株式会社Lunaの後藤慶士氏が率いるのは、SMという領域に特化したマッチングサービス「LUNA」だ。世の中では語られにくく、しばしば誤解や偏見にさらされてきたこの領域に、後藤氏は真正面から向き合い続けている。学生時代からスタートアップの最前線を走り、独立して立ち上げた事業は、いまや世界へと広がりつつある。数々の逆風のなかで後藤氏が見据えているのは、「安心して自分らしさを追求できる社会」の実現だ。その原点と現在地、そしてこれから描く未来を聞いた。
スタートアップの最前線から、独立へ
後藤氏のキャリアは、学生時代のスタートアップ参画から始まる。まだ社長と2名ほどしかいない創業初期のフェーズから飛び込み、事業の成長とともに走り続けてきた。
「上場一歩手前と言えるくらいの規模まで会社が大きくなりました」と後藤氏は当時を振り返る。組織が拡大していくなかで、自らの手で新しい事業を外に生み出したいという思いが強くなり、独立を決意した。ゼロから何かを立ち上げる感覚を、後藤氏は最も初期のスタートアップ体験のなかで確かに掴んでいた。
「見えないマーケット」に真正面から向き合う
現在の主力事業は、SMという領域に特化したマッチングサービス「LUNA」だ。世界46カ国、12万人を超えるユーザーに利用され、非常に高いエンゲージメントを得ているという。
一般的なイメージとは異なり、LUNAが目指すのは恋愛や結婚といった真剣な出会いの場だ。「よく性癖系のマッチングサービスと勘違いされますが、ユーザー層はほとんど重なりません」と後藤氏は語る。競合としてイメージするのは、むしろ広く知られた恋愛マッチングサービスのほうだという。そこにSMという領域への特化を掛け合わせている点が、LUNAの独自性だ。
一方で、その歩みは平坦ではなかった。「普通の会社が普通にできることをやらせてもらえない、という縛りがありました」。広告やPRの手段が制限され、オフィスを借りる際にも偏見に直面する。世の中の一般的な手法が通用しない領域で、後藤氏は手探りの経営を続けてきた。
差別のなかで、必要としている人たちのために
後藤氏が繰り返し語るのは、「SM」という言葉に対する社会の誤解だ。多くの人はフィクションのイメージを思い浮かべるが、現実には、それが自分にとって必要だからこそ生きている人たちがいる。
「普通に生活して、普通に仕事をしている。それでも性癖や求めるものが原因で、差別に遭ってきた人たちがいるんです」。後藤氏はここで、かつて偏見の対象でしかなかったセクシュアリティが、時代とともに少しずつ理解されてきた過程を引き合いに出す。LUNAが向き合っているのは、まさにいま「見えない存在」とされている人たちの現実だ。「LUNAで救われた、という声をたくさんいただきます」。当事者にとって、それはアイデンティティそのものであり、生きていくために欠かせない居場所になっている。
後藤氏が掲げるのは、「安心して自分らしさを追求できる社会」という構想だ。単なるサービス提供ではなく、社会の構造そのものを変えていくこと。その視点が、事業のすべての判断の根底にある。
世界のインフラを目指して
今後の展望について、後藤氏はまず日本国内の足固めを挙げる。出会ったあとのフォローや、安心・安全に人と出会うためのサポート体制を、より手厚く整えていく方針だ。
そのうえで見据えるのが、グローバル展開である。「北米をはじめ、他の国への進出も考えています」。目指すのは、SMという領域における世界のインフラ企業だ。すでに国内では、この領域に関わるならLUNAを避けては通れない、という存在感を築きつつある。プラットフォームという立場から多角的にサービスを提供し、その基盤をさらに世界へと広げていく。
当事者として社会に発信できる仲間を
事業を次のステージへ進めるうえで、後藤氏がいま最も力を入れたいと考えているのが「広報」だ。
特徴的なのは、これまで広告を一切使わず、広告費ゼロで成長してきたという点である。「僕らがやりたいのは社会の創造です。広告を打つのではなく、広報という形で社会変革をどう起こせるかを考えています」。一般的なプレスリリースを量産する手法では、見えないマーケットを相手にする以上うまくいかない、と後藤氏は言い切る。
求めているのは、当事者として自ら考え、社会に向けて発信していける人だ。「一般的なやり方が通用しない領域なので、手探りで発信できる強さのある方に力を貸してほしい」。ターゲットとして思い描くのは、SMの当事者だけでなく、悩みを抱えるより広い層だ。そうした人たちの「生きる道しるべ」になりたい——その思いに共感し、共に社会を動かしていける仲間を、後藤氏は待っている。
会社概要
- 会社名:株式会社Luna
- 代表者:後藤慶士
- 事業内容:SM領域に特化したマッチングサービス「LUNA」の運営、マイノリティ向けSNS「うたた」の運営
- 従業員数:約20名(業務委託含む)
編集後記
後藤氏の言葉には、誇張も演出もない。ただ、社会から見えにくくされてきた人たちの現実を、当事者の温度のまま語り続ける誠実さがあった。広告を使わず「社会の創造」を掲げる姿勢は、事業の成否を超えた覚悟を感じさせる。偏見と向き合いながら、必要としている誰かの居場所をつくろうとするその歩みは、静かで、しかし確かに力強い。
