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現場に出ない社長がつくる、「卒業」で広がる福祉のかたち

一般社団法人ナップ福祉グループは、就労支援B型事業所を千葉・内房エリアで運営している。代表の稲村浩成氏は、自身が農業に携わるなかで感じた人手不足という課題から「農福連携」に着目し、障害のある利用者と地域の農家をつなぐ事業を立ち上げた。職員一人ひとりに自分の会社を持たせ、やがて独立させる「卒業」という独自の仕組み。その根底にある、実直に稼げる場を地方につくりたいという思いを聞いた。

目次

農業の人手不足から見つけた「農福連携」

稲村氏のキャリアは、まっすぐな福祉畑の出身ではない。大学・大学院では建築の設計、なかでも意匠デザインを学び、在学中から個人事業主として企業のSNS運用やWebサイト制作、デザイン周りの仕事を手がけていた。実家は米農家で、幼い頃から農業は身近な存在だったという。

大学院を修了したあと、稲村氏はまず1年間、自ら農業に取り組んだ。そこで痛感したのが人手不足だった。「パート代を払うのも大変で、年間を通して雇用するのも難しい。農家は繁忙期だけ人が欲しいけれど、そこだけというのはなかなか難しい」。この悩みは、自分だけのものではなかった。

そんなときに知ったのが「農福連携」という考え方だった。農業の人材を福祉で賄う――障害のある方が農家の現場で働く仕組みである。「まずは自分の悩みを解決したかった。それに、知り合いの農家もみんな同じ悩みを抱えていた。だったら僕が事業をつくって、みんなのところへ手伝いに行きますよと」。こうして20代半ばで事業所を開設した。

派遣ではなく「一緒に行く」現場のつくり方

事業所には現在20名ほどの利用者が通う。彼らは稲村氏にとって、大切な仲間であり、現場を支える力でもある。開設当初から、もともとつながりのあった農家のもとへ利用者とともに出向き、作業を手伝う取り組みを続けてきた。

新規開拓は個人の農家への直接営業ではなく、JAや各市の農業委員会、農政課といった主要な窓口に絞って行った。「困っている農家さんがいたら紹介してください、というやり方です」。あとは口コミと紹介で、少しずつ広がっていった。事業のエリアは内房エリアに広がり、北は市原市あたりまでを対象としている。

対象を農家に限らないのも特徴だ。利用者一人ひとりの適性を見ながら、どんな作業が合うのかを常に考えている。「言い方は悪いかもしれないけれど、特殊能力を持っている人が多い。ここだけは特化している、という人がいる。そういう人に仕事を渡したい。自分にできないことをできる人がいるので、そこを伸ばして仕事に変えてあげたい」。

職員に会社を持たせ、独立へ導く「卒業」

ナップ福祉グループの最大の特徴は、職員全員に自分の会社を持たせている点にある。職員は事業所の支援に携わりながら、自分の事業も並行して進める。自動的にダブルワークになる仕組みだ。「何か決まってはいないけれど、何かやりたい、稼ぎたいという思いがある人だと嬉しい」と稲村氏は言う。

その先にあるのが「卒業」という制度だ。職員は1年ほどかけて自分の会社を育て、やがて職員を辞めて自分の事業に専念する。そのうえで、事業所の利用者を自分の現場に連れていき、一緒に働く協業関係を結ぶ。

実際に、清掃事業を手がけたケースでは、稲村氏が立ち上げから半年ほど並走し、その後およそ1年をかけて月商200万円弱の規模まで育て上げた。繁忙期には利用者だけでは足りず、パートや社員を入れる必要が出てくる。すると「僕が現場に出ていてはいけない、経営や運営に上がっていかなければ」という段階に入る。そこで職員を卒業させ、会社をさらに大きくしてもらう。「卒業する人をどんどん増やしていきたい。そうすればうちも仕事が途切れないし、仲間が増えることで人脈も広がる」。

「絶対にブラックにしない」超ホワイトへのこだわり

稲村氏が運営面で何よりも大切にしているのは、「絶対にブラックにしない」ことだ。むしろ徹底してホワイトにしたいという。就業時間はおおむね10時から16時。給与は相場より20〜30%ほど高く設定している。「この業界の職員の給料は額面で21〜22万円ほどが相場ですが、うちは30万円ほどにしている。若い人に入ってきてもらうための土壌をつくりたい」。

背景にあるのは、自分の事業を持ちながらでも無理なく両立できる環境をつくりたいという思いだ。実際、職員は20代の若い世代が中心で、地元の人もいれば都内から来た人もいる。給与を受け取りながら自分の事業を育てられる――この安心感が、挑戦したい人を惹きつけている。

もっとも、その道のりは平坦ではなかった。4月にオープンした当初、最初の2カ月は利用者が一人も来なかった。売上はゼロ、頼まれていた農家の仕事にも行けない。福祉のお金は売上が2カ月遅れて入る仕組みのため、初めて売上が入ったのは8月、それも十数万円ほどだった。「本当にきつかった。家賃を滞納して、待ってもらったこともありました」。そこから利用者が少しずつ増え、事業は軌道に乗っていった。

町ひとつ分の「働ける場所」をつくる

稲村氏が描く未来は具体的だ。まず直近の1年で、B型事業所をもう1つ増やす。利用者、つまり働く力が増えれば、それに合わせて卒業する職員も増やせる。これを3年、5年と繰り返していく。

その先に見据えるのは、町や村ひとつ分の規模で、障害のある人が仕事と給料を得られる立ち位置をつくることだ。「障害を持つ方々の生活環境の改善や給料アップといった課題にも貢献できるし、町の課題にも貢献できる」。都心で起業を目指すようなきらびやかな世界とは違う。実直に稼ぎたい、安定したビジネスを一つ目の事業として持ちたい――そんな人にこそ、この地方にはチャンスがあると稲村氏は考えている。

会社概要

  • 会社名:一般社団法人ナップ福祉グループ
  • 代表者:稲村浩成
  • 事業内容:就労支援B型事業所の運営、農福連携による農作業支援、清掃事業ほか
  • 事業エリア:千葉県内房エリア

編集後記

自らの農業経験という原体験を出発点にしながら、稲村氏の視点は「自分の悩み」から「利用者の可能性」へと自然に広がっていた。職員に会社を持たせ、独立へ導く「卒業」の仕組みは、支援する側とされる側という一方向の関係を、ともに事業をつくる仲間の関係へと組み替えていく試みでもある。地方の人手不足と、障害のある人が働ける場所づくり。二つの課題を一つの現場で結び直そうとする実直さに、静かな手応えを感じた取材だった。

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