大手企業向けの受託開発から、従業員100名以下の中小企業を支える勤怠管理サービスまで。株式会社アンドエーアイは、アプリ開発の技術力を武器に、二つの顔を持つ会社として成長を続けている。代表の西真央氏は、営業組織を持たないまま実績を積み上げ、いまはAI活用を次の柱に据える。「どこまでいってもビジネスは人と人」と語る西氏に、創業からの歩みと、これからの展望を聞いた。
中退から起業へ——ものづくりを軸にした出発点
兵庫県出身の西氏は、家庭の事情で大学を中退した後、美容系の商材を扱うウェブの会社に就職した。そこでウェブ制作や商品企画に携わり、ものづくりの経験を積む。
「26歳のときに、アンドエーアイの前身となるアプリ開発会社を立ち上げました」。2018年のことだ。そして2023年、リブランディングを機に社名をアンドエーアイへと変更し、現在は東京・大阪の2拠点で事業を展開している。
創業当初から開発やものづくりの技術は持っていた。だが、それをどう世の中に広めるかは、別の課題だった。
営業ゼロで築いた実績——専門性という武器
「1年目は売上がほぼゼロで、事業をどう伸ばしていくのか、まだ手探りの状況でした」。西氏はそう振り返る。技術も知識もあるのに、その届け方が分からない。突破口になったのは、開発会社の比較サイトだった。「大阪 アプリ開発」といったキーワードで探す顧客に向けたサイトに掲載してもらい、小さな案件から少しずつ問い合わせが入るようになった。
特筆すべきは、いまなお営業組織を持たないことだ。「営業はゼロ人で、アウトバウンド営業はやっていません」。それでも引き合いが絶えないのは、Flutterという特定のフレームワークに創業以来ずっと専門特化してきたからだ。国内でFlutterを専門に手がける会社は多くない。SEOや技術イベントでの登壇を通じて認知が広がり、自然と問い合わせにつながっている。
受託事業では大手企業向けのアプリケーション開発が売上の中心となり、AI駆動開発にも取り組む。専門性そのものが、この会社にとって最大の営業になっている。
自社の困りごとから生まれた勤怠管理サービス
もう一つの柱である勤怠管理サービスは、自社の課題から生まれた。
「従業員が10人ほどに増えたとき、きちんと勤怠管理をしなければと考えました。ジョブカンやジンジャーなど、既存のサービスをいくつか使ってみたのですが、自分たちのような小規模の会社にちょうど合うものがなかなか見つからなかった」。かといって、いまの時代にタイムカードを使うのもアナログが過ぎる。「それなら、アプリ開発会社なのだから自分たちで使いやすいものを作ってしまおう、というのが始まりでした」。
当初は国内へ大きく広げる構想はなく、あくまで自社のためのツールだった。だが使ってみると、「同じ悩みを持つ企業は他にもいるはずだ」という手応えがあった。そこから外部提供へと舵を切る。
最大の強みは、操作のわかりやすさだ。「タイムカードのような感覚で、パソコンやアプリに慣れていないお客様でも簡単に使える」。ターゲットは、都心よりもむしろ地方で長く事業を営んできた中小企業。ウェブやネットにあまり馴染みのなかった世代の経営者にも導入しやすい。「一社で使い勝手が良かったので、同じ経営者が営む別業態の会社にも入れてみる、という声をよくいただきます」。全国どこでも、業種の偏りなく広がっている。
フラットな組織で、一人ひとりが経営者の視座を
現在の従業員は20名弱。その多くがエンジニアで、企画を担うエンジニア兼ディレクター、デザイナーが加わる構成だ。少人数ゆえに一人ひとりの担当範囲は広い。
だからこそ西氏が重視するのは、自律性と視座の高さだ。「自分が持つ知見はどんどん伝えていきたい。20名弱という規模になると、一人ひとりのスキルや考え方、視座が重要になってきます。全員が経営者というわけではないけれど、高い視座を保ってもらいたい」。社長とメンバーという上下の関係よりも、なるべくフラットな組織であることを大切にしている。
その文化は日々のコミュニケーションに表れる。オープンな社風で、新入社員が入社1カ月目でも上に意見を投げかける。「トップダウンではなくボトムアップの会社。伸び伸びと、やりたいことや意見を出し合える環境です」。成長意欲の高いメンバーが多く、西氏が促すまでもなく、本人たちが自然にその姿勢を持っているという。
顧客と向き合う姿勢も、社内で共有されている。「システム開発会社なので、基本はソースコードやパソコンに向き合う仕事です。でも、どこまでいってもビジネスは人と人とのコミュニケーション、お客様との信頼関係が価値を生む」。エンジニアやデザイナーなど、直接お客様と話す機会が少ないメンバーにも、「この説明はお客様にとってわかりやすいか」という目線を求めている。気になったことがあれば、一メンバーであっても遠慮なく発言する。それが顧客の不安を解消することにつながっている。
AIを掛け算に——3年で2万社を目指して
社名に「AI」を掲げる通り、同社はAI活用の推進に力を注ぐ。「流れの早いAI業界なので、会社としても、従業員一人ひとりがAIをいかに活用できるかが、今後の強化ポイントになります」。社内ではテックイベントを開催し、AI製品を生み出す「AIラボ」の取り組みを通じて、新しい技術を次々と試している。評価制度も社内で内製化し、これまでフォームやツールに分散していた360度評価を、自社システム内で完結させて実運用している。
今年ローンチした「AI推進室」は、その象徴的なサービスだ。社内にAI部署を持たない企業に対し、同社のメンバーが顧客チームの一員のような形で入り込み、コンサルティングから実装までを一手に担う。「自社でAI人材を雇うほどではない、採用コストをかけても良い人材が来るか分からない——そうしたお客様に、アウトソーシングという形でAI活用を届けます」。まずはアドバイザーとして入り、将来的には顧客が知見を内製化していく、という伴走型の支援も想定している。
今後の展望は明確だ。勤怠管理サービスでは、3年以内に利用者数2万社を目標に掲げる。「地道にパートナー戦略を進めながら、良いと思ってくださった方の紹介で広げていきたい」。アプリ開発では、AI活用をいかに顧客への高い価値提供につなげるかが鍵になる。むやみに事業数を増やすのではなく、いまある事業をしっかり突き詰めていく——その先に、社内で磨いてきたツールをパッケージ化し、より多くの企業へ届ける可能性も見据えている。
編集後記
営業を持たず、専門性と「使いやすさ」への徹底したこだわりだけで実績を積み上げてきた西氏。その原点には、自社の困りごとを自分たちの手で解いてきた、ものづくりへの素直な姿勢がある。フラットな組織で一人ひとりに経営者の視座を求める姿には、技術者集団を人と人のビジネスへとつなぐ、静かな信念が感じられた。AIという速い潮流を、地に足のついた現場感覚とともに乗りこなそうとする姿勢が印象に残る。
