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怒りの奥にある声に耳を澄ます——カスハラ対策のプロが目指す、人に寄り添う経営

合同会社Impress Design 代表社員・川添尽善氏は、警察官という異色の経歴を経て、カスタマーハラスメント対策・対応という数少ない専門領域に挑む経営者だ。現場で信頼を積み上げながら、その先に見据えるのは「効率や効果ばかりを追わず、人の感情に寄り添う」という一つの経営哲学である。数少ない専門家として市場を切り拓く川添氏の歩みと、これからのビジョンを聞いた。

目次

警察官から起業家へ

川添氏のキャリアは、大阪で警察官として始まった。5年半にわたり現場で犯罪と向き合ったのち、不動産会社へ転職。平成から令和へと移り変わる時期に、次のステージへと踏み出していく。

令和2年を迎える頃には会社を離れ、個人事業主として独立。約4年間を個人で歩んだのち、2024年7月に法人化し、合同会社Impress Designを設立した。取材時点で3期目に入っている。従業員は置かず、5〜6名の業務委託パートナーとともに事業を回す、機動力のある体制だ。

二つの柱で事業を支える

川添氏が最も力を入れているのは、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策・対応の事業である。一方で、会社のキャッシュを支える柱としては軽貨物運送事業を営み、大手ECで購入された商品の配達を業務委託として担っている。

「何をやっているんですかと聞かれれば、カスハラですと答えます」と川添氏。名刺交換の場でも、前面に打ち出すのはカスハラ対策のほうだ。現在の主な取引先は、経営者やサラリーマンが趣味として出場するような格闘技団体の顧問先。今後は医療・クリニック・介護、さらにその先には学校関係へと領域を広げていきたいと語る。

カスハラ対策の中身は、起きてしまった事態への対応にとどまらない。「我慢した先に、担当していた営業マンや受付スタッフが辞めてしまう。今の時代、それはもう通用しません」。専門家や相談窓口を立て、社内の体制を整える——未然に防ぐ研修・予防から、実際に生じたトラブルへの介入まで、川添氏が一手に引き受ける。

「守り方」を巡る葛藤

起業後の最大の苦労は、意外にも自分自身のマインドにあったという。「元警察官という意識が抜けなかった。ここが一番大変でした」。

犯罪を見てきたプロとして、川添氏には確固たる防犯の視点があった。しかしそれは、時に顧客が求めるものとは噛み合わない。「事件からの目線で言えば必要のないものでも、お客様はそれを求めている。自分は、お客様が求めているものに答えようとしなかったんです」。その事実に気づき、視点を切り替えるまでには時間を要した。染みついた職業意識と向き合った経験が、いまの事業観の土台になっている。

属人化を超えてスケールへ

これまでの売上は、カスハラ対策に関してはほぼ100%が口コミと紹介によるものだ。だが事業規模をさらに大きくするには、「自分を知らない人にも評価してもらえる設計づくり」——すなわちWebマーケティングが欠かせないと川添氏は考える。すでにホームページを制作し、担当者と打ち合わせを重ねながら、AIに読まれることを意識した記事づくりやページの拡充に着手している。研修やセミナーも、これまでの仲間内での開催から、より全面的な発信へと広げていく構えだ。

テレアポや飛び込みといった手法は、あえて取らない。「僕が一番役に立てるのは、お客様が困っているときなんです。困っていない相手に営業をかけるのは、晴れの日に傘をさすようなもの」。だからこそ、困った人が検索したときに見つけてもらえる施策にこそ力を注ぐ。競合について尋ねると、「専門家と言えるのは弁護士か警察官くらい。民間でこの領域にタッチできているところは限りなく少ない」と、市場の空白を静かに指し示した。

感情に寄り添うビジネスへ

3〜5年の中期的な課題は、属人化からの脱却だ。カスハラ対応は川添氏個人の技量・経験・知識に支えられており、それをいかに会社としてスケールさせるかが問われている。

その鍵として見据えるのが、「消費者の感情に寄り添うサービス」の設計だ。法改正が進み、行き過ぎた言動への対応が求められる一方で、企業は依然として顧客の声を必要としている。「聞きすぎればカスハラだと言われる時代。すごく難しく、歯がゆい」。この矛盾のただ中で、感情に寄り添う仕組みを描ければ、属人的なサービスもスケールしやすくなる——まずは現場で信頼と信用を勝ち取り、その先で新たなサービスを打ち出す、という二段構えの構想である。

人を増やすかAIに任せるか、という判断も避けて通れない。「人の話を傾聴できる人には、技術や教養が要る。そこをどうするかは、これから考えていかなければ」。

川添氏が最後に語ったPRメッセージには、事業の根にある思想がにじんでいた。「カスハラは、怒りが表面化したときに起こる。でもその怒りの本質は、ストレスや人間関係のもどかしさ、承認欲求だったりする」。だからこそ伝えたいのは、「カスハラ対策ができますよ」ということ以上に、人にとって必要な感情に寄り添うコミュニケーションに、経営者自身が気づくこと。「効率や効果ばかりを追い求めるのではなく、時には立ち止まって、人や従業員、仲間に寄り添う。そんな時間を一緒に作っていけたら」と、川添氏は穏やかに締めくくった。

会社概要

  • 会社名:合同会社Impress Design
  • 代表者:川添尽善(代表社員)
  • 事業内容:カスタマーハラスメント対策・対応事業、軽貨物運送事業
  • 設立:2024年7月

編集後記

犯罪と対峙してきた元警察官が、いまは「怒りの奥にある声」に耳を澄ませている——その転回そのものが、川添氏の人物像を物語っている。守るための強さを知る人だからこそ、我慢の先で誰かが傷つく構造を放っておけない。カスハラという言葉の鋭さの裏に、人と人とのコミュニケーションをあきらめない温度がある。その視点は、これからの組織運営に静かな示唆を投げかけるはずだ。

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