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人が集まる現場をつくる――事業承継から始まった尾松慎介の経営哲学

大阪を拠点に建設業を営む日匠テック株式会社の代表・尾松慎介氏は、大手ハウスメーカーで営業設計・トップセールスを経験した後、妻の父が経営する建設会社を事業承継した。「売上目標より、人間関係のいい職場をつくること」を信念に掲げ、現在は19名の組織を率いる。CLT工法(大型木造パネル工法)という先進技術にも挑みながら、ゆるやかに、しかし着実に成長を続ける同社の歩みと尾松氏の経営哲学を紹介する。


目次

建築への入口――父のひと言が変えた進路

大阪・吹田出身の尾松氏は、幼いころから車が好きだった。高校時代、数学と美術が得意だったこともあり、「車関係の仕事に就きたい」と考えていた。転機をもたらしたのは父親の言葉だった。

「衣食住が安定していた時代に、数学と美術が活きる仕事として建築を勧められました。言われてみれば確かにそうだなと」

父の助言に納得した尾松氏は大阪工業大学建築学科へ進学。大学は理系色が強く、ほぼ男子校のような環境だったと笑いながら振り返る。勉強よりも人との出会いを求めてサークルを立ち上げ、充実した4年間を過ごした後、いよいよ就職活動へと踏み出した。

パナホーム(現パナソニックホームズ)での原体験

就職活動では「お客さんと一緒に家のプランを考えたい」という一点にこだわった。多くのハウスメーカーを訪ね歩いたが、示される配属先は設計部か工事部ばかりだった。

そんな中、パナホームだけが「昨年立ち上げたばかりの営業設計部」を持っていた。「これがドンピシャでやりたいことでした」。他社の内定をすべて断ってパナホームに絞り込み、懸命にアピールして内定を勝ち取った。

しかし入社直前、配属先が工事部だと知らされる。強い落胆を感じた尾松氏は担当の総務担当者に率直に思いを伝えた。そのひと言が社長の耳に届き、入社式では希望通り「営業設計部」として紹介された。

営業設計として経験を積んだのち、固定給への物足りなさをきっかけに営業職へ転換。「1年目からトップセールスを記録しました」と述べるように、着実に実績を重ねていった。

事業承継という転機――義父の会社を引き継ぐ決断

パナホームに勤める中で出会ったのが、現在の妻だった。結婚の挨拶で妻の父親と話すうち、義父が建設業を営んでいること、後継ぎがいないことを知る。当時は承継など考えもしていなかったが、義父は「娘を幸せにしてくれるなら構わない」と後継ぎにはこだわらない姿勢を示した。

年月が経つにつれ、大企業の中での働き方に違和感を覚えるようになった。「自分なりの意見や考えを上げても、なかなか反映されない。だんだんと気持ちが離れていく自分がいました」。資格を取得したころ、義父の会社が経営的に厳しい状況にあると耳に入り、承継を申し出た。

承継後は約1〜2年間、まず現場監督として現場経験を積むよう求められた。かつて「3K(きつい・汚い・危険)」として敬遠していた現場の仕事だったが、飛び込んでみると印象は一変した。

「大学で本で覚えたことが、現場でどんどんつながっていくんですよ。職人さんたちも意外と優しくて面白い。3Kというイメージは完全に払拭されました」

公平な評価と、息抜きを大切にする職場づくり

現在、日匠テック株式会社は役員2名(尾松氏と妻)、従業員17名の計19名体制で運営されている。組織づくりにおいて尾松氏が大切にするのは「平等」ではなく「公平」という考え方だ。

「20代、30代、40代では、できることの幅が違う。それを円の大きさに例えると、同じゴールに向かっても、小さい円の人ほど多く回転しないと辿り着けない。若い子がたくさん頑張っている、その回転数をちゃんと見てあげたい」

具体的には賞与で若手の貢献度を厚く評価する仕組みを導入している。ベテランが2ヶ月分のところ、頑張った若手が3〜4ヶ月分を受け取れるようなバランスをとっているという。

また「手を抜くのは良くないが、息は抜いていい」というのが尾松氏の信条だ。自分の代になってからの退職者はわずか1名で、そのうちの1名は退職後に戻ってきた出戻り社員だという。人が定着する職場の背景に、この公平さへのこだわりがある。

ゆるやかな成長と、目指す50名体制

「売上目標を高く掲げてお尻を蹴飛ばすような経営は、自分には合わない」と尾松氏は明言する。承継後は「年間1億円の積み上げ、年間1名の増員」を目安に着実に成長させてきた。数年前からようやくそのペースに乗り始め、現在の19名体制に至る。

将来の目標は50名規模の組織だ。「みんなで集まって何かするのが好きなんです。キャンプでもバーベキューでも。そういう人の集まりをもっと大きくしていきたい」。売上より先に、人が集まる場所としての会社を語る姿が印象的だった。

「みんなやるべきことは分かっている。一生懸命やってもらえれば、売上も人も必然的についてくる」

CLT工法という挑戦――大阪・関西万博の技術を自社に

現在力を入れているのがCLT工法(大型木造パネル工法)だ。大阪・関西万博の大屋根リングにも採用されたこの工法を用いて、自社の新社屋を建設。実績づくりも兼ねながら、木造中高層建築の可能性を追求している。

「まずは自分たちで試して実績を積む。この工法をもっと広げていきたいという思いがあります」

建設業界で木造技術の可能性を地道に広げていこうとする姿勢は、尾松氏の経営スタイルそのものを体現している。

求職者へのメッセージ――人間関係のいい会社を選んでほしい

インタビューの最後、求職者へのメッセージを求めると、尾松氏は「人間関係のいい会社を選んでください」と語った。

「仕事には、お金・やりがい・人間関係の三つの要素があると思っています。若い人はお金に走りがちですが、いくらお金が良くても人間関係が悪ければ続かない。逆に人間関係が良ければ、やりがいはあとから生まれてくる。やりがいを持って取り組むと、それがまたお金につながってくる」

転職についても「一回入ったからやめにくいということはない。無理して勤め続けるのは良くない」と率直に語る。自社を経営する立場からすれば採用コストを考えると複雑な面もあるだろうが、それでも求職者の立場に立った言葉を選ぶ。その誠実さが、低い離職率につながっているのかもしれない。


会社概要

  • 会社名:日匠テック株式会社
  • 代表者:尾松慎介
  • 事業内容:建設業
  • 従業員数:19名(役員2名・従業員17名)
  • 特記事項:CLT工法(大型木造パネル工法)による木造中高層建築に取り組む

編集後記

大手ハウスメーカーで培った営業力と設計の知識を携え、義父から会社を引き継いだ尾松氏。「売上より人」という経営哲学は、賞与制度や日々の現場への関わり方に具体的な形で根付いている。急がず、しかし止まらず――そのゆるやかな歩みの中に、建設業の現場を支える誠実な経営者像を見た。

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