じる存在感。人と人が直接会い、一つの作品について語り合う時間。

デジタルによって情報が増えれば増えるほど、実際に触れ、見て、感じることのできる「もの」の価値はむしろ高まっていく。

社長は、これからの時代を「心の時代」と捉えている。

情報があふれる時代だからこそ、人が何に心を動かされるのかが重要になる。

美術は、その問いに向き合うことのできるものだ。

日本の美術を、世界の文脈へ

そして、社長が次に見据えているのが、日本の美術を世界のアートの文脈の中で捉え直すことだ。

日本の美術を、日本国内だけで完結させない。

古美術や茶道具、浮世絵、近代美術、戦後現代美術、コンテンポラリーアート。それぞれの専門性を守りながら、その垣根を越えて日本で育まれてきた文化や美意識を捉え直す。

そして、それを海外のコレクターや世界の美術市場へ伝えていく。

振り返れば、浮世絵は19世紀のヨーロッパの芸術家たちに大きな影響を与えた。日本の美術は、もともと世界の芸術と交わりながら新しい表現を生み出してきた歴史を持つ。

だから、日本の美術を「日本の美術」という枠の中だけで語る必要はない。

世界の美術史や文化の流れの中に置いてみることで、これまで見えていなかった価値が見えてくる可能性がある。

社長が感じているのは、日本の美術には、まだ世界のアートの文脈の中で十分に語られていない価値があるということだ。

その価値を発見し、背景にある文化や歴史まで含めて伝え、新しい評価につなげる。

それが、これからのShinwa Auction株式会社に求められる役割だと考えている。

「自分たちの思いを形にする」

社長の経営観を聞いていると、そこには一貫した姿勢がある。

専門性を持つこと。

しかし、専門の領域だけに閉じこもらないこと。

自分の担当だけを見るのではなく、周囲の仕事にも関心を持ち、互いの仕事をつないでいくこと。

前向きであること。そして、分からないことを分からないままにせず、学び続けること。

そこには、思いやりや謙虚さを大切にする組織文化もある。

一人ひとりが自分の領域に責任を持ちながら、会社全体として作品や顧客に向き合う。

それは、社長自身が長い営業経験の中で培ってきた、人と人との関係を重視する姿勢とも重なる。

「自分たちの思いを形にする」。

この言葉は、単なる企業スローガンではない。

目の前の作品をどう見るか。お客様の大切なものをどう扱うか。社員同士がどう仕事をつなぐか。そして、日本の美術をこれから世界にどう伝えていくか。

その一つひとつの判断の根底にある考え方なのだろう。

長年大切にされてきた作品やコレクションには、金額だけでは測れない意味がある。

だからこそ、「売るかどうか」を最初から決める必要はない。

その作品にはどのような価値があるのか。残すのか、次の世代へつなぐのか。オークションなのか、プライベートセールなのか。

まず作品を見せてもらい、一緒に考える。

その先にあるのは、単なる売買ではない。

作品と作品、人と作品、文化と文化、過去と現在。

さまざまな「もの」と「もの」との出会いから、新しい価値を見つけ、それを次の人、次の時代へつないでいく。

*「もの」と「もの」との関係性から新しい価値を生み出す。*

その価値を日本の中だけにとどめず、世界のアートの文脈へつないでいく。

それが、Shinwa Auction株式会社のこれからであり、その舵を取る社長が描いている未来である。

会社概要

  • 会社名:Shinwa Auction株式会社
  • 代表者:泉山 隆(取締役社長)
  • 事業内容:古美術・茶道具・浮世絵から、明治以降の近代美術、戦後現代美術、コンテンポラリーアートまでを扱う美術品オークション業。ワイン・リカー、ウイスキー、ジュエリー、時計なども取り扱う
  • 所在地:東京都千代田区丸の内二丁目3番2号 郵船ビルディング 1F・2F

編集後記

取材を通して印象に残るのは、泉山氏が「もの」を市場の論理だけで語らないことだった。作品の背後にある人の思い、それが生まれた時代、そして日本という文化。その関係性の中から新しい価値を見出そうとする視線は、静かでありながら確かな熱を帯びている。日本の美術を世界のアートの文脈へとつなごうとするその姿勢は、業界の枠を越えて多くの示唆を与えてくれる。

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