株式会社アークシンクは、建設業に特化した人材派遣を手がける会社だ。代表取締役の倉元邦彦氏が掲げるのは、「搾取されて終わり」という派遣のイメージを変えること。技術のある若手が安い給料のまま使われる現実に対し、実力に見合った報酬と、次のステップへ進める道筋を用意する。本記事では、大手の受け皿ではなく“入り口”を目指す一年目の挑戦と、その根底にある考え方を聞いた。
「受け皿」になるために会社をつくった
倉元氏が独立して会社を立ち上げた背景には、派遣業界への問題意識があった。
「大手の派遣だと抜き幅が大きかったりもする。若い人たちは技術があるのに、安い給料で使われている。その状況を少しでも良くしたかった」
もう一つの動機が、業界全体の深刻な人手不足だ。倉元氏は、派遣にとどまらず「直接雇用の推進」を掲げる。ゼネコンに対して派遣スタッフの直接雇用を働きかけ、技術者がより良い環境へ移っていける流れをつくりたい。そうした動きを自由にできる場として、自身の会社が必要だった。
売上が減っても、直接雇用を後押しする
アークシンクの姿勢を象徴するのが、直接雇用への向き合い方だ。派遣したスタッフをゼネコンが直接雇用する場合、通常なら派遣会社は紹介料を受け取る。しかし同社はそれを取らない。
「派遣会社は、本来ずっといるべきところじゃない。出て行ける人は出て行った方がいい。直接雇用してもらえばうちの売上は減るけれど、そこは割り切っています」
倉元氏はそれを損失とは考えていない。ゼネコンの現場にアークシンク出身者が増えていけば、それ自体が何よりの宣伝になる。優秀な若手が集まり、実績が生まれ、ゼネコンから頼られる——そのサイクルの起点になることを狙う。
実際に、大手派遣会社から移ってきたスタッフの中には、毎月の手取りが16万円ほど上がった人もいるという。技術に見合った報酬を渡すという方針が、働く側の環境を確かに変えている。
ゼネコンからも「この人を」と声がかかる
創業一年目、まだ認知度の低い会社でありながら、アークシンクにはゼネコン側からの紹介も少なくない。
「他の派遣会社より本人に渡る分が多い、と認識してくれている方もいる。だから『この人、面倒を見てくれないか』と紹介されたり、『辞めたがっている人がいるから一度話を聞いてみてくれないか』と言われたりする」
このまま今の派遣会社にいれば辞めて業界から去ってしまう——そんな人材を惜しみ、場所を変える選択肢として同社に声がかかる。引き抜きではなく、本人の意思で移ってくる人を受け止める。「本人の自由意志である限り、何を言われる筋合いもない」と倉元氏は言い切る。業界全体が正しい方向へ改善していくなら、そこに迷いはない。
判断は数字で、しかし人情も
経営判断の軸を尋ねると、倉元氏の答えは明快だった。
「数字で見られるものは、すべて数字で判断します」
一方で、その言葉には続きがある。数字だけで割り切ると冷酷になりすぎる場面もある。一生懸命やってくれる人には、多少甘くなることもあると率直に認める。数字を基本に据えながら、人情の余地を残す——そのバランスに、同氏の経営観がにじむ。
一年目の苦労は、会社の管理まわりのシステム構築やバックオフィス業務を、ほぼ一人で担ってきたことだ。手続き関係も含めてマンパワーの負担は大きい。今後はバックオフィスを支えるスタッフの採用も予定しており、体制づくりはこれからが本番になる。
課題は「人集め」、勝負は露出にある
現在、同社が最大の課題と位置づけるのが人材の獲得だ。
「派遣業は、優秀な人をどれだけ集められるかが全て。ただ、立ち上げたばかりの小さな会社で認知度もない中では、まだまだです」
採用は求人広告が中心だが、業界全体の人手不足で求人倍率は高く、応募は集まりにくい。同じ土俵に大手が並べば、求職者は安心感で大手を選ぶ。「よくよく並べて見れば、うちを使った方がその人の報酬は多くなることもある」——だからこそ、いかに露出し、選んでもらうかが勝負どころになる。
SNSでの自社発信はまだホームページがある程度にとどまる。一年目でようやく形ができた今、二期目からはそうした発信の強化にも徐々に着手していく構えだ。
3〜5年で「三桁」、業界の踏み台であり続ける
今後3〜5年の展望として、倉元氏は職員数で三桁を目指すと語る。エリアは関東甲信越を主軸に据えつつ(東北にも一部派遣実績あり)、認知が広がれば各エリアへと徐々に展開していく構想だ。「アークシンクに頼めば」という入り口の地位を築くことが、その前提になる。
最後に、業界の中で目指す立ち位置を尋ねた。
「派遣が搾取されて終わり、というのをやめたい。いい人がより登っていくための踏み台になれたらいい。使える人はどんどん使ってもらって、足掛かりにしてほしい」
現実には、ゼネコンから直接声がかかるのは、優秀で目につく一部の人に限られる。だからこそ、そうした人たちには存分に活躍してもらい、業界全体を盛り上げてほしい——インフラを支える、社会に不可欠な仕事だからこそ、の願いだ。
会社概要
- 会社名:株式会社アークシンク
- 代表者:代表取締役 倉元 邦彦
- 事業内容:建設業に特化した人材派遣
- 創業:2025年12月
編集後記
「うちの売上は減っても構わない」と語る倉元氏の言葉には、目先の利益より業界の健全化を優先する覚悟があった。数字で冷静に判断しながら、頑張る人には人情で応える——その両立が、技術者を正しく報いる仕組みへの信頼を生んでいる。踏み台になることを厭わない一年目の会社が、建設業の人材の流れをどう変えていくのか。その起点に立ち会った取材だった。
