25歳で人生設計を描き、39歳で独立。奈良県出身の宮本誠二氏が率いる株式会社MSファーマシーは、調剤薬局を軸にしながら、農業やAI時代への対応まで見据える。社員には「会社の歯車になるな」と説き、一人ひとりの人生を大切にする——その経営哲学と、時代の先を読み続ける挑戦の姿を追った。
25歳で描いた人生設計、39歳での独立
宮本氏が起業を志したのは、25歳のときだった。人生設計を立てるなかで、自分の目標を達成するには起業が一番の近道だと考えた。
「まず起業するという目標を立てて、それに合わせて資格を取ったり、勉強をしたり、人脈を作ったりしていきました」
大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学)を卒業後、4社での勤務を経験。そして39歳で独立を果たす。目標から逆算して一歩ずつ準備を重ねてきた、計画性のある歩みだった。
「みんなに苦労してほしくない」——働きやすさを最優先する組織づくり
独立の原点には、これまでの勤め人時代の経験がある。
「今までの会社でだいぶ苦労してきたので、自分のやる会社では、みんなに苦労してほしくないというのがあって、そのときに起業しました」
かつては、パワーハラスメントや人格否定が当たり前のようにあった時代。だからこそ宮本氏は、人間関係のトラブルを起こさないというルールを設けるなど、働きやすい職場づくりを徹底している。
「揉め事を起こさないようにして、みんなが楽しいと思ってもらえる職場になればいいと思っています」
その姿勢は、社員へのメッセージにも表れている。
「うちは職員に、会社を踏み台にしてくださいと言っています。時間が取れるなら自分磨きに力を入れてほしいし、趣味をどんどん生かしてほしい。仕事以外に目標をつくってくださいと伝えています」
会社のために人生を捧げるのではなく、人生を大切にしてほしい——。宮本氏は「会社の歯車になっているという考えはしないでください」と、繰り返し社員に語りかけている。
調剤薬局を軸に、社員一人ひとりが活きる会社へ
現在の主力事業は調剤薬局の運営と、医薬品の販売。従業員は35名を数える。
特徴的なのは、人員に対する考え方だ。人手不足が語られる時代にあって、宮本氏はむしろ「今は少し余剰」だと語る。だからこそ、余っている人材をいかに生かすかを常に考えている。
「一人に一仕事、もしくは二仕事を与えていっているところです」
新しいことにどんどん取り組みたい——そんな思いから、経営戦略室も立ち上げた。
「どうやって進めていくかを考えるのは楽しいんです。ただ、実際にやるのはなかなか大変ですね」
構想を練る楽しさと、それを形にする難しさ。その両方を見据えながら、次の展開を描いている。
農業、そしてAI時代——「誰もやってこなかったもの」への挑戦
宮本氏が個人的に強い関心を寄せているのが、農業だ。とりわけ、米づくりへの思いは深い。
「食料自給率を上げていかないといけないので、少しでも貢献できればと考えています」
農村地の役所とも、企業が農業に参加できないか話し合いを重ねている。ただ、先祖代々の田んぼを他人に任せたくないという地域の事情もあり、簡単には進まないのが現状だという。
視線は、さらに先の時代にも向かう。
「10年後には、今ある仕事の半分ぐらいはなくなると言われています。AIによってどんなものが生まれていくのか、これから考えないといけない。それに対応できる会社にしないといけません」
宮本氏が思い描くゴールは、店舗数といった規模の話ではない。
「誰もやってこなかったものを作っていきたい。いろんな業種を足し算していくと、何か面白いものになるんじゃないかと思うんです」
時代の変化に合わせて柔軟にゴールを描き替えながら、常に新しい価値を模索し続けている。
決断は早く、確実に、揉めずに
最後に、宮本氏自身の仕事の流儀を尋ねた。
「私は決断が早く、確実に動く。そして揉めない。これと決めたらすぐに動きますし、トラブルをなくしながら進めていくやり方です」
外部のコンサルタントには頼らない。アドバイスよりも、自ら考え、自ら動くことを大切にしているからだ。
「相談をいただいたらきちんと対応しますし、提案されたら、それ以上の提案で返すようにしています」
言葉少なに、しかし確かな芯を持って語る姿には、行動で示してきた経営者の自負がにじんでいた。
会社概要
- 会社名:株式会社MSファーマシー
- 代表者:代表取締役 宮本 誠二
- 事業内容:調剤薬局の運営、医薬品の販売
- 従業員数:35名
編集後記
「会社を踏み台にしてください」という言葉に、宮本氏の経営哲学が凝縮されている。社員の人生を第一に置きながら、農業やAIといった未知の領域へ軽やかに踏み出していく。派手さはないが、決断の早さと確実さで一歩ずつ前へ進む——その静かな挑戦は、変化の時代を生きる多くの経営者にとって、示唆に富むものだと感じた。