住宅ローンを、不動産会社でも銀行でもない「第三者」の立場から設計する。FBモーゲージ株式会社代表取締役社長・根石高宏氏は、金利が動き出した時代にこそ自分たちの価値が問われると語る。変動か固定かを目先の数字だけで選ぶ危うさ、そして住宅購入の順序そのものを逆転させる新サービス「スムカウ」まで。購入者が失敗しない未来をどう描くのか、その哲学に迫った。
演歌歌手のマネージャーから、住宅ローンの専門家へ
根石氏のキャリアは異色だ。芝居の世界に身を置き、演歌歌手のマネージャーを務めた後、住宅ローンの業界へと足を踏み入れた。以来およそ20年、この道を歩み続けている。
住宅ローンを「不動産会社でも金融機関でもない、第三者的な立ち位置」から提供するという発想は、アメリカでは主流でも、日本ではなじみが薄い。金利が長く動かない時代が続き、その必要性が見えづらかったからだ。
「金利がようやく動く国になってきた。だから僕らがより活躍できる、お役に立てる領域になってきた」。根石氏はそう手応えを語る。動かない金利のもとでは表に出づらかった専門性が、いま強く求められはじめている。
変動金利の「見えない付け」を伝える
金利が上がりはじめたいま、根石氏がとりわけ警鐘を鳴らすのが、変動金利の選び方だ。
「不動産会社やネットの記事を見て、みんなそうだから変動がいい、と選ぶ。その選び方が一番危険だ」。多くの人が知らないルールがある、と根石氏は説く。ひとつは「5年ルール」。金利が上がっても5年間は返済額が変わらない仕組みだが、それは金利が無関係になったという意味ではない。上がった分は「未払い利息」として後ろへ回されていく。
もうひとつが「125%ルール」。返済額が上がるとしても、直前の1.25倍が上限となる。だが、これも本来払うべき額との差は付けとして残り、最終的には利息として支払う必要がある。
「5年間返済額が変わらないから金利は関係ない、と思っている人は多い」。だからこそ、根石氏はすべてを説明したうえで顧客自身に判断してもらう。「目先の金利だけで判断してしまう。5年後、10年後を見据えた設計が絶対に大事だ」。
フラット35から始まり、住宅ローン専門へ
事業の出発点は、全期間固定の国の商品「フラット35」の代理店だった。35年間、返済額が固定される——生活にかかる費用の多くが変動していくなかで、最も大きな住宅費用を確定できる。「すごくいい商品だと思った」。その思いから独立し、住宅ローン専門の道を歩んで12年になる。
やがて根石氏は、フラット35だけでなく住宅ローン全般を提供しなければならない時代が来ると確信する。長く動かなかった金利が、ようやく動き出した。
「入り口は、住宅購入者の失敗を減らしたいということ。政策金利が上がり出して、購入者が失敗する未来がどんどん出てくる。未来を見据えて住宅ローン専門をやろうというのが、僕の考え方だった」。
未来を見据えたがゆえの、静かな苦しさ
コロナ禍は、根石氏の会社にむしろ追い風だった。在宅時間が増え、部屋を増やそうと家を買う人が増えたためだ。しかし彼が見ていたのは、その先だった。
「この反動が来るな、と思った」。案の定、その後の2年間で売上は4割落ちた。ただ、それを見越して内部の体制を試していたため、経営そのものに大きな苦しさはなかったという。
本当に苦しかったのは、別のところにあった。「落ちるよ、という未来が、会社の中でも外でも伝わらなかった。こっちは未来を見ているけれど、スタッフには見えていない領域。そこが一番つらかった」。数字よりも、見ている景色を共有できないことのほうが、経営者にはこたえる。
買い方を逆転させる——住宅購入のインフラ「スムカウ」
いま根石氏が全面的に打ち出すのが、住宅購入のインフラを目指すサービス「スムカウ」だ。2年前に始動し、1年目は年間40件ほどだった相談が、2年目には400件近くへと約10倍に伸びた。
従来、家は物件を見てから住宅ローンを審査するのが一般的な流れだった。スムカウはこれを逆転させ、ローンの審査を先に行ってから家を探す。「不動産会社は借りれる額を提供する。でも僕らは返せる額を提供する。借りれる額と返せる額は全然違う」。だからこそ、返済から逆算した設計を先に固める。
特徴的なのは、その先の仕組みだ。提携する不動産会社から信頼できる担当者を一人ずつ推薦してもらい、顧客はプロフィールを見て「この人から買いたい」という営業担当を自ら選ぶ。「お客さんが営業マンを選ぶ時代になる」。不動産会社のゴールが「家を売るまで」、銀行が「お金を貸すまで」であるのに対し、「スムカウのゴールはお客様のゴール」だと根石氏は言い切る。
現場の不動産会社を数多く知り、かつ住宅ローンを扱える——その両方を備えるからこそ成立するモデルであり、競合はほぼ見当たらないという。将来的にはFC(フランチャイズ)の形で、関西など各地のパートナーへと広げていく構想を描く。
「ちゃんとしたことを、当たり前にできる会社」
経営で根石氏が最も大切にするのは「人」だ。「事業は人がいないと成り立たない。いいことも悪いことも人が起こす。AIがどんなに進化しても、最終的に人の目は大事だ」。
掲げるのは、きれいごとを経済合理性のなかで貫くこと。「ちゃんとしたことを、ちゃんと正しく、当たり前にできる会社。それが世の中に必要だ」。この価値観を共有できない人——自分さえ稼げればいいという人は、数年前に自然と去っていったという。いまや離職はほとんどない。
一方で、根石氏は自社の課題も率直に見つめる。それは「ナンバー2」、すなわち右腕の不在だ。「率先して責任を生み出すタイプでないと、そのポジションは難しい。育てていくこと自体が、いまの課題」だと語る。
購入者が騙されない世の中へ
3〜5年後、根石氏はスムカウを軸に大きな成長を見込む。同時に見据えるのは、業界における立ち位置だ。フラット35の代理店としてはすでにリーディングカンパニーの一角にあり、住宅購入・住宅ローンの業界全体でその存在を目指す。
その原動力には、静かな使命感がある。「不動産業界にはまだまだ不正も多い。僕らはそれを正していっている部分もある。そういう会社が業界のリーディングカンパニーになれば、お客さんが失敗する、騙される世の中がなくなる」。
一家に一組、信頼できるFPがいる文化をつくる——根石氏が描くのは、住宅購入で誰も泣かない未来だ。
編集後記
芝居、演歌歌手のマネージャーを経て住宅ローンへ。異色の経歴を持つ根石氏の言葉には、一貫して「人が失敗しない仕組みをつくる」という芯が通っていた。金利が動き出したいまだからこそ、目先の数字ではなく5年後10年後を見据える——その視点は、住宅購入という人生最大級の買い物に向き合うすべての人にとって示唆に富む。中立の立場から業界の慣行そのものを問い直そうとする姿勢に、静かな覚悟を感じた取材だった。
会社概要
- 会社名:FBモーゲージ株式会社
- 代表者:代表取締役社長 根石 高宏
- 事業内容:住宅ローン専門サービス、住宅購入インフラサービス「スムカウ」の運営
- 従業員数:27名
