株式会社ビットストロングは、画像処理ソフトウェアの開発から出発し、いまは医療・産業の現場向けに計測・検査機材を届ける技術者集団だ。カメラやX線・赤外線といった「画像」を軸に、他社が敬遠するほど多品種・少量の専門領域へあえて踏み込んでいく。代表の門(モン)洪涛氏に、四半世紀にわたる歩みと、これから切り拓こうとしている専門分野について聞いた。
画像専門ソフトから始まった創業
門氏のキャリアは、中国の大学を卒業後、日本の大学院で修士・博士課程を修めたところから始まる。その後、日本の企業に十数年勤めたのち、自らの会社を立ち上げた。以来、経営者としての歩みは20年を超える。
創業のきっかけは、画像専門のソフトウェアを扱う会社に身を置いていたことにある。当時はフィルムやインスタント写真といった、いわゆる「写真屋さん」の世界。時代の移り変わりとともに業界を取り巻く環境は縮小に向かい、勤務先でも希望退職の募集が出た。門氏はそれに応募し、新たな一歩として自身の会社を興した。
「画像専門でやっていた」という原点は、いまもビットストロングの背骨として残っている。
リーマンショックとコロナ——二度の転機
会社は順風満帆に進んだわけではなかった。人材を求められればエンジニアを集め、SES事業を軌道に乗せて事業を拡大。社員は100人を超える規模まで伸び、オフィスも手狭になって毎年のように引っ越しを重ねた時期もあった。
流れを変えたのがリーマンショックだ。大手からの受注が細り、下請け中心だった事業は大きく揺らぐ。「このままでは難しいかもしれない」という局面まで追い込まれながら、門氏はここから自社パッケージ・自社製品を売っていく方向へと舵を切った。だが特殊で専門性の高い製品はそう簡単には売れず、十数年にわたって苦しい時期が続いたという。
「頑張っても頑張っても、なかなか売れなかった」。その言葉には、長い雌伏の重みがにじむ。
潮目が変わったのはコロナ禍だった。もともとカメラ業界に身を置き、サーモグラフィーを扱っていたことが幸いする。体温を測るサーモグラフィーの仕入れルートを持っていたことで、一気に製品が動き出したのだ。それまで売れ悩んでいた特殊な専門製品から、より生活に近い領域へと品目を広げ、築いてきた販売ルートに乗せてさまざまな製品を届けられるようになった。
ECを軸にした専門特化の販売網
現在、販売の柱はECにある。とはいえ、いわゆる一般消費者向けのモールではない。自社のECサイトに加え、専門分野に特化した業界モールへの出展が中心で、売上の約7割をECが占める。
出展先は、工場・産業向けの調達サイトや、医療・研究向けの専門モールなど。長年培ってきた取引先との関係や販売ルートが、その基盤になっている。門氏が見据えるのは、この専門性をさらに深掘りしていく方向だ。
「専門分野に切り込んでいくときにこそ、うちの力が発揮できる」。汎用品では埋もれてしまうからこそ、医療の中のより細分化された領域や、農業といった新たな専門市場へと、既存市場から新規市場を自ら開拓しようとしている。
医療と産業、二つの現場を貫く画像技術
ビットストロングの顧客は、大きく二つの領域にまたがる。
ひとつは医療分野だ。病院やクリニック、介護施設、ドラッグストア、製薬会社、そして実験室やラボといった研究の現場まで幅広い。ただし門氏が強調するのは、医療サービスそのものではなく、工学的な医療機器への強みである。
もうひとつは産業・生産の現場だ。工場での画像系検査、良品・不良品を見分ける検査など、画像ソフトウェアはここでも生きる。検査装置を手がける装置メーカーへ画像ソフトを供給してきた実績から、いまは装置向けのパーツ供給も担っている。医療機器もある意味では「ものづくりの現場」であり、両者は画像技術という一本の線でつながっている。
種類の多さこそが強みであり、壁でもある
門氏は自社の特徴を「強みでもあり、弱みでもある」と率直に語る。
高度な技術を要する製品群でありながら、社員にとってはその扱いが自然と身についている。一方で、専門分野が多岐にわたり、しかもそれぞれの品目は種類が多く量が少ない。輸入ひとつをとっても、同じ荷の中におびただしい種類の製品が混在するため、通関を担う業者からも敬遠されるほどだという。
「みんなが嫌がるような商売」——だからこそ他社が容易に参入できず、ビットストロングの独自の立ち位置になっている。医療の中でもさらに細分化された領域へ、専門性はいまも増し続けている。
若い力で、次の基盤をつくる
組織づくりにおいて、門氏がいま最も力を注いでいるのが若手の採用だ。人材採用は自身の重要な仕事のひとつと位置づけ、長期的な視点で若い社員を迎え入れ、会社の基盤を築いている最中だという。
求める職種は、ソフトウェア開発のエンジニア、ハードウェアの設計・保守を担う技術者、そして営業。技術を土台とする会社だけに、技術系人材が採用の中心になる。採用手段も、かつての有料求人サイト中心から、無料の求人媒体やハローワークの活用へと工夫を重ねている。
組織の課題として門氏が挙げるのは、若い社員が増える段階での人事評価の仕組みづくりだ。行政の施策なども取り入れながら、組織的な運営体制の強化に取り組んでいる。
売上倍増と、拡張する拠点へ
今後3〜5年の展望として、門氏は着実な成長率を目標に掲げる。販売が伸びるにつれ在庫が増え、倉庫が手狭になるという「嬉しい悩み」も見えてきた。
そこで見据えるのが、売上を倍にすること、そしてそれを支える人材と倉庫の拡充だ。単なる保管スペースにとどまらず、社員を配置できるオフィス兼倉庫のような拠点として整えていく構想を描いている。長い苦労の時期を越えて、いまビットストロングは次の成長ステージへと足場を固めつつある。
会社概要
- 会社名:株式会社ビットストロング
- 代表者:門(モン)洪涛
- 事業内容:画像処理ソフトウェアの開発・販売、医療・産業向け計測・検査機材の販売、SES事業、システム・アプリ開発
- 創業:2001年
- 社員数:約50名

編集後記
長い雌伏の時期を「頑張っても売れなかった」と淡々と振り返る門氏の言葉には、技術者としての誠実さと、諦めずに専門を掘り下げてきた粘りが同居していた。誰もが敬遠する多品種・少量の領域に価値を見いだし、医療と産業という二つの現場を画像技術で静かに支える——その姿勢は、派手さの陰で社会を動かす「専門特化型企業」の確かな一つの形を示している。
