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段ボールの可能性を広げる——四代続く「箱屋」が挑む、大型輸送とイベント空間

山梨県で段ボール箱を手がける株式会社ユーシンは、祖母が創業して以来、四代にわたり「箱づくり」を受け継いできた。大量生産の箱ではなく、大型機械の輸送箱やイベント展示空間、さらにはカーラッピングまで——設計力と技術を掛け合わせ、段ボールの新しい使い道を切り拓いている。四代目の代表取締役オギハラテルヒト氏に、事業の強みと、理念経営・DXに向き合う経営の現在地を聞いた。

目次

祖母が拓いた「箱屋」、四代目へ

株式会社ユーシンの歴史は、オギハラテルヒト代表の祖母が創業したことに始まる。「段ボールはこれから社会に絶対に必要になる」という先見のもと、自宅の一室から工場づくりが始まり、そこから徐々に規模を広げて現在の姿になった。祖母、祖父、父と受け継がれ、オギハラ代表は四代目にあたる。

代表自身は高校卒業後に入社し、専務・常務を経て代表に就いた。長く現場を知る立場から、いまは会社全体の舵取りを担っている。従業員は26名(うち社員13名)。昨年の年商は3億円、今期は3億3,000万円ほどの着地を見込む。

大型と設計力で挑む——ユーシンの強み

ユーシンは段ボール製造業のなかでも、シートを仕入れて箱に成形する「ボックスメーカー」という立ち位置にある。主力は、大量生産・大量消費向けの箱ではなく、大型の箱や、海外輸送に耐える緩衝性能の高い箱だ。

「大量生産の箱は、事業規模の大きい会社が得意とされる領域。私たちはそれよりも、手間のかかる大型の箱や、緩衝材の組み立てが必要になるものに強みがあります」とオギハラ代表は語る。大型の機械がすっぽり収まる輸送箱を手作業で組み上げ、ハーレーダビッドソンのようなバイクや、時にはハイエースが入るほどのサイズまで対応する。ホームセンターやインターネットでは手に入らない、オーダーメイドの領域だ。

強みは設計力にもある。「輸送方式を変えたい」「緩衝材を減らしたい」「手間を減らしたい」といった顧客の課題に対し、試作を重ねて量産体制へと橋渡しする。こうしたきめ細かな対応は、大企業にはなかなか難しい領域だという。取引先は電子デバイス・半導体メーカーや大型の産業機械メーカーが中心。加えて、地元・山梨県の羽毛布団の大型箱や、ぶどう・桃といった果物の輸送用の箱も手がけている。

段ボールで広がる新事業——イベント空間からカーラッピングまで

近年、ユーシンは大型箱の技術・設計力・印刷機を掛け合わせ、新たな領域へ踏み出している。そのひとつが、短期利用のイベント展示向け段ボールだ。展示会場のイベントスペースを段ボールで構築するもので、「軽くて丈夫、廃棄もしやすい。場合によっては業者を頼らず、自分たちで運んで施工できる」ことが強みになる。大型箱の技術と設計力の掛け合わせは、他社が簡単には参入しにくい領域だとオギハラ代表は自負する。

派生して、IP関連事業者との仕事も増えてきた。キャラクターパネルや、商品をアピールする展示台を段ボールで制作する。さらに、段ボールの印刷機はラッピングフィルムの印刷にも活用でき、店内装飾や、今後の展開としてカーラッピングも視野に入れる。自社のハイエースはすでにロゴと段ボール柄でフルラッピングされており、保有するトラックも「走る広告」として活用していく構想だ。

本社の休憩スペースは、天井も床も壁もカウンターも、すべて段ボールでできている。カフェを思わせる内装をまるごと段ボールで再現したデモスペースで、来訪した人にその技術力を体感してもらう場になっている。

理念経営とDX——就任後に向き合う課題

就任後、オギハラ代表が向き合ってきたのは、先代との経営スタイルの違いだ。「先代は言葉ではなく背中で人を導く方でした。私はそれとは違い、理念やビジョン、ミッションを掲げ、言葉で協力をお願いしています」。段ボールをお客様に届け、世の中に役立ててほしい——その思いを組織に浸透させるべく、時間をかけて取り組んでいる最中だという。

経営環境の変化も課題だ。物価上昇により段ボールの価格改定は頻繁になり、原価上昇分の価格転嫁は容易ではない。「お客様の値上げ疲れもあるなかで、最低限の転嫁をお願いする。ここは自分の営業力を含め、力不足を感じる部分」と率直に語る。

組織面では、多品種・少量の細かな受注が増え、事務機能の負担が重くなっている。これに対し、受注発注・納品書・図面が別々に管理されていた状態を一元化するシステムを、地元のシステム会社と4年がかりで構築中だ。あわせてAIエージェントの導入も進める。「右から左へ入力するだけの、意思決定の要らない作業はAIが得意な領域」。顧客から受け取ったデータをAIに読み込ませ、受注入力を自動化する仕組みを整えつつある。

これからの展望——認知を広げ、規模を伸ばす

課題として代表が挙げるのは、営業力の強化と認知の獲得だ。顧客獲得はこれまで口コミと紹介が中心で、外に出て営業しているのは実質的に代表自身のみ。今後は外注の営業代行や広告・PRを活用し、認知を広げていきたいと考えている。段ボールでカフェ空間まで作れる技術も、まだ広くは知られていないのが実情だ。

中期のビジョンとして、DX化をさらに進め、人員を増やさずに今の体制のまま事業規模を拡大することを描く。売上は3億円から、5年後には4億5,000万円ほどへ。現在は売上の約5%にとどまるイベント展示向けを20%近くまで伸ばし、カーラッピング事業も育てていく方針だ。「5年後には、山梨県で段ボールといえばここ、と言っていただけるところまでいけたら面白い」。四代目が受け継いだ「箱屋」は、段ボールの新しい可能性を静かに、しかし着実に広げようとしている。

会社概要

  • 会社名:株式会社ユーシン
  • 代表者:オギハラテルヒト(代表取締役)
  • 所在地:山梨県
  • 事業内容:段ボール箱の製造(大型・緩衝用途の輸送箱、イベント展示向け段ボール、IP関連の展示物、段ボール印刷を活用したラッピング等)
  • 従業員数:26名(うち社員13名)
  • 創業:半世紀以上前(初代・祖母が創業、現在で四代目)
株式会社ユーシン 代表 オギハラテルヒト

編集後記

四代にわたって受け継がれた「箱屋」が、大型輸送箱という確かな技術を土台に、イベント空間やカーラッピングへと領域を広げていく——その姿には、伝統を守るだけでなく更新していこうとする静かな意志を感じた。理念経営とDXという二つの挑戦に、地に足をつけて向き合うオギハラ代表。段ボールの可能性を広げるその歩みは、地方の町工場が持つ底力そのものだ。

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