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「断らない」を貫き、痛みから学んだ経営 ―― 行政書士法人みらいへ法務事務所・井戸淳午の歩み

愛知県一宮市に事務所を構える行政書士法人みらいへ法務事務所。代表社員で特定行政書士の井戸淳午氏は、大企業でのサラリーマン生活と大病を経て、行政書士の道を切り拓いた人物だ。開業以来「依頼は断らない」を信条に業務の幅を広げてきた一方、事業拡大のさなかにスタッフの離職という試練にも直面した。本記事では、井戸氏のこれまでの歩みと、そこで見出した「人あっての事務所」という経営観に迫る。

目次

大企業で得た経験、そして3度の転職

愛知工業大学を卒業後、井戸氏が最初に就職したのは東急系の運輸会社の電算課だった。まだ大型コンピュータが部屋の半分を占め、データを8ミリの媒体で管理していた時代。日立が開発したCOBOLというプログラム言語を使い、給与計算や売上計算、勤怠管理を担った。

その後、先輩の誘いを受けて、当時一部上場を果たしていた技術者派遣の大手企業へ転職する。配属されたシステム事業部の企画管理課は、月の残業が100時間を超えることも珍しくない多忙な部署だった。バブル期の華やかな社風のなか、広報部でもないのに企業CMや取材に駆り出されるという、いまでは得がたい経験も重ねた。

しかしバブル崩壊とともにリストラが始まる。東京本社への内示が事業部長の判断で見送られたこともあった。3度目に井戸氏が選んだのは、100年以上の歴史を持つ紙の専門商社。老舗の腰の据わった仕事に身を置きたいという思いからの決断だった。

大病からの再起、行政書士への転身

商社時代、井戸氏は営業経験を積むため大阪支店へ異動し、名物支店長のもとで実践を学んだ。ところが名古屋への復帰後、歓迎会をきっかけに以前から抱えていた椎間板ヘルニアを悪化させてしまう。2度の手術を受け、療養は約2年に及んだ。

復職の道として示されたのは、それまでのキャリアを一度ゼロに戻す再雇用だった。長年積み上げてきたものが白紙になる――そう知った井戸氏は退職を決意する。実は療養中から、悶々とした日々のなかで打ち込めるものを求め、かねて関心のあった法律の勉強を始めていた。行政書士試験である。1度目は惜しくも及ばなかったが、諦めずに翌年、合格率5.3%の難関を突破した。

「もう二度と受けられないだろうと思うほどの試験でした」と井戸氏は当時を振り返る。この合格が、現在へと続く道の出発点となった。

「依頼は断らない」―― 使命感が実力に変わる

開業にあたって、井戸氏は幸運に恵まれた。正式開業を待って「電話をくれ」という顧客が、すでに何人もついていたのだ。多くの新人が「電話が鳴らない」と苦労するなか、井戸氏はむしろ自らの経験を超える案件が次々と舞い込み、それをこなす忙しさに追われた。

その根底には、明確な信条があった。専門外の依頼であっても「せっかく自分を選んでくれたのだから、応えなければ」と引き受ける。さまざまな苦労を経て選び取った行政書士という道だからこそ、寄せられた期待には全力で向き合いたい。断りにくいという人柄も相まって、井戸氏はあらゆる案件を受け止めてきた。そしてその一つひとつが、着実に実力へと変わっていった。

スタッフの離職が教えた「人あっての事務所」

事業が軌道に乗り、売上が伸び、スタッフの数も増えていく。しかし、その拡大のさなかに事務所最大の危機が訪れた。売上ばかりに目が向き、スタッフとのコミュニケーションが疎かになっていたのだ。おごりもあったと井戸氏は率直に認める。溝は少しずつ広がり、一人、また一人とスタッフが去り、ついにはほとんどが退職してしまった。

案件はあるのに、こなす人手がない。精神的にも追い詰められたこの経験が、井戸氏の経営観を根本から変えた。

「行政書士はサービス業。お客様あって、スタッフあっての事務所です」

いまの事務所は、優秀な少数精鋭で運営されている。休暇や勤務も細かく管理せず、スタッフに委ねる。子育て中のメンバーが多く、夏休みには子どもを連れて出勤することもある。そんな和気あいあいとした空気こそが、顧客にも伝わっていくと井戸氏は考えている。痛みを通して見定めた事務所の進むべき方向が、いまの充実につながっている。

深掘りとコンサル、そして地域・社会への恩返し

行政書士が扱う許認可は約300種類にのぼるという。開業から21年を数えるいまでも「初めて手がける業務」が舞い込むほど、その領域は広く深い。井戸氏は、入管業務、法人設立、民事法務といった柱をさらに深掘りし、単に書類を作成するだけでなく、培ったノウハウを活かしたコンサルティングへと事業を広げていく構想を描く。

今後3〜5年で目指すのは、規模の拡大よりも既存の顧客との関係を深めていくことだ。かつて拡大を急ぎすぎたことで招いた痛みを、井戸氏は忘れていない。同時に、地元から法人成りを果たした事務所として、若い行政書士たちに一つの姿を示したいという思いもある。保護司としての活動や、外国人材を通じた人材不足への貢献、募金・寄付といった社会貢献にも、これまで以上に力を注いでいく考えだ。

会社概要

  • 会社名:行政書士法人みらいへ法務事務所
  • 代表者:代表社員 井戸 淳午(特定行政書士)
  • 事業内容:許認可申請、入管業務、法人設立、民事法務、コンサルティング 等
  • 創業:2005年(個人事務所として開業)
  • 所在地:愛知県一宮市
  • 従業員数:常勤5名(通訳等を含め7〜8名)

編集後記

大企業での華やかな日々も、大病による長い療養も、井戸氏はすべてを自らの糧に変えてきた。「断らない」という信条は時に自身を追い込みもしたが、スタッフの離職という痛みを経て、「人あっての事務所」という原点にたどり着いた。数字よりも人との関係を大切にする姿勢、そして地域や社会への静かな貢献に、一人の経営者としての深い成熟を見た取材だった。

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