「得意」を起点に、障害のある人が活躍できる社会をつくる
障害福祉ひとすじ31年。企業就労になじめず潰れていく人たちを数多く見てきた萩原護氏は、「まず自分の得意なことで自己肯定感を持ち、社会に参加できる基盤をつくることこそ大切だ」との思いから、2017年にNPO法人Birth神戸を立ち上げた。絵や音楽といった表現活動を就労支援の柱に据えるユニークな取り組みで、利用者からの口コミで広がり続けている。その歩みと、これからの障害福祉に懸ける哲学を聞いた。
障害福祉ひとすじ31年、独立への二つの理由
萩原氏のキャリアは20歳から始まった。以来31年、一貫して障害福祉の現場に身を置いてきた。とりわけ長く携わったのが、障害のある人を一般企業へ送り出す就労支援の仕事だ。
しかし現場で向き合ううちに、ある違和感が募っていった。企業で働き、給与を得て成長していく——それは確かに正しい目的だが、その道のなかで潰れてしまう人が少なくなかったのだ。
「絵がすごく得意な方や、音楽が得意な方がいらっしゃる。でも一般の仕事にはなかなかなじめない。まずはその人が得意なことに携わることで、自己肯定感や、社会に参加できるという基盤をつくることの方が、本当は大事なんじゃないか」
その思いに、20代の頃から抱いていた「地元で独立したい」という気持ちが重なった。二つの出来事が結びつき、現在の事業の立ち上げへとつながった。
表現活動を軸にした、居場所としての就労支援
Birth神戸が掲げるのは、芸術や音楽といった表現活動を就労支援に取り入れる独自のスタイルだ。就労支援の形は取りながらも、一般企業への就職者は数名にとどまる。デザイナーとしてフリーランスで独立した人、大手鉄道会社に就職した人もいるが、施設の性格はむしろ「居場所」に近い。
活動は多彩だ。障害のある人がデザインしたTシャツやグッズの販売、音楽活動によるCDの制作・販売、そしてアート展。現在はアート展開催のためのクラウドファンディングにも挑戦している。この8月にはミュージックスクール(音楽教室)も開講した。
「音楽活動をやっているところは割と珍しい。そういうところが強みになるのかなと思います」
特別な営業活動はほとんど行っていない。それでも利用者は口コミで着実に増え、現在は約30名。珍しい取り組みそのものが、他施設との差別化になっている。
開業1年目の資金枯渇、ギリギリで持ちこたえた日々
順調に見える歩みも、始まりは苦しかった。日本政策金融公庫から約1000万円を借りて事業を立ち上げたが、その資金は1年目で底をついた。
「もう倒産するんじゃないかと思った。でもその辺りから利用者さんがすごく増えてきて、ギリギリのところで来てくださった。地域の銀行の融資も受けられて、なんとか持ちこたえた」
最初の1年を越えると経営は軌道に乗った。当初は3階建ての建物の1階のみだったが、2025年には2階も借り受けて事業を拡大。1階は利用者でにぎわい、増床が追いつかないほどの活況となっている。
補助金構造という、福祉業界共通の課題
一方で萩原氏は、業界全体が抱える構造的な課題にも目を向ける。福祉は補助金で成り立つ業界であり、他業種と比べて職員の給与が低い。平均年収では一般業種より100万円ほど低いのではないか、と見る。
その構造ゆえに、業界には不正の温床が生まれかねない。人材不足も、介護福祉業界に限らず長く続く課題だ。
「国の単価は変わらない。だから金銭以外の価値みたいなものが、働く人たちにとっても必要なんじゃないか」
奉仕の気持ちだけでは生活は成り立たない。福祉に携わることの価値や生きがいを、働く人自身がどう見出していけるか——それが業界全体の問いだと語る。
迫る制度の転換点と、これからの展望
今後1〜2年で萩原氏が最も注視するのが、就労支援の報酬改定だ。国は3年に一度、その定義や基準を見直す。近年は就労支援の要件が厳しくなる傾向にあり、芸術活動を軸とするBirth神戸の取り組みが「就労支援ではない」と判断されるリスクもゼロではない。
「本当は、いろんな角度から就労支援を考えることが必要だと思っている。芸術的な取り組みも、その他の取り組みも必要。でも今は締め付けの方向にある」
だからこそ、まずは収益性をきちんと高めることが最大のテーマだ。その先に、施設のさらなる拡大を見据える。利用者が増え続ければ、近隣に新たな拠点を構える構想もある。そして設立から年を重ね、利用者が高齢化していく将来には、グループホームのような生活支援の場も必要になると考えている。
「人を大切に」——数字は後からついてくる
最後に経営理念を尋ねると、萩原氏は少し照れながらこう語った。
「やっぱり人を大切にすること。僕らの仕事は、障害を持っている人たちがどう活躍できるか、活躍できる社会をどうつくるか。それが一番大きな理念です。数字は後からついてくるもの」
その視線は利用者だけでなく、共に働く職員にも注がれる。ボランティア精神だけでは生活は成り立たない。職員自身が、この活動に携わることでどう幸せを感じ、人生を設計していけるか。そこにこそ、経営者としての責任があると考えている。
会社概要
- 会社名:NPO法人Birth神戸
- 代表者:理事長 萩原 護
- 事業内容:障害のある人への就労支援(芸術・音楽など表現活動を軸とした活動、グッズ・CD販売、アート展、ミュージックスクール運営等)
- 設立:2017年9月
- 従業員数:6名
編集後記
31年という長い時間を障害福祉に捧げ、なお現場の一人ひとりの「得意」に目を凝らし続ける萩原氏。その姿勢は、効率や制度の枠に人を合わせるのではなく、人の可能性の側から社会を問い直す営みに映る。芸術や音楽を通じて自己肯定感と居場所を育むBirth神戸の実践は、就労支援のあり方そのものへの静かな提言でもある。制度の転換点に立ちながら「数字は後からついてくる」と言い切る言葉に、揺るがぬ芯の強さを感じた取材だった。
