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「ありがとう」を積み重ねる経営 ― ITと人材育成で、会社を元気にする

大手通信企業の情報システムを約20年支えたエンジニアが、59歳で独立という道を選んだ。株式会社テックキューブ代表取締役の浅井治氏である。手がけるのは情報セキュリティのコンサルティングと、人の力を引き出す人材育成。「お客さまにありがとうと言っていただくこと」を経営の軸に据える浅井氏に、これまでの歩みとこれからの構想を聞いた。

目次

技術者として歩んだ、日立からソフトバンクまで

浅井氏は愛知県名古屋市の出身。地元の工科系大学を1982年に卒業し、新卒で茨城県にある日立系の子会社に入った。ハードウェアも扱ったが、中心はソフトウェア。当時普及しつつあったUNIXなどOSの領域に携わった。

「40歳前後まで、その会社にいました」。その後、通信業界へと軸足を移す。移った先は、のちにボーダフォン、ソフトバンクへと姿を変えていく通信会社だった。

「まさに激動の通信業界でしたね。当時は3年で社長が6回変わったような世界でした」。買収と再編が続くなかで、浅井氏は最終的にソフトバンクの情報システムを担い、この分野におよそ20年間従事した。そして2019年、59歳のときに早期退職し、独立の道を選んだ。

「人を育てたい」という思いから生まれた会社

創業の背景にあったのは、長年抱いてきた一つの思いだった。

「ITを提供するだけでなく、その裏では必ず運用があって、人が働いている。だから人間系を育てなきゃいけない、人を育てたいという思いがずっとありました」

独立前、浅井氏は大学で講師を務め、社内研修にも数多く携わっていた。人に教え、伝えることに手応えを感じていたという。

「話していて、受講者が『分かった』という瞬間があるじゃないですか。目が輝く瞬間ですね。あれがいいなと思って。人材育成って面白いなと」

こうして、人材育成とITコンサルティングを組み合わせた会社として、テックキューブは船出した。

セキュリティと研修、二つの柱

現在の事業は、大きく二つの柱で成り立っている。

売上のおよそ6割を占めるのが、情報セキュリティのコンサルティングだ。国際規格ISO27001(ISMS)に関する審査員の資格を持つ浅井氏は、かつて審査する側にも立っていた。

「審査員は卒業して、今は企業さん側のコンサルとしてやらせていただいています」。継続的に支援する企業は数社にのぼり、安定した関係を築いている。

残る3〜4割は、教育・研修の領域だ。セキュリティ研修のほか、ITコーディネーターの資格取得を目指す人に向けた養成講座の講師も務める。さらに、ITパスポートなどのeラーニング教材をネット上で提供し、パートナーを通じて届ける仕組みも整えてきた。

一番大変だったのは、初年度の売上

代表として最も苦労したのは、独立して間もない時期だったと振り返る。

「一番大変だったのは初年度ですね。売上をどう立てるか。そもそも営業が下手なので、どうやろうかと」

転機となったのは、パートナーとの縁だった。そこから仕事が広がり、今では継続的な案件が経営を支えている。

一方で、こんな「失敗」も率直に明かす。「もともとエンジニア気質で、何にでも興味を持ってしまうんです」。SEOやランディングページの仕組みなど、気になったものにはつい手を出し、コストをかけすぎたこともあった。「今はそのあたりを断捨離しているところですね」と笑う。

「ありがとう」と、あうんの呼吸

経営で大切にしているのは、実にシンプルな一言だ。

「お客さまに『ありがとう』と言っていただくことですね。対価を払っていただきながら、なおありがとうと言っていただける。それは内容に満足いただいている証拠だと思っています」。その一言が、次のリピートへとつながっていく。

ともに働く相手に求めるのも、深い信頼関係だ。「あうんの呼吸というか、言わなくても分かってくれる関係。それがあるとパートナーになれると思っています」

象徴的なのが、ソフトバンク時代の同僚との縁だ。当時はほとんど言葉を交わさなかったが、浅井氏より一足先に独立していたその人物と、あるとき偶然再会する。「『浅井さんと仕事したいと思ってたんだよ』と言われましてね」。以来、数年来の付き合いが続く。「相手が何をやりたいかが先に分かる。だったら準備しておこうか、と動ける。お互いにそういう関係です」

サステナブルな経営を目指して

3年後、5年後を見据えたキーワードは「持続可能なビジネスの構築」だと浅井氏は言う。

単価×回数のようなフロー型のビジネスから、顧問契約などの継続的なストック型ビジネスへと移行していく。eラーニングコンテンツの提供もその一環だ。また、特許などのライセンスによって安定的な収益を得ることもできる。情報セキュリティや人材育成といった教育系のニーズは、ある日突然なくなるものではなく、案件が積み上がっていく形のビジネスだ。だからこそ、営業にかける負荷も最小限で済む。「リソースの限られた零細企業ですから、エコでサステナブルな体制にしておかないと立ち行かないでしょう」と浅井氏は語る。

最後に、読者へのメッセージを尋ねた。想定するのは、人材育成の担当者、情報システムの担当者、そして経営者――企業のさまざまな立場の人々だ。ITで業務の効率を高めること。そして人材育成によって、社員のやる気を引き出すこと。

「まとめれば、御社を元気にしましょう、ということですね」

会社概要

  • 会社名:株式会社テックキューブ
  • 代表者:浅井 治
  • 事業内容:情報セキュリティ(ISMS/ISO27001)コンサルティング、人材育成・研修、eラーニング教材の提供
  • 創業:2019年

編集後記

技術の最前線で40年近くを過ごした人が語る言葉は、意外なほど「人」に寄っていた。ITの効率化を説きながら、その先にいつも社員のやる気や、お客さまの「ありがとう」を見ている。あうんの呼吸で通じ合えるパートナーとの関係を大切にし、無理をせず、しかし着実に続く経営を志す。浅井氏の穏やかな語り口の奥には、人を育て、人とつながることへの静かな情熱が息づいていた。

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