株式会社はなわ農園は、路地野菜から施設栽培まで手がける農業法人だ。代表の塙定昭氏が経営の起点に据えるのは、そこで働くスタッフの幸せである。人件費と資材の高騰が農業経営を直撃するなか、塙氏は「稼げる畑」への構造改革と、生産者と消費者を直接つなぐ販売、そして中間流通への進出という三つの手を打ち続けている。厳しさを増す農業界で、持続する経営をどう築くのか。その考え方を聞いた。
「働く人が幸せであること」を経営の起点に
塙氏がまず口にするのは、事業や数字よりも先に「人」だ。
「働いてくれる社員、重要なスタッフが、やっぱりみんな幸せでなければならないというのが一番だと考えています。そこに向けて、事業内容だったり会社の運営の仕方の方向を決めていく」
何を作り、どう売るか。その手段を選ぶ前に、まず一緒に働く人たちの幸せがある。はなわ農園の経営判断は、この順序から組み立てられている。
生産者と食卓を、できるだけ直接つなぐ
もう一つ、塙氏の思いが強く表れるのが売り方だ。農業をB2Cの世界へ——消費者と直接つなげていきたいという考えである。
「もちろんスーパーなどを経由したとしても、お客さんが結局『ここの家の野菜おいしいよね』と言って買ってくれる。そういうものを作っていきたい。ネット販売もどんどんやっていますが、おいしいものをお客さんに届けていきたい」
その原点にあるのは、素朴な実感だ。「うまい、おいしいものを食べた時って、幸せじゃないですか」。だからこそ、おいしいものを届けたいという思いが強い。作り手の顔が見える野菜としてブランド力を高めていくことを、塙氏は目指している。
人が育ち、長く働ける組織をどうつくるか
一方で、いま最大の課題として挙げるのが人材である。はなわ農園はスタッフの多くが日本人で、外国人は一名。農場を任せられる人材をどう育てるかに、塙氏は頭を悩ませている。
「新規で入ってくる社員は、男性だと独立志望が多く、女性は結婚を機に辞めていくことも多い。人が残りにくい環境で、2〜3年するとどんどん入れ替わってしまう。なかなか農場を任せられる人間が育たない」
外国人の採用も続けているが、車の運転や事務管理といった業務にはハードルがあり、日本人スタッフが多い現場を外国人が仕切るのは容易ではないという。長く続け、現場をまとめられる人材をいかに育てるか。塙氏が「現在一番の課題」と語るのは、この一点だ。
背景には、若い世代の独立志向もある。ただ、就農・独立には開業資金から運転資金まで数千万円がかかり、途中で折れてしまう人も少なくない。市町村の支援制度を使って挑む人もいるが、挫折すれば「給料は安いし仕事はきつい」と農業そのものから離れてしまう。資金面が、就農の大きなネックになっている。
「稼げる畑」へ——法人化後に進めた構造改革
厳しい環境のなかで、塙氏がここ数年進めてきたのが畑の整理だ。日当たりの悪い畑、傾斜がきつく大雨で流されやすい畑——利益の上がらない畑を地主に返しながら、作物の歩留まりを高めてきた。
施設栽培にも手を入れた。ハウス自体は以前からあったが、そこで作っていたのは単価の安い品目が中心。ビニールの貼り替え費用や減価償却が毎年重くなり、路地野菜の売上で穴埋めすると、ハウス単体では大きな赤字になっていたという。
「ハウスでもしっかり稼いでいこう、というところでトマト作りを始めました」
法人化後に踏み出したトマト栽培は、施設をきちんと収益源にするための一手だった。「人件費と資材高騰に対抗できる、力強い組織を作らないと潰れてしまう」。塙氏の構造改革は、その危機感に貫かれている。
中間に立つという選択——これからの挑戦
販売面では、流通の変化に合わせて自ら動いてきた。かつてはJAへの出荷が中心だったが、いまは産直団体が担う契約販売が主流になっている。農家が不得手な物流や営業を代行してもらい手数料を払う仕組みだ。塙氏は法人化後、自ら直接営業にも出て、中間マージンをできるだけ減らし利益に変える動きを進めてきた。
そのうえで、次の一手として考えているのが「人の野菜を売る」ことだという。自社で直接の取引先とつながる事業が増えるなか、あえて中間のポジションに入る発想だ。
「生産はリスクが高すぎるし、かかる経費も大きい。一旦キャッシュを持たないと潰れてしまう、という状況もあります。ただ、みんながウィンウィンの関係を築けるのが一番の理想。出荷してくれる人も『この値段ならいいね』とやってくれる形で、お客さんに提案していけたら」
周囲には農家の知り合いも多く、野菜を集めて卸すこともできる。たとえば飲食店を複数店舗経営する経営者が「うちの店で使う野菜を何種類か頼みたい」と言うなら、できる範囲で必ず手伝える——塙氏はそう語る。生産者としての現場を持ちながら、生産者と使い手をつなぐ役割にも踏み出そうとしている。
会社概要
- 会社名:株式会社はなわ農園
- 代表者:塙 定昭
- 事業内容:野菜の生産・販売(路地栽培・施設栽培)、直接営業による契約販売、ネット販売
編集後記
「農業界が厳しいということを、とにかく伝えたい」。取材の最後に塙氏が残した一言に、この仕事への正直さがにじむ。人件費も資材費も上がり続けるなかで、畑を整理し、施設で稼ぎ、流通の中間にも踏み込む——次々と手を打つその根っこには、「働く人が幸せであること」という揺るがない起点がある。おいしいものを食べたときの幸せを、作り手にも受け手にも。その素朴で強い思いこそが、はなわ農園の経営を前へ進めている。
