日本企業とベトナム企業をつなぐオフショア開発支援を軸に、教育やDX関連の事業を展開する株式会社TOGS。製薬会社のMRとして9年を過ごした後、結婚・出産を経て起業した代表取締役・花渕真利子氏は、「マッチングして終わり」ではなく、プロジェクトの完了まで日本人担当者が最後まで伴走することにこだわる。お客様との距離を「ベンチの距離感」と表現する経営哲学の源泉と、これから描く展望を聞いた。
MRとして歩んだ9年、そして起業へ
埼玉県育ちの花渕氏のキャリアは、製薬会社のMR職から始まった。
「もともと起業には興味がありました。ただ、やりたいことがなかったんです」。大学の就職活動で進路を考えたとき、営業職に絞り込んだ。その中でも「価値があるもの、自分が成長できるもの」という基準で選んだのが、製薬会社のMR職だった。
9年間勤め上げ、結婚と出産を経験する。そのうえで、ITの分野で事業をやりたいという思いが芽生え、株式会社TOGSを設立した。営業として培った現場感覚が、後の事業の姿勢にもつながっていく。
「マッチングして終わり」をやめた理由
TOGSの事業は3つ。メインとなるのがオフショア開発支援事業だ。一般的にはベトナム企業と日本企業をマッチングする仲介事業だが、花渕氏の会社には他社と異なる特徴がある。
「ベトナムの優秀な企業を探して掘り出し、足りない部分を当社が教育させていただく。そして日本企業にご紹介して終わりではなく、プロジェクトが終了するまで、当社の日本人担当者が最後まで伴走します。ここが他社の仲介事業とは違うところです」
この伴走型のスタイルは、最初からのものではなかった。創業からの1年間は、マッチングだけで終わる事業だった。しかし、プロジェクトが始まった後にベトナム側と日本側の間で問題が数多く生じることに気づく。
「これだと、当社としての価値を最大限に提供できない。日本企業に最後まで満足していただける形で伴走しよう」。そう考えたことが、当初の事業から大きく変わった点だという。
ベンチの距離感で、同じ方向を見る
経営で大切にしている考え方を尋ねると、花渕氏は「ベンチの距離感」という言葉で答えた。
「お客様と正面から向き合って課題解決をする会社は多いと思います。でも当社はそうではなく、ベンチの隣に座って、一緒の方向性を見ながら、同じ目線で課題をクリアしていくんです」
悩み事があるとき、真正面から悩みを聞いてもらうのがいい場面もある。けれど、隣に座って話を聞いてもらうほうが、話しやすいこともある。「どちらが話しやすいか」を考えた末にたどり着いたのが、この距離感だった。同じ立場、同じ目線で、同じ未来に向けて悩みを解決していく──そこに強くこだわっている。
辛いときこそ、笑顔でいられるか
社員募集は続けているが、今は土台を作っている段階でもあり、積極的な採用フェーズにはまだ入っていないという。そのうえで、花渕氏が一緒に働きたい人物像として挙げたのは「笑顔がある人」だった。
「仕事って結構つらいところがあるんです。それに対してどれだけ前向きにやっていけるか。辛いときこそ笑顔でやれるかどうかを見ています」
もともと自身が営業職だったこともあり、こうしたマインドはとても大事だと考えている。日本語を話せるベトナムのIT人材は探しにくいという現場の難しさもあるなかで、前を向く姿勢を何より重視している。
MRの、その先の道をつくる
今後のビジョンとして、花渕氏は教育事業とDX関連の事業をさらに前へ進めたいと語る。そしてもう一つ、自身の原体験に根ざした思いがある。
「私自身が製薬会社のMRだったこともあって、MRの方の再就職の力になりたいんです。MR職は再就職が難しいところがあるので、オフショア開発支援事業の役職として迎え入れたい。まず私が社長として実績を作り、MRを退職してもこういう道があると示したいんです」
業界の中で目指す姿も明確だ。「海外での開発に不安を感じている日本企業が、一番初めに当社の門を叩いてくれる。そういう存在になりたい」。
日本企業は人口減少とともに、求めるエンジニアもどんどん減っていく。自社に商品やサービスを持つ企業ほど、開発の担い手に困る時代が来る。「海外で今後も永続的に協力できるパートナーを探したいという企業には、まず一度お問い合わせいただきたい。逆に、日本企業を探すベトナム企業も、まずは当社と一緒にやっていけたらと思っています」
会社概要
- 会社名:株式会社TOGS
- 代表者:代表取締役 花渕 真利子
- 事業内容:オフショア開発支援事業、教育事業、DX関連事業
編集後記
真正面で向き合うのではなく、ベンチの隣に座る。花渕氏の語る「距離感」は、9年間の営業経験と、起業初期に痛感した「マッチングだけでは届かない価値」の裏返しなのだろう。自らがMR出身だからこそ、同じ道を歩む人の再就職に光を当てたいという言葉には、経営者としての実装力と、人へのまなざしが同居していた。海外開発への不安に寄り添う伴走者として、その歩みはまだ土台を固めている最中だ。