リード文
合同会社梵梵Terraceは、筆ペンを使ったアートの教室を運営している。代表の坂間麗華氏が教えるのは、整った書道ではなく「わざと文字を崩して書く」こと。普段と違う手の動きが脳を刺激し、やがて考え方や生き方の固定概念までほどけていく——趣味から始まった活動は、いまや100人近い生徒と32人の師範仲間を抱えるまでに広がった。本稿では、直感を信じて歩んできた麗華氏の哲学と、これから描こうとしている未来を紹介する。
趣味が仕事になった日
麗華氏はもともと、専業主婦としてパートの仕事をしながら暮らしていた。筆ペンの教室に通ううちに師範となり、そこから自身の活動が始まった。
「最初は、師範活動でビジネスをするなんて全く思っていなかったんです。ただ趣味が仕事になってしまって、気づいたら生徒さんが100人近くに」
師範として教えるようになって7〜8年。社員はいないが、ともに活動する師範仲間を「会社の仲間」と捉えている。趣味の延長で始めたことを、反対の声もある中で少しずつ続けてきた結果が、いまの姿だという。
文字を崩すと、人が変わる
麗華氏が教えるのは書道とは異なる。整った字をきれいに書くのではなく、あえて崩して書く。
「普段と違うことをするのが、脳にとてもいい。脳が変わると、行動も変わっていくんです」
生徒の生活や性格、考え方が少しずつ変わっていく様子を見るのが、麗華氏には何より面白い。筆ペンは心や、目に見えないものを描き出すツールだと語る。「ありそうでないもの」を発信し、みんなに楽しんでもらいたい——その思いで活動を続けている。
教室はリアル開催を軸に、遠方の生徒にはZoomでも対応する。料金は都度払いで、月に一度の人もいれば、数年空けてふらりと戻ってくる人もいる。「その人のペースで気楽に来てほしい」という考えから、あえて縛りをつくらない。
「褒める」が集める場
生徒は女性が約8割を占め、年齢は40代から最高で92歳まで。人生の先輩たちとおしゃべりを交えながら進める教室は、フレンドリーな空気に満ちている。
集客はほとんどが口コミだ。SNSや広告は得意ではないと率直に認める。それでも人が集まり続ける理由を、麗華氏はこう分析する。
「本音で話すことと、その人の良いところを褒めること。それで居心地がいいと言ってもらえるんです」
普段は言われ慣れない言葉に、最初は照れていた生徒も、やがて「先生、もっと褒めてください」と笑うようになる。素敵な人に会えるかもしれない——そんな期待が、人を呼ぶ場になっている。
直感で決めて、なんとかなる
経営や人生の岐路で麗華氏が頼りにするのは、直感だ。挑戦したいと思えば、金額も聞かずに「やります」と言ってしまうこともある。
「頭で良い悪いを判断するのではなく、体の反応に近いもの。それが本当の直感じゃないかと思うんです」
そのためには、いつも素の自分でいて、あまり考えすぎないようにしている。教室を立ち上げる前には離婚も経験した。お金の不安よりも、自由に、やりたいことをやりたいという気持ちが勝った。「元気な時間は限られている。やりたいことをやらないと後悔する」。そう語る麗華氏の傍らには、前向きに支えてくれる仲間たちがいる。
筆ペンから広がる、これからの手札
麗華氏はアイデアの人でもある。教室に登場するお地蔵さんのゆるキャラ「梵ちゃん」を3D化し、ぬいぐるみキーホルダーとして販売。商標登録も済ませ、会員が思い思いに持ち歩いている。書籍も出版し、自分のフォントを世に出す構想も温めている。
活動の場もさらに広げていく。秋からは外国人が集うコミュニティで講座を始める予定で、インバウンドとの相性にも手応えを感じている。企業で働く人への癒しの時間、認知症予防など、筆ペンが活きる場は多い。一方で、湧き出るアイデアを形にするビジネスの部分では、伴走してくれる存在を求めてもいる。
3〜5年後には、メンバーを2〜3倍に増やし、全国各地へ出向くイベントの回数を増やしたいという。北海道、九州、大阪、そして温かみのある島々へ——旅を楽しみながら、人とつながっていく。
「筆ペンはツールだと思っています。人の固まった心を解きほぐしたい。疲れている人に声をかけて、ホッとしてもらえる存在でいたいんです」
会社概要
- 会社名:合同会社梵梵Terrace
- 代表者:坂間麗華
- 事業内容:筆ペンアート教室の運営
- 創業:2024年7月
編集後記
趣味が仕事になり、直感に従って道を切り拓いてきた麗華氏。その言葉には、力みも誇張もない。文字を崩すという行為を通して、生徒の固定概念や生き方までもがほどけていく——それは、麗華氏自身が身をもって示してきた歩みそのものだ。人を褒め、柔らかくし、元気にする。筆ペンという小さなツールから広がる温かさは、これからも静かに、確かに人をつないでいくだろう。
