MENU

マイクロバイオファクトリーが挑む、微生物からの「ものづくり」──資本に頼らず利益を証明する

石油ではなく、微生物の力で化学品をつくる。マイクロバイオファクトリー株式会社は、代表・清水雅士氏がバイオベンチャーでの経験を経て2018年に立ち上げた、化学系バイオ産業のスタートアップだ。ナフサに依存しないものづくりを掲げ、染料をはじめとするパイプライン化合物の実用化に挑む。本記事では、資金ショートの危機を幾度もくぐり抜けながら、「資本先行ではないやり方」でバイオものづくりの成功を証明しようとする清水氏の哲学に迫る。

目次

微生物で、石油に頼らない素材をつくる

マイクロバイオファクトリーが取り組むのは、バイオの技術を使った化学品の生産だ。清水氏はその立ち位置を、化学産業に近い領域だと説明する。

「化学産業では、石油からプラスチックの原材料や燃料などさまざまなものが作られます。それを石油ではなく、微生物の力を使って同じような素材を作り出す。医薬や食品ではなく、化学系のバイオ産業です」

背景にあるのは、石油由来原料であるナフサへの依存から脱却したいという問題意識だ。バイオマスからさまざまな化学品を生み出すことで、ナフサに依存しないものづくりを目指している。関心を寄せる企業は多いものの、すぐに利益が出る事業ではない。だからこそ、短期的なビジネスを求める相手とは相性が悪いと清水氏は率直に語る。

研究者から起業家へ

清水氏のキャリアは、東京理科大学大学院を修了したのち一度企業に就職し、その後バイオベンチャーへ転じたところから本格的に始まった。研究員として、また事業開発の担当として約4年間を過ごし、2018年に独立して現在に至る。

起業の芽は学生時代にあった。

「学生の頃に起業やベンチャーに関する授業を受けて、将来自分で何かやるのは面白いなと感じたんです。もともと興味があったのがバイオや技術系のテーマだったので、一度社会人になって、自分のやりたいことを見つけた上で独立しました」

現在は9期目に入るところ。社員2名と清水氏を合わせた3名の体制で、微生物を仕組み化する技術と、他社が手がけていないパイプライン化合物を強みに事業を進めている。

長く組めるパートナーと、リスクを分かち合う

協業先は化学商社をはじめとする化学系企業が中心だ。染料の分野では、染色工場や繊維商社、アパレルブランドとも接点を持つ。新規の引き合いはホームページからの問い合わせや、知人からの紹介を通じて生まれる。

提案の場で清水氏が重視するのは、相手の需要と自社の技術がかみ合うかどうかだ。

「似たようなことをやる会社はいくつかありますが、うちは他社が持っていないパイプライン化合物を持っています。その化合物に興味を持っていただければ話が進みますし、合わなければそこで終わる。需要と技術がマッチするかどうかです」

そしてもう一つ、清水氏がパートナーに求めるのが時間軸だ。バイオのものづくりは1年や2年で結果が出るものではなく、社会実装まで5年、10年を要する領域だという。上司の交代でプロジェクトの方針がころころ変わるような相手とは組みづらい。長期で伴走できるなら、業種業界は問わない。成果だけを求めるのではなく、リスクもきちんとコミットしてくれる相手を探している。

常につきまとう「お金」という課題

立ち上げから今日までを振り返り、清水氏が「常に苦労してきた」と語るのが資金だ。

「何回も資金がショートしかけました。そのたびに知り合いの方にお願いして、エンジェル的に入れてもらったりして、なんとか乗り切ってきた状況です」

研究開発費は補助金の獲得状況に大きく左右される。まとまった補助金が当たればその分を投じられるが、なければ大幅に切り詰めるしかない。企業との共同研究では、月額で費用を受け取りながら一緒に開発を進める形をとっている。

判断に迷ったときの軸について問うと、清水氏は明確な一本の基準はないとしながら、こう続けた。

「それが役に立つのか、需要があるのか。これを作ることで世の中が良くなるのか。そういうことは常に意識しています」

その根底にあるのは、科学技術で社会課題を解決するという意義だ。一つの技術だけで課題が解決する世の中ではないからこそ、異分野との連携が要になると清水氏は考える。異分野の企業や大学の研究者と協力体制を築くこと。そして資金だけでなく、数千万円規模になる培養・発酵設備を融通し合えるような連携が、開発コストを大きく下げていく。

資本先行ではない道で、成功を証明する

今後3〜5年で清水氏が見据えるのは、バイオインディゴ(藍染料)事業の商用化だ。

「まずはバイオインディゴを使った自社ブランドの製品販売事業を、3年以内に立ち上げたい。5年くらいで利益が出せる体制を整えていきます。自前の商品で利益を出せれば、投資に頼らず自己資金で研究開発を進められます」

一つの化合物で商用化を実現し、その利益で次の化合物のバイオ製品化へ。そうしたお金の流れを自ら作り出そうとしている。

その先に清水氏が描くのは、バイオものづくりの世界における一つの「証明」だ。微生物を使って化学品を生産し、大きな利益を上げている会社は世界的にもほとんどない。ディープテックの業界では資本を先行させ、多額の資金を集めなければ成功しないというのが通説だが、清水氏はあえてその逆を行く。

「まずは利益を出せる会社になる。そうすることで、自分たちのやり方が正しいことを証明していきたい。資本先行ではないやり方で事業を成功させることが目標です」

パイプライン化合物の数を増やし、化学産業の脱炭素化に貢献していく。小さな体制で世界的にも例の少ない道を切り拓こうとするその姿勢に、バイオものづくりの新しい可能性が宿っている。

会社概要

  • 会社名:マイクロバイオファクトリー株式会社
  • 代表者:清水雅士
  • 事業内容:微生物を用いた化学品の生産・研究開発(バイオインディゴ等のパイプライン化合物の実用化)
  • 創業:2018年8月
  • 従業員数:3名(代表含む)

編集後記

資金ショートの危機を幾度もくぐり抜けながら、清水氏の語り口はどこまでも冷静で、地に足がついていた。「資本先行ではないやり方で成功を証明する」という言葉には、流行に流されず、自らの手で持続可能な仕組みを作り上げようとする研究者出身の起業家らしい覚悟がにじむ。微生物という小さな存在から、化学産業の脱炭素という大きな課題へ。その静かな挑戦は、ディープテックのもう一つの歩み方を指し示している。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次