MENU

侵入されても、意味がない──金融とITを知り尽くした技術者が挑む「ハッキングされない社会」

株式会社ジャパンエクスチェンジ代表取締役・山下幸男氏は、ITエンジニアと証券ディーラーという二つの世界を渡り歩いた稀有な経歴を持つ。「自動化するのがITなのに、なぜ人手で保守し続けるのか」という違和感から起業し、今期で20期目。近年は「侵入されても意味がない」という逆転の発想でセキュリティ技術の開発に注力する。本記事では、技術者としての哲学と、既存の仕組みそのものをひっくり返そうとする挑戦を追う。

目次

プログラマーからディーラーへ──二つの世界を知る技術者

北海道出身の山下氏のキャリアは、プログラマーとして始まった。システムエンジニア、ゲームプログラマー、ネットワークエンジニアとITの現場を経験したのち、証券会社に移りデリバティブディーラーを務める。さらに金融システムのプロジェクトマネージャー、コンサルタントを歴任し、金融とITの両方を実務で知る技術者となった。

「金融もすごい人は山ほどいる。ITもすごい人は山ほどいる。でも、どちらも経験している人は、国内どころか海外でも見たことがない」。山下氏はそう語る。この掛け合わせが、後に多くの声がかりを受ける土台となった。

学生時代、情報系の学部が各大学にできはじめたばかりの世代。就職しても「MS-DOSでコマンドを知らないと何もできない」時代だった。「なんとなく、これからはこっちがすごくなる」という直感を頼りに、山下氏はIT の道へ進んだ。

「自動化したい」から始まった起業

創業の動機を、山下氏は率直にこう語る。「自分は、たぶんめんどくさがり屋なんです。だから自動化したくて、システムに興味を持った」。

その一方で、業界への強い違和感があった。自動化のためのITであるはずが、システム会社は保守運用で対価を得ようとし、そのために人手を必要とする。「人手を返すこと自体がナンセンス。ITなんだから自動化するのが当たり前で、保守がほとんど要らないシステムにすればいいだけ」。余計な手間をかけずとも自動で動く社会の仕組みをつくりたい──その思いが起業へとつながった。

長くITに携わるなかで、山下氏は「時代の潮流」を読むことにこだわってきた。新入社員の頃に「これからの時代」と言われた技術が、数年で消えていく光景を何度も見てきたからだ。「昔データベースの主流だった製品も、今では誰も知らない。何が残るのかを常に見て、考えて、方向を決めてきた」。

7年をかけた自社開発と、資産が減り続けた日々

代表として最も苦しかった時期を、山下氏は自社開発への転換期に重ねる。

創業から約10年は、受託や派遣といった、入ってきたお金の中から支払う「リスクの小さい」事業を営んでいた。エンジニアの職務経歴を丁寧に掘り起こして価値を高め、より高い単価で送り出す。本人の収入も大きく上げていたという。しかし、あるエンジニアから返ってきたのは「(会社に)抜かれている」という言葉だった。それを機にやる気を失い、自社開発へと舵を切る。

「1年もあればできると思って始めたら、ライブラリの完成まで7年かかった」。その間、売上が立たなければ収入はゼロ。設計に10人規模のエンジニアを投じれば、月に相応の固定費が出ていく。「自分の資産がどんどん減っていく。あれはきつかった」と振り返る。

セキュリティに注力したのは、「ITはデータが改ざんされないことが大前提」という信念からだった。独自のブロックチェーンまで開発したが、やりたいことに制約が生じる。「ハッキングされないという一点をどう実現するか」を突き詰めた末、20年ほど前のネットワークエンジニア時代の記憶からアイデアが生まれた。そうして完成したのが、現在の主力技術「GLAUX・CODE(グラウクス・コード)」である。今年3月には特許も取得した。

「侵入されない」ではなく「侵入されても意味がない」

山下氏の技術思想は明快だ。「今の世界中のシステムから、ハッキングは絶対になくならないと思っている」。

理由はこうだ。侵入を100%防ぐことはできない。OSやミドルウェアの脆弱性、バックドア、メンテナンス回線──侵入経路は絶えず存在する。そして一度侵入されれば、暗号やセキュリティの根幹となる情報が文字列サーチで簡単に見つかってしまう。「だから、侵入された時点でハッキングし放題。改ざんされても気づかないことすらありえる」。

そこで山下氏が選んだのは、侵入を防ぐのではなく「侵入しても意味がない」状態をつくる発想だった。通信のたびに形を変え、その仕組み自体はオフラインに置き、万一持ち出されても元に戻らない破壊データとして見せる。「解読できても、破壊データしか見えない。元のデータは分からない」。攻撃者が侵入できたとしても、得られるものが何もない設計である。

「侵入されることを大前提に、それでもハッキングされない仕組みを考えた」。この逆転の発想こそが、山下氏の技術の核にある。

一般の人にとって「うれしい」システムを

経営の軸を尋ねると、山下氏は「自分たち都合のシステムはつくらない」と答える。クライアントの目線、あるいはその先のエンドユーザーの目線に立ち、「一般の方々にとって一番いいものは何か」を起点に据える。「少なくとも、自分たちにとって一番都合のいいものはつくらない」。

組織づくりにも独自の哲学がある。「残業は1分もさせない」。通勤で失う往復の時間を、勉強や自分の時間に充ててほしいと、コロナ以前、15年ほど前から在宅勤務を推奨してきた。日報は30秒ほどで済むごく簡単なものにとどめ、管理をできるだけなくす。「求めることを、求める期間にきちんと実績として上げてくれればいい」という、成果と自主性を重んじるスタイルだ。

山下氏がともに働きたいと語るのは、「尖った人」だ。かつて在籍したフランス人の元ハッカーは、0と1の羅列を見るだけで何かを理解し、効率のよいCPUを設計してプロトタイプまでつくってしまう技術者だった。「延べ2万人以上のエンジニアを見てきたが、ダントツの能力」。周囲は扱いにくさを心配したが、山下氏はその突き抜けた才能に惹かれ、15年にわたって共に歩んできた。「オールマイティより、専門に尖っている人がいい」。

「ひとたび火がつけば」──既存の仕組みへの挑戦

今後3〜5年について、山下氏は金額目標を語らない。代わりにあるのは、技術への強い自負だ。「GLAUX・CODEは、ソフトウェアとしてこれ以上ないレベルまで考え尽くした。知られた会社が『一緒に売ろう』となれば、一気に爆発すると思っている」。

一方で、その普及の難しさも冷静に見据える。現在広く使われている仕組みそのものを覆す技術であるがゆえに、既存のセキュリティで商売が成り立っている企業にとっては歓迎されにくい。「ひとたび火がつけば勝手に広がる。でも火がつかなければ、ずっと今のまま」。それでも「これが広まればハッキングはなくなる」という確信は揺るがない。

挑戦したい領域はほかにもある。GLAUX・CODEでは「ハッキングされないブラウザ」の実現を最終目的に掲げ、その先ではロボット工学への進出も見据える。「ソフトウェアはある程度やり尽くした。ハードはまだ分かっていないぶん、余力ができたらロボット工学のスペシャリストを入れてやりたい」。自社で開発するAIを組み込みながら、ソフトとハードを一体で進めていく構想だ。

読者へのメッセージとして、山下氏はプライバシーの問題を挙げた。スマートフォンを通じて個人が特定されうる現実を指摘したうえで、「システムはあくまで利用者が使うもの。第三者が勝手に他人の情報にアクセスしたり改ざんしたりするのは、たとえ国であってもなしだと思う」と語る。「みんなが安心して安全にシステムを使える世界にするために、この技術を広めたい」。

その実現に向け、協力者を広く求めている。「一緒に何かをつくりたいエンジニア、これを広め、売ってくれる営業の方に、ぜひ来てほしい」。金融ITを軸に、物流、ECプラットフォーム、AI、ブロックチェーン、セキュリティと幅広く手がけてきた同社は、大手ネット証券やメガバンク、通信キャリアでのコンサルティング・開発の実績も持つ。「金融やIT周りであれば、相談に乗れることは多いはずです」。

会社概要

  • 会社名:株式会社ジャパンエクスチェンジ
  • 代表者:山下 幸男
  • 事業内容:金融ITを軸としたシステム開発・コンサルティング(独自セキュリティ技術「GLAUX・CODE(グラウクス・コード)」の開発を含む)、物流・EC・AI・ブロックチェーン等の開発
  • 創業:今期で20期目
株式会社ジャパンエクスチェンジ 代表 山下 幸男

編集後記

「めんどくさがり屋だから自動化したかった」という言葉の軽やかさの裏に、7年をかけて資産を削りながら技術を磨き続けた執念があった。侵入を防ぐのではなく、侵入されても意味がなくする──その逆転の発想は、既存の巨大な仕組みそのものへの静かな挑戦でもある。「誰でもできることをやっていたら、会社の存在意義はない」。世にないものを生み出そうとする技術者の姿勢が、終始一貫していた取材だった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次