健康経営コンサルタントとして企業に入り、社員研修を通じて働く人の健康の底上げを支える「naturally」。代表の南方和美氏は、一般企業のキャリアからヨガとの出会いを経て、未病・予防の段階から人に寄り添う道へと歩みを進めてきた。医療と非医療の垣根を越えようとする挑戦、そして「自分の幸せは自分で切り開く」という一貫した理念まで、その仕事観に迫った。
健康の世界へ導かれるまで
新卒で株式会社リコーに入社し3年間は営業事務として勤務。結婚し寿退職後に富士ゼロックスに転職。直需営業部の秘書としてキャリアを磨いた。その後はリクルートに籍を移し編集の仕事を担当した。当時はバブル全盛期だったこともあり「健康」や「美」に魅力を感じた女性達はスポーツクラブに足繁く通っていたが、南方氏はその世界に関しては無関心だった。
妊娠・出産を機に10年以上も専業主婦だったが、育児に追われて自分自身の健康管理は疎かになっていたと振り返る。
転機が訪れたのは19年前。友人に強く誘われて足を運んだヨガだった。「そんなに乗り気ではなかったのですが、やってみるとすごく気持ちよくて。どうせなら資格を取って、教えながら自分の意識も高めていけるんじゃないかと思ったんです」。ここから彼女の「健康人生」が始まる。
ヨガに打ち込むうちに、体そのものへの探求心が膨らんでいった。パーソナルトレーナーやピラティスの資格を取得し、東洋医学的な世界だけでは届かない領域を追い求めていく。やがて整形外科でリハビリを担当する機会にも恵まれ、患者一人ひとりとマンツーマンで向き合う日々を重ねた。
未病・予防への思いが、起業の原点
現場での経験は、南方氏にひとつの問題意識を突きつけた。「病院に来る方は、もういよいよ大変な状態になってから来られる。それでは回復がものすごく遅れてしまったり、何年も同じ状態が続いてしまうことがあるんです」。
だからこそ、もっと早い段階で——なんとなく調子が悪いと感じる未病のうちに、自分の体を見つめ、大切にすることを伝えたい。その思いが、より広いステージを求める原動力になった。
そこで挑んだのが、企業や行政に入っていくための「健康運動指導士」の資格だった。受験資格を得るための勉強から始め、医学用語や疾患、血液検査の読み方、運動生理学まで、分厚いテキストに必死で向き合った。「ノイローゼになりそうなくらい勉強しました」。難関を突破して資格を手にし、naturallyを立ち上げる。「もっと早い時期から人々に寄り添いたい。それが起業のきっかけです」。
医療と非医療の壁を越える
現在、南方氏は3つの軸で事業を展開している。中心となる健康分野に加え、医療機関向けのメディカルBCP対策、そして自ら開発に携わったスキンケア商品だ。組織は正社員を雇わず、税理士や司法書士、ドクターや看護師といった各分野の専門家とチームを組む形をとる。「確実に知見の取れたものをお伝えしたい」という考えからだ。
長年抱えてきたのが、医療と非医療の間にある高い壁だ。「運動指導者は非医療の分野。国民健康保険制度の枠組みもあり、なかなか垣根が取り払われないんです。私はこの壁をずっと越えたいと思ってきました」。
その挑戦は具体的に動き出している。医学系の学会に強い南方氏は、大きな学会の全国大会で、トレーナーや運動指導者と医療をつなぐセッションに臨むことが決まっている。「私の思いに共感してくれた医療関係者と非医療関係者が、そこでパイプを結んでくれれば」。これがひとつのスタートになると意気込む。
「あなたの頭で考えた選択を」——貫く理念
3つの軸に共通するのは、「自分の人生だから、自分で選んでほしい」という一貫した思いだ。
「人から受け身で聞くだけじゃなくて、聞いた上で自分がどうアクションするかを決めてほしい。健康もBCPもスキンケアも、きちんと自分の頭で考えて、あなたが選んだ選択肢を取ってください、と」。南方氏は自らの役割を、その手伝いをすることだと捉えている。
「きれいごとに聞こえるかもしれませんが、皆さんに健康で、幸せを感じながら生きていただきたい。自分で幸せを切り開くためのメソッドを体系化し、構築していきたいんです」。行動変容を促し、一人ひとりが自分の意思で歩んでいく——それが彼女のミッションだ。
これからは「黒子」として
今後の課題は、理念をともにできる仲間との出会いだ。経理から法的手続きまで一人で担う現状には限界も見えている。「安心して息を合わせ、同じ理念に向かって歩ける人を探したい」。
一方で、単に事業を横展開することには慎重だ。生徒を量産し、資格を渡して広げていくやり方では「思いが薄れてくる」ことを、周囲を見て実感してきたという。「その子たちが独立して、自分の頭で考えて動けるところまで見てあげられるか。そう考えると、託せるのはせいぜい数人だと思うんです」。真の部分だけは変えず、それぞれがオリジナルの形をつくれる——そんな相手との出会いを願っている。
目指すのは、表舞台のリーダーではない。「これからは黒子になりたい。自分が持っている人脈やつながりを、意思のある人たちにつなげて形にしていく。私は前に立つのではなく、コーディネートする側でありたい」。十分に人前で語ってきたからこそ、これからはバックヤードから、より良い流れをつくることに力を注ぐ。
編集後記
資格を積み重ねてきた道のりの一つひとつに、「目の前の人の思い描く人生に寄り添いたい」という動機が貫かれていた。医療と非医療の壁に挑みながら、自らは黒子に徹しようとする姿勢は、健康という領域を超えて、人が主体的に生きることを支える営みそのものだ。自分で選び、自分で切り開く——その哲学を体現する経営者の、次の一手に注目したい。
