医療は、能力の高い院長ほど一人で抱え込みがちだ——。合同会社ビバウェルの須藤篤史さんは、システムエンジニア、医療系営業を経て、クリニック経営を丸ごと支える道を選んだ。労務・税務・採用・融資まで、院長が診療に専念できる仕組みを内製化していく。その原点には、ある個人的な体験があった。医療を必要とする人に、医療がちゃんと届く社会をどう作るのか。一人の合同会社として走り続ける須藤さんの哲学を聞いた。
「作る側」から「考える側」へ
栃木県大田原市出身の須藤さんのキャリアは、システムエンジニアから始まった。13年にわたってエンジニアとして働くなかで、担っていたのは設計を中心とした上流工程。日々向き合う相手は経営者だった。
「作る方じゃなくて、考える方——作ってもらう側に行きたいと思ったんです」
経営側へ移りたいという思いから、須藤さんは医療系の営業職へと転身する。クリニックの開業支援や既存機器のリプレイスを手がけるなかで、須藤さんはある確信を得ていく。医療業界のマネジメントは、他業界に比べて遅れている。だからこそ、しっかりとマネジメントを入れれば売上は必ず伸びる。4年間で30〜40件の開業を支援し、その「勝ちパターン」に再現性があることを、数多くの現場で実感した。
「お金儲けている場合じゃない」と気づいた日
順調に見えたキャリアの途中で、須藤さんの人生観を大きく揺さぶる出来事が起きる。娘さんが白血病を患ったのだ。
「お金を儲けましょう、というコンサルはすぐできるようになったんです。でもその過程で、お金を儲けている場合じゃないなと思ってしまって」
幸い、娘さんは重い経過をたどらずに済んだ。だがこの経験は、須藤さんの目指すものを明確に変えた。医療がきちんと必要な人に届くよう、先生方を支援したい。自分にできるコンサルティングを、一人でも多くの医師に届けたい。
「やりたいことが明確に決まっていて、相手がたくさんいる。それなら、開業するしかなかったんですよね」
その後、須藤さんは力試しも兼ねて、現在メインで支援する一社に一度入職する。そこで示したのは、まぎれもない実績だった。入職から3年目までに、年商は約3.5倍、職員数は10名から40名へ、規模にして約1億円から3.5億円へと成長した。事業拡大に再現性があることを確信した須藤さんは、独立を決意する。
免許以外は、すべて自分の仕事
ビバウェルが手がけるのは、クリニックの経営支援だ。労務、税務、経営計画の策定、融資、職員採用——院長が一人で抱えがちな業務を幅広く引き受ける。
「受付だけ、注射だけと部分的に手伝ってくれる人はいても、一緒になって考えてくれる人が基本的にいないんですよ」
須藤さんが重視するのは、単に業務を代行することではない。極力自分が形にしたうえで、それを内製化し、院内の誰かができる状態にしていく。3年ほどのスパンで業務改善を進め、現在6社を支援している。
「先生の免許だけあれば開業して経営できる、くらいの状態にする。診察や免許が必要な行為以外は、全部僕の仕事だと思っています」
支援先の医師たちが口を揃えて言うのは、「結局、答えを出せる人は須藤さんしかいなかった」という言葉だという。システムの障害、人材採用、助成金の活用——一つのことを実行するにも、職員、経営者、業者と多くの人が絡む。それらを束ねて最適な答えを出せる医療コンサルタントは、決して多くない。しかも医療は総売上の1割ほどしか利益が出ない。限られた予算のなかで事業を安定させ、拡大させる。その難しさを引き受けられるかどうかが、信頼の分かれ目になる。
誠実な努力が、報われるように
須藤さんが経営で最も大切にしているのは、再現性と仕組み化だ。
「人は必ず辞めるんです。辞めたときに属人化していると、またゼロからスタートになる。だから、その法人の文化として仕組みが残ることを最優先にしています」
須藤さん自身のサイトには、「誠実な努力が報われる未来を仕組みで作る」という言葉が掲げられている。
「一生懸命頑張っているのに、報われていない人が多いんです。こんなに能力が高いのに、なんでこんなに大変な思いをしているんだろうと思う先生が、本当にたくさんいる」
だからこそ須藤さんは、医師が本当は何をしたいのかを引き出すことに力を注ぐ。
「最終的に何がしたいのか。それがお金じゃないといいな、と思っているんです。最後は患者さんに向いていてほしい。そもそもなぜ医師になったのか——お金のためにそんなに頑張れないでしょう、と」
一方で、須藤さんが抱える最大の悩みも、この「仕組み化」と裏表の関係にある。自分と同じことができる人材を育てる、社内の再現性がまだない。その対策として、専門領域ごとに信頼できる外注先をあらかじめ決め、意思疎通の取れた相手にスポットで依頼する体制を築いている。
同じ思いを持つ人と
もし人を増やすとしたら、どんな人と働きたいか。須藤さんの答えは一貫している。
「同じ思いを持ってくださる方がいいですね」
須藤さんは支援先のクリニックでも、医療事務のスタッフにさえ「あなたは最終的にどんな人生を歩みたいのか」を問うのだという。何を達成したくて、どうなりたいのか。その先が明確な人であれば、環境として何を用意できるかを示せる。
「やりたいことがありすぎて辞める人は、全然いいと思っているんです。『私、これがしたいと気づいたので』と言われたら、頑張っておいで、と送り出せる。だから、やりたいことを見つけてくれるのが一番いい」
患者に「たどり着く先」を
3期目に入ったビバウェルは、当面は須藤さん一人で走る方針だ。まずは再現性のある実績を固め、その先の展開でユーザーを増やしていく段階へと移る構想を描く。
その原動力は、シンプルな実感にある。困っている院長を一人でも多く支援できれば、その先生が診られる患者の数が増える。実際、メインで支援する一社では、須藤さんが入った当初は月に約1,000人だった診察が、現在は月3,500人規模にまで伸びた。
「埼玉県なのに、50キロ離れたところから『先生に診てほしい』と来る方もいるんです。そういう診療があると知らなかった、こういう病気があると知らなかった、と」
須藤さんは、検索すれば全国トップに表示されるページをいくつも育ててきた。医療に「たどり着けなかった人」が、たどり着く先を見つけられるように。それこそが、須藤さんのやりたいことだ。
「困っている人がなんとかたどり着くことを良しとする。そこに同意して、一緒にやっていけますという方がいるといいなと思います」
空き家から、暮らしを支える
須藤さんはいま、不動産業にも着手している。きっかけは、訪問診療の現場で目にした住環境だった。草をかき分けて家までたどり着く、部屋には埃が何センチも積もっている——そうした暮らしを目の当たりにする一方で、世の中には空き家問題がある。
「人が住んでいるこの家より、この空き家のほうがいいんじゃないか、と思ってしまって」
昨年から戸建てを3棟購入し、賃貸に回し始めた。物価も家賃も上がるのに給料が伸びにくい医療業界で、若い職員が生活に困らないよう、シェアハウスも一つ立ち上げた。不動産で儲けるためではない。住めない人がいて、空き家という問題がある。そこが紐づくのではないか——その仮説を、これから事業として形にしていくつもりだ。
医療を、ちゃんと知ってほしい
最後に、読者へのメッセージを尋ねると、須藤さんはドクターへの営業に触れた。「ドクター営業は難しい」と言われるが、須藤さんの見方は違う。
「難しくなったのは、ちゃんとやらない人が多いからなんです。片手間に始めて、うまくいかないと引っ込める。それで騙されたような気持ちになっている先生が、本当にたくさんいる」
大手企業が一つの商品で勝負できる場面でも、中小企業が同じやり方をしては話にならない。だからこそ、業界のこと、業種のこと、いま医療で起きている問題を理解したうえで医師のもとを訪ねてほしい、と須藤さんは言う。
「医療は、どんなに営業を頑張っても、結果的に患者さんにメリットがある。しかもクリニックは地域の方が対象ですから、地域貢献・社会貢献という意味でもいい業界なんです。それがうまく伝わるといいなと思います」
会社概要
- 会社名:合同会社ビバウェル
- 代表者:須藤篤史(代表社員)
- 事業内容:クリニックの経営支援(労務・税務・経営計画・融資・職員採用等の内製化支援)、不動産賃貸業
編集後記
娘さんの闘病という私的な経験を、須藤さんは「重いんですけど」と前置きしながらも率直に語ってくれた。お金儲けのコンサルティングを簡単にこなせた人が、あえて利益率の低い医療の現場に踏みとどまり、仕組みで支えようとしている。その根っこにあるのは、能力ある人の誠実な努力が報われてほしい、という静かな願いだ。訪問診療で見た暮らしから空き家事業へと発想を広げる柔らかさも印象的で、医療と地域を一本の線で捉える視点に、この人らしさがにじんでいた。
