NBKマーケティング株式会社を率いる岡本英一郎氏は、数百年続く鋳物の家業に生まれながら、紆余曲折を経て「自分がやりたい事業」にたどり着いた経営者だ。掲げるテーマは一貫して「単純に、辛い作業から人を解放する」こと。AIとカメラを組み合わせ、製造・プラント現場の点検を変えようとするその歩みと、ノルマを置かない独自の組織論を聞いた。
家業を離れ、たどり着いた「自分の事業」
岡本氏のキャリアは、決して一直線ではない。大学を卒業後に総合商社へ入り、その後、鋳物を営む家業へ。砂で作った型に溶けた鉄を流し込み、鍋などを、いまでは機械部品までを手がける、十六代続く現場である。
しかし、家業を継いだ日々は平坦ではなかった。経営をめぐって先代と衝突し数年で会社を離れることになる。「とにかく生きていくのが必死で、やれることは何でもやる」。その後、部品商社やコンサルティングなど幾つもの仕事を渡り歩いた。転機となったのは2003年。家業がつながりを持っていた米国の大手部品メーカーで本格的な日本進出の構想があり、その紹介窓口となる会社が立ち上がり岡本氏が代表となった。これがNBKマーケティングの原点である。事業はある程度の形になったものの、先方と方針が分かれこの事業を譲渡。個人での模索を続けるなかで、いまの主力事業と出会うことになる。
コロナ禍で出会った、主力事業
いまNBKマーケティングが最も力を入れているのが、AIとカメラを組み合わせて現場点検を支援する「リルズ」だ。この事業との出会いも、岡本氏らしい行動力から生まれている。
きっかけは、コロナ禍のさなかに参加した、DX推進を掲げる海外発の団体の日本での活動だった。日本での会員を増やすため、岡本氏は仲間とともに100社を超える企業と面談を重ねた。食品の写真からカロリーを算出するもの、来客を予測するもの、契約書の不利な条項を指摘するもの——さまざまな分野のAI企業と対話するなかで、自身が長く関わってきた製造・プラントの市場に合致する技術として選び取ったのが、この点検向けのソリューションだった。
「IoTカメラ自体は世の中にたくさんある。けれど、カメラとAIがうまく連動する仕組みで言えば、競合はいないと言っていいレベル」。岡本氏はそう手応えを語る。導入先は、石油や化学、飲料といった液体を扱うプラント業界の大手企業が中心だ。日々の点検と、数年に一度の定期点検——その両方において「点検といえば、まずここに相談しよう」と思われる存在になること。それが当面の目標だ。
ノルマを置かない組織
岡本氏の経営には、明確な哲学がある。「企業はどうしても売上を最重要に考えがちですが、うちはテーマが繰り返し『辛い作業から人を解放する』こと。そこに共鳴して人が集まってくるので、ノルマは設けていません」。
報酬は、定額をベースに、成果に応じた上乗せを渡す形にしている。完全歩合ではない。「やればやるほど、お客さまや世の中の役に立つ仕事なので、モチベーションを保てる」。ノルマで数字を追わせれば、顧客のためにならないものまで売る歪みが生まれかねない——過度な営業圧力が不正を招いた他社の事例を引きながら、岡本氏はそう戒める。自主性に任せ、楽しく働いてもらうこと。それが結果的に、社員が熱量を持って働く組織をつくっているという。
いま採用を強めたいのは、顧客サポートと、プラント現場に入って設置などを支援する現場サポートの人材だ。
急拡大のなかで見据える、次の課題
事業が急速に伸びるいま、岡本氏が意識しているのは「混乱させずに、安定した成長を遂げられる流れ」をつくることだ。組織開発の専門家の力も借りながら、一人ひとりが立てる目標を通じて数字を可視化する仕組みづくりを進めている。
もう一つの課題が教育である。DXの領域は専門用語が多い。そこで社内では、用語をまとめた辞書や、顧客からの質問と回答を蓄積するFAQを整備し、面談の場ですぐに答えられる体制を築こうとしている。岡本氏自身が表計算ソフトで作り始めたこれらの仕組みも、いまでは専任のメンバーへと引き継がれつつある。
目指すは「現場点検のソムリエ」
3〜5年の展望について、岡本氏は数値目標をあえて掲げない。代わりに描くのは、取扱製品を少しずつ増やしながら、現場点検を総合的にプロデュースする存在になることだ。
「ワインのソムリエのように、お客さまの要望に合わせて『これがいいですよ』と、価値の高いサポートができる会社にしたい」。単に仕入れて売る「物売り」ではなく、これからの現場がどう変わるかを先に見越し、必要とされる支援を組み立てていく。「それをきちんとやっていければ、自然に会社は安定して広がっていける」。紆余曲折の末に自分の事業を得た経営者は、静かにそう語った。
会社概要
- 会社名:NBKマーケティング株式会社
- 代表者:岡本英一郎
- 創業:2003年
- 事業内容:AIとカメラを組み合わせた現場点検支援サービスの提供など
編集後記
家業を継ぐことも、離れることも経験し、そのうえで自分の信じる事業にたどり着いた岡本氏の言葉には、飾り気がない。「辛い作業から人を解放する」という一点を軸に、ノルマではなく共感で人を束ねる経営は、人手不足に悩む多くの現場にとって一つの希望となるだろう。派手さより誠実さを選ぶその姿勢に、これからの製造・プラント業界を支える確かな手触りを感じた。
