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「操作が下手だから事故が起きる」わけではない——交通心理から企業の運転教育を問い直す

企業で働く社員が起こす交通事故は、運転操作の巧拙だけでは説明できない。株式会社ドライブクリニックaの平石章代表は、自動車学校のグループ会社で企業向け運転研修を率いた経験を土台に、「操作」ではなく「人間の心理」から運転教育を組み立てる会社を立ち上げた。自動車学校が圧倒的なブランドを持つニッチな市場で、あえて別の道を示そうとする一人の経営者に、その哲学と現在地を聞いた。

目次

自動車学校の「畑」から、一人での独立へ

平石代表のキャリアは、自動車学校のグループ会社で始まった。企業に対して運転研修を提供する法人で、最後は責任者を務めていた。

転機は、会社が企業研修部門を縮小する方針を打ち出したときに訪れた。配置転換の打診もあったが、そこに気持ちは向かなかった。退職を決め、これまで担当してきた顧客に挨拶をして回るなかで、複数の取引先から「もう一人でやればいいんじゃないですか」と声をかけられたという。

「当初は独立の考えみたいなものは持っていなかったんです」と平石代表は振り返る。顧客からの後押しが、思い切って独立に踏み切るきっかけとなった。

「操作が下手だから事故が起きる」わけではない

同社が向き合うのは、法人向けの運転教育だ。取引先は車を使うあらゆる企業で、なかでも一般の営業担当者が運転する営業車のケースが中心を占める。トラックや物流会社は、むしろほとんどいないという。

自動車学校との違いを、平石代表は「技術ではない」と明快に語る。世の中には「運転操作が下手だから事故を起こす」というイメージが根強い。しかし実際には、操作に問題のない人が起こす事故のほうが圧倒的に多いというのが、現場で得た実感だ。

「自動車学校が教えているのは、免許を取得させる業務。運転経験がない人に操作とルールを教えるところなんです」。だからこそ、すでに運転できる社員が自動車学校の講習を受けても、免許取得時の再講習に近い内容になりがちで、事故防止との因果が結びつきにくい。同社はペーパードライバーには当然operation面の指導もするが、そのうえで人間の心理から紐解く「交通心理学」的なアプローチに軸足を置く。ここに、自動車学校との決定的な違いがあると平石代表は考えている。

近年の傾向として、若手の駐車、とりわけ後退での駐車を苦手とする人が男女を問わず目立つという。もっとも「増えた」というより、十年ほど前から続く傾向だと見る。企業が求める「スムーズに一発で駐車できること」と、同社が重んじる「何度切り返しても安全を優先すること」。この微妙なニュアンスの差にも、同社の価値観がにじむ。

一人で回す経営のリアル

代表就任から約2年。苦労を尋ねると、答えは一点に集約された。「一人でやるのは大変だな、と。もうそれに尽きます」。

組織に属していた頃は、経理をはじめ多くの業務を分業できたからこそ、実施や営業に振り切ることができた。それを今はすべて一人で回す。人を雇えば解決するとはいえ、雇えばその人の生活を支えるコストが生じ、そのためには売上を伸ばさなければならない——結局、当面は自分一人で走り切るしかない、という現実に行き着く。

研修の需要にも独特のリズムがある。交通事故が年間を通して均等に起きるわけではないため、契約は都度発注が基本になりやすい。新入社員研修と抱き合わせる4〜5月の需要もあるが、平石代表はあえてそれを勧めない。「研修をやっても、その人が実際に運転するのは10月頃になることが多い。半年空くと忘れてしまい、費用の無駄になる」。運転する直前の時期にこそ効果があるとの考えから、8〜9月への実施を提案しており、実感としても7〜8月が反応の高まる時期だという。

売上より「続く関係」を選ぶ判断軸

経営判断の軸を問うと、平石代表は「売上を上げなければと思っているくせに」と前置きしつつ、顧客の満足を最優先してしまう自分を率直に語った。

営業の現場を経験するなかで得た確信がある。一時的に大きな売上が立っても続かなければ苦しく、むしろ小さくても続く売上のほうが会社を支える。だからこそ判断の分かれ目では、その顧客と継続的な付き合いができるかどうかを見ている。

その姿勢は、営業トークにも表れる。自動車学校が得意なこと・不得手なこと、そして自社の得意・不得手を明確に伝え、「当社を利用しなくていいのであれば、利用しなくていい」とまで言い切る。顧客にとって最善の選択をしてほしいからだ。自動車学校との違いをはっきり示せば、勝負はおのずと見えてくる——そんな手応えが、この正直さを支えている。

認知度を高め、AIという追い風を活かす

3〜5年の中期で目指すのは、何よりも「知ってもらう」ことだ。自動車学校とは違う会社が運転教育を手がけている——その事実の認知があまりに乏しく、顧客の選択肢にすら上がっていないと平石代表は見る。

自動車学校は、営業をかけずとも顧客が集まる強固なブランドを持つ。だからこそSEOで正面から競うのは難しく、直接企業に営業をかけるほうが早いと考える。現実には一人で動く制約から、その営業に十分な時間を割けないもどかしさもある。成果報酬型の営業代行など、身の丈に合った形で「知ってもらう」仕組みを早く整えることが、当面の最優先事項だ。

ここで平石代表が手応えを感じているのが、AIの存在だ。同社は業務にAIの技術を取り入れており、この点は今後さらに広げていきたいと語る。社員の交通事故が社名の傷につながりやすい大手企業ほど、交通安全への取り組みに積極的で、同社の顧客になりやすい。その大手がAI検索で運転教育の委託先を探すと、通常のGoogle検索では上位に出ない同社が、AI検索では上位に表示されているという。実際に、それを通じた問い合わせも数件生まれた。従来の検索の土俵とは別の場所に、思わぬ追い風が吹き始めている。

株式会社ドライブクリニックa 代表 平石章

編集後記

「当社を利用しなくていいなら、利用しなくていい」。売上を追う立場にありながら、顧客にとっての最善を先に置く平石代表の言葉には、業界を内側から知る者ならではの誠実さがあった。事故は操作の巧拙で起きるのではない——その一点を軸に、警察組織を背景とする自動車学校のブランドが支配してきた領域へ、たった一人で問いを投げかける。認知という高い壁の先に、AI検索という新たな導線も見え始めた。この会社が土俵に上がりきったとき、企業の運転教育の常識は静かに書き換わるのかもしれない。

会社概要

  • 会社名:株式会社ドライブクリニックa
  • 代表者:平石章
  • 事業内容:法人向け運転研修・運転教育
  • 創業:2024年7月
  • 従業員数:1名
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