特定非営利活動法人プチバカンスの代表理事・佐々木博明さんは、革製品の営業から電気工事、そして17年にわたる介護の現場を経て、飲食店とNPOの活動にたどり着いた。埼玉の地で、食事を通じた地域交流の場をつくり、子ども食堂やケアマネジメント事業へと活動を広げ続けている。行動力を原動力に、人が集い、支え合える場所を育てる経営者の歩みと、その先に描く夢を聞いた。
革製品、電気工事、そして介護へ――回り道の先に
佐々木さんの経歴は、одの分野にとどまらない。30数年前、海外の大学に2年間留学し、英語を使える仕事を志したという。帰国後は国内企業に就職し、日本橋にある洋服やバッグ、財布の製造問屋で働き始めた。
「牛革の仕入れや営業を担当して、伊勢丹さんや三越さんといった百貨店に卸す営業もしていました」
その会社に7年勤めたが、バブル崩壊の波を受けてリストラという形で職を離れる。1年ほどの時期を経て、今度は親が勤めていた電気工事の会社へ再就職。ここでも7年間、現場に携わった。
転機となったのは、介護の仕事への関心だった。病院に介護職として勤め、介護福祉士やケアマネージャーの資格を取得。転職を挟みながらも、介護の現場には通算17年間身を置いた。この長い時間が、後の事業すべての土台となっていく。
家庭の食卓から始まった、飲食店とNPO
介護の仕事と並行して、佐々木さんは認知症予防講座や介護予防講座を公民館などで開いていた。そんな折、家庭で作った食事が評判を呼ぶ。
「うちで作った食事がたまたま美味しかったもので、じゃあこれでお店を出しちゃおうと、家族内で盛り上がって」
こうして令和元年に飲食店を開業。店が忙しくなったことを機に介護職を離れ、現在はNPO法人の活動と店の経営に専念している。事業の柱は、飲食の提供と、地域の人々が集いコミュニケーションを取れる場所づくりだ。
店は秩父へと向かう通り道に位置し、週末はツーリングのバイクやロードバイク、家族連れでにぎわう。平日は弁当づくりやデリバリーも手がける。人が自然と行き交い、集まる場所になっている。
慎重さと、それでも動く行動力
経営の中で佐々木さんが大切にしているのは、明快な一つの姿勢だ。
「新しい料理の一品でも、新しい事業でもそうですけど、思いついたらすぐやる方なんですね。失敗しても全然構わないので、とにかく行動に移すこと」
一方で、食を扱う事業ならではの緊張感も語る。地域の祭りへの出展などでは食中毒のリスクが常に頭にあり、「慎重に取り扱う」ことを欠かさない。大胆に動く行動力と、食を預かる者としての慎重さ。その両輪で事業を前へ進めている。
自らを人にどう伝えるか――「自分がどういう人間なのかを伝えるのは、なかなか難しい」と、初対面の場での自己紹介の難しさも率直に明かす。それでも動きながら、人との関係を一つずつ築いてきた。
地域の未来のために――子ども食堂とケアマネ事業へ
近年、佐々木さんは新たな挑戦として子ども食堂を始めた。地域では初めての取り組みで、社会福祉協議会の協力も得ながら、年に4回程度のペースで運営していく考えだ。
背景には、地域が抱える人口減少への危機感がある。
「田舎なので、どんどん人が減っていく場所なんですよね。子どもも高齢者も少なくなってくる。この状況を何とかしたいなというのが、今考えているところです」
さらに、これまでの介護経験を生かし、居宅介護支援事業所の開設準備も進めている。開業には主任ケアマネジャーの資格が必要で、現在その人材を募集中だ。この事業所では通常のケアプランに加え、「介護美容」に特化したケアプランづくりに専門的に取り組んでいくという。
一緒に働きたいのは、「相手を思いやる、気持ちを汲み取れる人」。そして介護美容の取り組みに積極的に協力してくれる人を求めている。
最終目標は「介護付き旅館」
3年後、5年後、そしてその先。佐々木さんが描くビジョンは具体的で、そして温かい。
「最終的には、介護付き旅館をやりたいんです。介護の仕事にずっと携わってきたので、おじいちゃんおばあちゃん、そしてご家族もリラックスしてゆっくりできる旅館を作りたい」
その最終目標に向けて、まずは5年ほどを目処にデイサービスセンターの開設を見据える。全国で増える廃校や休校になった学校を丸ごと活用し、教室をデイサービスにするという構想も温めている。
そしてもう一つ、佐々木さんには実現したい夢がある。介護の現場をありのままに映した、ドキュメンタリー映画の制作だ。
「楽しいこともあれば、苦しくて涙することもある。リアルな介護現場のドキュメンタリー映画を作りたいんです」
今年から来年にかけて動き出したいと語り、参加者やスポンサーも募集しているという。思いついたら動く――その姿勢は、夢の語り口にもそのまま表れていた。
会社概要
- 会社名:特定非営利活動法人プチバカンス
- 代表者:佐々木博明
- 事業内容:飲食店の経営、地域交流イベントの企画、子ども食堂の運営、居宅介護支援事業(開設準備中)
- 創業:令和元年(飲食店開業)
編集後記
革製品、電気工事、介護と、一見バラバラな経歴が、佐々木さんの中では一本の線でつながっている。人と向き合い、支え合う場所をつくること――その根っこは終始ぶれない。人口が減りゆく地域で、飲食店から子ども食堂、ケアマネ事業、そして介護付き旅館へと歩みを止めない姿には、地域を諦めない静かな意志が宿る。「思いついたらすぐやる」という言葉の軽やかさの裏に、確かな覚悟を感じる取材だった。
