「就職したことがない」と笑う佐藤淳貴氏は、就職氷河期に仲間と麻雀店を開業して以来、人材・通信・シェアハウスと事業を重ねてきた連続起業家だ。2016年に設立した株式会社アプリケーションでは、育児や介護で働けない人材とバックヤードを変動費化したい企業を繋ぐオンラインアシスタント「Bフォロー」を展開。「仕事がしたくてもできない人の市場を広げたい」という言葉に、この経営者の一貫したビジョンが宿る。
就職氷河期に起業へ──麻雀屋から広がった事業の原点
佐藤氏は大阪高槻生まれ、埼玉大宮育ち。1979年生まれの佐藤氏が就職活動を迎えた頃は、いわゆる就職氷河期の真っただ中だった。「周りの人間が40社50社受けても1社も受からない状態だった」と振り返る。就職活動をやめる決断をした佐藤氏は、大学の仲間5人と資金を貯め、22〜23歳で麻雀店を開業した。
若者が集まるその店は、近隣の広告代理店の社員たちに支持されるようになり、そのつながりからイベント人材業へと発展する。あるとき、渋谷のレコードショップで翌日午前中に100名を集めてほしいという依頼を受け、後輩ネットワークで実現。若い人材と仕事を繋ぐことに手応えを感じた佐藤氏は、人材・イベント業の会社を起こした。その後、コールセンターへのスタッフ派遣、通信サービスの販売代行へとB2B領域に展開し、業務委託契約で事業を伸ばしていった。
フルキャストグループ傘下から独立、代表としての再出発
人材・通信領域の拡大の中で、佐藤氏が関与した会社は上場企業フルキャストの子会社フルキャストマーケティングの傘下に組み込まれた。安定は手に入ったが、「やりたいことをやらせてもらえない」と感じた佐藤氏は退職し、2008年に株式会社ヒューマンライジンを池袋で設立。初めて代表取締役として立つこととなった。
人材・通信・シェアハウスなど多角的な事業展開で、2016年頃までに売上高10億円規模まで伸ばした。しかしここでも「新しいことへの意欲」が勝り、代表を退任。2016年3月、現在の株式会社アプリケーションを立ち上げた。「就職したことがない、社会不適合者みたいなイメージですね」と笑いながら語る言葉の裏には、一貫して「自分でやる」という選択がある。
「在宅で働きたい人」と「変動費でバックヤードを担いたい企業」を繋ぐ
創業時から注力してきたのが、オンラインアシスタントサービス「Bフォロー」だ。着想のきっかけは、30代になる頃に結婚・出産で仕事を離れた知人女性たちへの気づきにあった。
「在宅だとできない、出社しなきゃいけないとかそういうのが全国にいるんじゃないかと思って」と佐藤氏。集めてみると、親の介護で東京から地方に戻らざるを得なくなったウェブエンジニア、保育園に入れず在宅勤務が必要な親など、働きたくても従来型の雇用に就けない人材が多数いることがわかった。
企業側へのアプローチも明快だ。「人件費って固定費ではなく変動費にしてもいいんじゃないの、というのが中小零細の会社さんのほとんどの本音」と佐藤氏は言う。Bフォローは月20時間から契約でき、1ヶ月単位の短期解約も可能。競合他社が半年縛りで高額な月額料金を設定する中、「まずバックヤードを少しでも移行することを試してみませんかというのが、5時間の無料トライアルを設けている理由です」と語る。不動産会社の物件掲載確認コールから、経理・ウェブ更新・問い合わせ対応まで、業種を問わず幅広い事務業務に対応している。
AIが毎日記事を自動投稿──SEOとLLMO対策を一手に担う「BフォローAI」
もう一つの注力サービスが「BフォローAI」だ。AIが毎日自動でブログ記事と画像をWordPressに投稿し続けるサービスで、目次やH2タグなども自動生成される。月額3万円という価格設定の背景には「1日あたり1,000円でサイトを生きた状態にし続けられる」という明快な価値提案がある。
近年注目されているLLMO(大規模言語モデル最適化)にも効果があることが実証されてきた、と佐藤氏は言う。検索にAIが介在する環境では、AIが生成した文章が優先的に参照される傾向があり、SEO効果と合わせて訴求できる点が強みだ。現在約20社のパートナー企業がそれぞれ自社ブランドでOEM販売しており、特にウェブ制作会社との相性が良い。ホームページ制作後に放置された「化石状態のサイト」を動かし続けるソリューションとして、制作会社が自社クライアントにセットで提案するモデルが広がっている。
「一つ一つ丁寧に」──見えない相手と向き合い続けた経営哲学
全スタッフに一貫して伝えているのが「一つ一つ丁寧に」という姿勢だ。オンライン完結のサービスゆえ、クライアントともスタッフとも顔を合わせる機会は少ない。だからこそ「丁寧に対応しないと、向こう側の態度も悪くなる」と佐藤氏は言う。
創業当初、Zoomがまだ普及していない時代に全国のクライアントやスタッフとのビデオ会議を設定するところから始まり、サービスの型を一から構築した経験が、この丁寧さへのこだわりの土台になっている。「ゼロイチなんで、やり方を構築するところからが大変でしたね」と振り返る言葉に、草創期の苦労が滲む。その後コロナ禍でZoomが一気に普及し、在宅ワークが当たり前になったことで、先行投資が実を結ぶ形となった。
今後の展望──「仕事がしたくてもできない人の市場を広げ続ける」
佐藤氏が描く3〜5年後のビジョンは、売上数値よりも社会的使命として語られる。「Zoomが広まり、家でできるツールが整い、AIも活発化していく。働きやすくなる環境の中で、仕事がしたくてもできない人の市場をどんどん広げていきたい」。
リモートワーク環境の整備とAIの進化は、Bフォローが取り組む課題と機会の両面を拡大しつつある。コロナ禍がZoomを普及させ、AIが新たな事業の柱を生んだように、時代の変化の中で「今できることの次」を常に探し続けてきた佐藤氏らしい言葉だ。
会社概要
- 会社名:株式会社アプリケーション
- 代表者:佐藤淳貴
- 事業内容:オンラインアシスタントサービス「Bフォロー」、AIブログ自動生成サービス「BフォローAI」
- 創業:2016年3月
編集後記
「就職したことがない社会不適合者」と笑顔で語る佐藤氏だが、その歩みは一貫して「人と仕事を繋ぐ」ことへの執着に満ちている。麻雀屋で生まれた縁が人材業を育て、人材業が通信業を生み、そして「働きたくても働けない人」への眼差しが現在の事業を形作った。「丁寧に」という言葉を経営の核に置く姿勢は、見えない相手と向き合い続けてきたからこそ磨かれたものだろう。その静かな誠実さが、じわじわと市場を広げている。
