マイクロ・トーク・システムズ株式会社の橋本純一郎氏は、鉄鋼メーカーと金融の現場で培った視点を武器に、当時まだ知られていなかったRFID技術に着目して同社を立ち上げた。以来三十余年、非接触認識のタグ事業から空調システムへと主力を柔軟に移し替えながら、会社を成長させてきた。本記事では、「変化し続けること」を経営の軸に据える橋本氏の歩みと哲学、そして次世代へ託す想いを聞いた。
鉄と金融、そしてRFIDとの出会い
東京都出身の橋本氏は、早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本鋼管(現JFEスチール)に入社した。ここで培ったのは、製造業の現場感覚である。その後オリックスレンテックへ転職し、今度は金融ビジネスの世界に身を置くことになる。
転機となったのは、リースビジネスに携わる過程で巡り合ったテキサス・インスツルメンツのRFID技術だった。RFIDとは、いまでは当たり前に使われている非接触認識の仕組みである。
「これを使って何か事業化できないか」。橋本氏はおよそ1年半にわたって可能性を模索した。マンションや住宅の鍵、そして化学製品を搬送するバッグの物流管理——いくつかの具体的な用途が見えてきたとき、新しい会社を興す決意が固まった。商社との合弁というかたちで、マイクロ・トーク・システムズ株式会社は産声を上げた。
「世の中にないもの」を、いち早く形にする
創業当初、RFIDはまだ世の中にまったく浸透していなかった。そのなかで同社は、テキサス・インスツルメンツから技術を入手するルートを確保し、読み取りから製造までを一貫して手がけられる体制をいち早く築いた。
「当時、世の中にいなかったものを同じ仕組みで生産できる形を早く作れたことが、一つのポイントだと思います」と橋本氏は振り返る。
初期の大きな柱となったのが、二つの用途だった。一つは、国内最大手の錠前メーカーからの要望を受けた、マンションのエントランスを非接触で開錠するシステム。もう一つは、積水化学の協力のもと総合化学メーカー向けの物流管理システムで、樹脂製コンテナ——いわゆる1トンバッグにタグを取り付けて搬送を管理するものだった。ポピュラーではなかった技術を、確かな用途へと結びつけたことが、同社の出発点となった。
資金繰りに学んだ、中小企業の要諦
合弁で事業を始めた当初は、後ろ盾となる商社の存在があり、資金面での苦労は少なかった。しかし、そのパートナーと分かれてからは、いわばベンチャーとしての歩みが始まる。銀行からの借り入れに頭を悩ませる日々のなか、東京中小企業投資育成からの出資を受けたことで、経営はようやく安定に向かった。
「これまでの歴史を通じて、中小企業にとって一番大事なのは、やっぱり資金繰りだと思いますね」。この言葉には、幾度も資金と向き合ってきた経営者ならではの重みがこもる。
変化し続けることが、続いてきた理由
RFIDの技術からスタートした同社は、その後も歩みを止めなかった。世の中にアクティブタグを送り出し、さらに動体管理や入退室管理といった新しいタグを次々と生み出していった。主力製品は少しずつ姿を変えながら、時代の求めるものへと更新され続けてきた。
そしておよそ10年前からは、省エネをテーマにした空調システムに取り組み、いまではこれが販売の中心となっている。RFIDと空調——性格の異なる二つの事業を育ててきた原動力について、橋本氏はこう語る。
「第一の創業、第二の創業、第三の創業といろいろあると思うんですが、とりあえず変化していくということで、今まで続いてきたんじゃないかと思います」
一つの成功に安住せず、変わり続けること。それこそが、三十余年を走り抜けてきた同社の生命線である。
一人ひとりの「良さ」を生かす組織づくり
橋本氏が人と組織に向き合ううえで貫いているのは、明快な姿勢だ。
「人を、絶対にネガティブな使い方はしない。ポジティブに使うことで、一人ひとりの良さを生かしていただく会社でありたい」
従業員の良いところに目を向け、その成長を支える——そうした関わり方を大切に続けてきた。だからこそ、一緒に働きたい人物像を尋ねても、答えはやはりシンプルである。「ポジティブな人がいいと思いますね」。
採用については、ここ2年ほどで入れ替わりもありながら、現在は安定した状態にある。今後も数名程度を迎え入れていく考えだ。
RFIDと空調の「両輪」で描く、これからの三年五年
これからのビジョンを、橋本氏は二つの事業を軸に描く。いままさに開発を進めている新しいRFID製品と、世の中に受け入れられ始めた空調事業。この両輪で、今後3年、5年と会社を発展させていく構想だ。
「開発しているRFIDの新製品がさらに伸びていって、今の空調ビジネスをさらに大きくしていく。そうやっていけば、会社も発展していくと思っています」
同時に見据えるのが、後継者の育成である。40代後半の社員を育てることで、経営を託していくイメージを温めている。
業界における立ち位置についても、橋本氏の視点は現実的だ。唯一無二でありたいという目標を掲げつつも、こう続ける。「一人だけすごい製品を持っていても、実は商売は発展しない。競合があってこそ、新しい市場を作っていくエネルギーが育つ」。だからこそ目指すのは、独占ではなく「世の中に役に立つものが、売れていく商品になること」だという。
安全、安心、暮らしやすさ。RFIDという製品を通じて世に問うてきたその価値を、橋本氏はこれからも機能というかたちで届けていく。
会社概要
- 会社名:マイクロ・トーク・システムズ株式会社
- 代表者:橋本純一郎
- 所在地:東京都千代田区神田岩本町1番地2 清水ビル8階
- 事業内容:RFID関連製品の開発・製造・販売、空調システムの販売
編集後記
鉄鋼、金融、そしてRFIDへ。経歴の異なる領域を渡り歩いてきた橋本氏の語り口には、技術者としての探究心と、経営者としての冷静な現実感覚が同居していた。「変化し続けることで続いてきた」という言葉は、三十余年を生き抜いた企業の説得力そのものだ。目新しさを誇るのではなく、世の中に役立つものを地道に届ける——その姿勢に、長寿企業の底力を見た。
