食料品の値上げが止まらず、小売の現場は「客数を維持・増加させるために、付加価値をどう生むか」という難題に直面している。株式会社デリズマートの上村友一氏は、大手小売業の商品部のチームの中に入り込み、新商品を企画・設計・開発・製造・物流・販売する「MDエージェント」という事業でこの課題に挑む。飲食業の現場課題から食品OEMビジネスの創業・売却を経て、たどり着いた現在地と、その先に描く「次世代の食品流通インフラを構築する」という構想を聞いた。
下積みから、飲食店の「仕込み」を変える起業へ
上村氏のキャリアは、大きく三つに分けられる。ファーストキャリアは「ひらまつ」という会社。高級レストランやウェディング、ホテルなどを舞台に、海外のミシュラン三ツ星クラスと提携してハイブランドを国内展開し、あるいは国内で立ち上がったブランドをパリなど海外へ展開する事業に携わった。まさに食の最前線での下積み時代である。
その現場で最も骨身に染みたのが「仕込み」という業務だった。「調理の8割近くの時間は、朝早くから夜遅くまで、そこに支えられている状態でした」。この経験から生まれたのが、次のキャリアとなる起業だ。飲食店の仕込みを食品OEMメーカーへ最適発注する、飲食店向けの受発注ビジネス。前職のひらまつが初期の顧客となった。ソロファウンダーとして立ち上げた会社に仲間が集まり、後に売却してこの事業からは退いている。そして三つ目のキャリアが、現在のデリズマートだ。
コロナ禍の相談から生まれた、二つの原点
デリズマートの構想は、前職時代から温めていたアイディアの一つだった。会社を退任した後、上村氏のもとには二つの相談が寄せられる。
一つは飲食店側から。「飲食で売上が立たないから、店で作っている仕込み品のパッケージを、小売店向けに売れないか」という新規事業の相談だった。もう一つはメーカー側から。仕込みの受注が減った知人の農家が、小売店向けのプライベートブランドを作ることになり、「やったこともないから手伝ってよ」と声がかかった。「どちらも前職でご縁をいただき、お世話になった方々。助けたいという思いでお手伝いをしていたのが、デリズマートを作るきっかけになりました」。飲食店とメーカー、その両側からの声が、事業の原点になっている。
「作れる人がいなかった」市場に、プロ集団として入り込む
デリズマートが手がけるのは「MDエージェント事業」。顧客は大手を中心とした食品小売業だ。食品スーパー、ドラッグストア、ディスカウントストアなどが名を連ねる。背景にあるのは、食品流通業界の構造的な難しさだ。
円安を背景に仕入れ値は上がり続ける一方、消費者の実質賃金は下がり、家計に占める食費の割合は上昇している。小売は値上げをしたいが、値上げした瞬間に客足が他店へ流れてしまう。人口が減るなかで客数を失うのは、小売業にとって死活問題だ。「同じ価格ならより良い品質のものを売りたい。そのために、単に仕入れて売るのではなく、自ら付加価値ある商品を作って売る動きが、足元で急速に大きくなっています」。
ここに大きな空白があった、と上村氏は指摘する。「コンサルタントも、物を作るメーカーも、仕入れて提案する問屋もいた。でも、肝心要の“付加価値ある商品を作って、新しい売上と利益を生み出せる人”はいなかったんです」。
仕入れて売ることに特化してきた小売業態は、そもそもモノづくりをしてこなかった。そこでデリズマートは、マーチャンダイザー(MD)のプロフェッショナル集団として、小売のチームの中に「出向」に近いかたちで入り込む。国内外を問わず、商品を本当にゼロから企画・設計・開発・提案する。教えるわけでも、1メーカーとして請け負うのでもない立ち位置だ。
失敗が9割――スタートアップの難しさ
「失敗が9割みたいな感じ」と笑いながら、上村氏が最大の苦労として挙げるのは「人」の問題だ。
スタートアップは市場に合わせてビジネスモデルを変え続ける。そのなかで起きるのがミスマッチだという。
「採用できなくて困ったというより、むしろ良い人が入ってくれたのに、うちとはミスマッチで生かしきれない。優秀な人ほどその人を中心に業務が回るので、スイッチングコストがすごく大きいんです」。
本来は別々の道を歩んだ方がいいとわかっていても、人手は足りず、役割も責任も広範囲にわたる。結果としてズルズルと引きずり、意思決定が遅れ、事業のスピードも鈍る。この難しさに苦労しました。
経営で大切にする、三つの軸
上村氏が経営で大切にしている考え方は3つある。
1つ目は、Why=ミッションの軸をぶらさないこと。
「経営していると、株主のためとか、いろんな目的が入り混じってくる。でも純粋無垢な心で考えたとき、そもそも何のために会社をやっているんだっけ?、という原点回帰して、あらゆる意思決定で立ち返るようにしています」。
2つ目は、独自の付加価値とは何か?を問い続けること。
「事業を推進する中で、(都合の悪いことに)簡単に稼げてしまう時がある。すると意思決定がぶれていく。単に儲かるかではなく、これは何の価値があってやっているのか、本質的に我々が提供している価値は何かを、平たい言葉で再確認するようにしています」。
一番安い、一番早い、どこにもない物が買える――事業の中で、最も重要なことは何かを起点に据える。
3つ目は「成長はスタートアップ、経営は中小企業」という合言葉だ。前回の起業では、調達環境や周囲の評価に違和感を覚えたという。「経営は独解。筋肉質経営で売上と利益を上げながら持続的に成長する。生み出した利益を、大胆に勝ち筋に投資してく。今後も規律ある経営をしていきたいですね」。
求めるのは「ドット人材」のスペシャリスト
どんな人と働きたいか。上村氏の答えは明快だ。「“ドット”の、スペシャリスト人材と一緒に働きたいです」。
今後、業種・業態を選ばないジェネラリスト的な仕事は、いずれグローバルな競争にさらされると上村氏は見る。むしろ日本の勝ち筋は、現場ドリブンの暗黙知が眠り、フィジカルに動かなければ、どうにもならないバーティカル領域にある。
「これからはAI×○○の時代。でも重要なのはAI側ではなく、○○のところが突き抜けているスペシャリスト集団であること」
「仮に、服作りが素人レベルのビジネスを立ち上げて、AIでレバレッジをかけても、売れないことが早く証明されるだけです」
AIが賢くなった今、求められるのは適切な指示を出せる言語化能力と、まだ世に出ていない知識・ノウハウを注入できる専門性だ。
「輸入の最前線で見たこともない書類を日々回している人、それを倉庫で受け取って入出荷している人。このバリューチェーンを繋いでいくことに、うちは価値を置いている。この業界で一人見つけたというクロート(玄人)に会うと、めちゃくちゃ口説きたくなります」。
採用はすでに始動している。当面はハイエンド・ミドルクラスの中途を中心に少数精鋭で固め、業務の標準化が進む1年後以降に、標準化されたオペレーションのもとで新卒も迎えたいという。従業員は正社員がちょうど二桁に乗ったところ。業務委託を含めても20名弱の規模だ。
3年で海外へ、そして「世界の胃袋」を取りに行く
今後の展望を、上村氏は具体的なマイルストーンで語る。5年後には上場している見込みだ。ただし「上場自体は重要ではない、何のために上場するのか」が肝心だという。
その先にあるのが海外展開だ。3年以内に海外拠点を立ち上げる予定で、上場はその軍資金と位置づける。「僕がひらまつにいた頃は、フランス料理やイタリア料理を憧れとして輸入し、国内で展開していました。でも今は逆。
寿司やうどんをはじめ、日本の食がグローバルに出ていっている。これから日本のサービス産業―小売も飲食も含めて―が塊として海外に出ていくのは、ほぼ間違いない」。問題は、そのときの流通インフラが整っていないこと。
だからこそ、その地盤を作るために、まず国内で事業を展開している。「多くの会社が海外にチャレンジし、失敗体験を重ねている。それを共有財産化し、世界の胃袋を取りに行く。国内はシェアの奪い合いになりがちですが、グローバルは人口が爆発していて、美味い物さえ作れれば大きな価値になる」。最終ゴールは「次世代の食品流通インフラを作る」こと。海外拠点の立ち上げに四苦八苦する第二創業のフェーズへ、いま邁進している。
読者・お客様へのメッセージ
「まず、商品開発にお困りのスーパーマーケット、ドラッグストア、ディスカウントストア、コンビニ業界の皆様、ぜひお問い合わせください」。食品メーカーからの相談も歓迎です「最近では中国のメーカーやベトナム本国からも直接問い合わせが届き始めているという。」
経営者の読者に向けては、こう続けた。「僕はまだ38で若輩者。諸先輩には色々教えていただきたいですし、同年代なら情報交換も含めてぜひ。食産業はいろんな産業と親和性がある領域なので、一緒に取り組めることがあれば嬉しいです」。そして、起業したばかりの後輩たちへ。「大変な思いをしているなら、僕にできることなら相談に乗りますし、一緒に組めることがあれば、いつでも声をかけてください」。
会社概要
- 会社名:株式会社デリズマート
- 代表者:上村 友一
- 事業内容:食品小売業向けのMDエージェント事業(商品の開発・提案・販売支援)
- 従業員数:正社員 二桁(業務委託を含め20名弱)
編集後記
「失敗が9割」と屈託なく語りながら、その一つひとつを構造として言語化していく姿が印象的だった。二度目の起業だからこそ、成長の熱量と経営の地に足のついた規律を両立させようとする。飲食の下積みで感じた現場のリアルを起点に、日本の食を世界へ運ぶインフラを描く――その視座は、値上げに揺れる食品流通の未来を考えるうえで、多くの示唆を含んでいる。