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引き継ぎゼロから継いだ家業 ― 制御盤づくりを、ソフトとハードの両輪で

横浜で自動車部品の計測装置づくりに携わってきた大塚友暁氏は、家業である有限会社岩手電機製作所を継ぐため、約二年前に故郷へ戻った。頼れる先代を突然失い、引き継ぎのないところから、制御盤の製造を担う会社の舵を取ることになった四代目。長く現場を支えてきたベテランたちの力を借りながら、ものづくりの技術を次の世代へつなごうとする、その歩みを追った。

目次

横浜の現場から、家業へ

大塚氏が有限会社岩手電機製作所の代表取締役に就いたのは、約二年前のことだ。それまでは横浜で、自動車部品の計測装置を手がける製造メーカーに八年半ほど勤めていた。担っていたのはPLCのソフト設計や、計測装置へのソフトの組み込み、実機を動かしながらの動作確認や調整といった仕事である。

もともと岩手電機製作所は、大塚氏の父が代表を務めていた家業だった。工業高校で電気を学び、似た分野の仕事を続けてきたのも、「いずれは外で下積みを積んでから戻り、一緒にやりたい」という思いが根にあったからだ。

その計画が、思いがけず早く現実になる。先代である父が急逝し、会社は一度立ち行かなくなりかける。電気の専門知識も、現場の取りまとめも、そのすべてを一手に担っていた父が突然いなくなったのだ。「電気屋として仕事を続ける以上、専門的な知識を持って話ができる人間がいなければ、事業として成り立たない」。電気に通じていた大塚氏は、前職を急いで辞めて帰郷し、後を継ぐことを決めた。

「引き継ぎゼロ」からの再出発

継いだ現実は、決して穏やかなものではなかった。引き継ぎと呼べるものはほとんどなく、経営も現場も、手探りで進むほかなかった。

電気に携わってきたとはいえ、前職ではソフトやプログラムが中心。一方で岩手電機製作所の仕事は、配線などハードが主軸だ。同じ電気の世界でも畑が異なり、その違いを今も学びながら埋めている最中だという。加えて、八年半にわたり現場の一作業員だった立場から、少人数とはいえ従業員を抱える代表へと、何の準備もないまま一足飛びに変わった。

「見るもの、やること、その全部がどうしたものかという状態からのスタートでした」。大塚氏はそう当時を振り返る。苦労を挙げればきりがない。それでも一つひとつ、目の前の課題に向き合い続けている。

会社を支える、戻ってきたベテランたち

急な船出を支えたのは、先代の時代から現場を知る人たちだった。かつて本社工場ともう一つの工場で、それぞれ工場長として現場を束ねていた二名が、応援として戻ってきてくれたのだ。年齢を重ね一度は退いていた彼らが、再び力を貸してくれている。

取引先とのつながりや現場の仕切り、設計や品質管理といった要の部分では、この二人の存在が大きい。「本当に非常に助かっています」と大塚氏は感謝を口にする。

事業の柱は、制御盤、電気電子機器の組み立て・配線の社内製造だ。加えて、ハードの設計はベテランの手によって、ソフトの組み込みやタッチパネルを用いた操作まわりは大塚氏自身の前職の経験を活かして対応できる。「製造を軸としつつ、依頼があれば設計から引き受けられる」体制が、この会社の強みになっている。

現場との距離を、もう一度縮める

組織の課題も、大塚氏は冷静に見つめている。全体の平均年齢は若くはなく、培われた技術をどう次の世代へ継いでいくかは避けて通れないテーマだ。二十代に限らず三十代も含め、新しい人材を迎え入れ、技術継承を進めていきたいと考えている。

もう一つ、大塚氏が自覚しているのが「現場との距離」だ。今は相談ごとや指示が、ベテランを介して現場へ伝わる流れになっている。組織として自然な形ではあるが、この規模だからこそ、代表である自分と、実際にものを作る製造現場との間に距離が生まれていると感じている。

「会社のメインは、ものを作ってくれている製造現場の人たちだと思う」。だからこそ、もっと密に、柔軟に現場とやり取りしていきたい――その思いが、これからの経営の軸にある。

これからの三〜五年へ

コロナ禍以降の厳しい環境のなかでの船出であり、経営には今も綱渡りのような緊張感が続く。まずは足元の売上をしっかりと固め、確実に仕事をこなせる基盤を確立すること。その先で、伸ばせるだけ伸ばしていきたいというのが、大塚氏の描く道筋だ。

営業面では、紹介によるつながりに加え、リニューアルした自社サイトやビジネスマッチングの仕組みなど、限られた資源のなかで新たな接点も広げてきた。人員を補強しながら、需要が高まっているソフト分野の案件も取り込んでいきたいという。

目指すのは、ハードの製造にとどまらない会社の姿だ。「ソフトもハードも、どちらでも岩手電機に、と言ってもらえる会社にしたい」。二つの強みを両輪に、大塚氏は次の一歩を見据えている。

会社概要

  • 会社名:有限会社岩手電機製作所
  • 代表者:大塚 友暁
  • 事業内容:制御盤、電気電子機器の組み立て・配線を中心とした社内製造。ハード・ソフトの設計にも対応。
  • 従業員数:7名(代表含む/社員・パート)

編集後記

準備の整わないまま家業を背負い、経営から現場までを一身に引き受けた大塚氏。その言葉には気負いがなく、むしろ課題を一つずつ確かめるような誠実さがにじんでいた。戻ってきたベテランたちに支えられ、現場との距離を縮めようとする姿は、地域のものづくりを静かに守り続ける担い手そのものだ。ソフトとハードの両輪で描く再出発を、これからも見守りたい。

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