AIとロボットがあらゆる仕事の優位性を塗り替えていく時代に、最後まで残るものは何か。株式会社Deal Denの高宮秀行氏がたどり着いた答えは、「人と人との出会い」だった。イベント運営やコンセプトカフェの経営で培った現場感覚を土台に、経営者・事業者が深くつながる会員制コミュニティを立ち上げた高宮氏。単なる交流の場づくりではなく、世界規模でスケールする事業への布石として描くその構想と、根底に流れる哲学を聞いた。
メイドカフェから経営者コミュニティへ
高宮氏の起業家としての歩みは長い。18年ほど前に大学を中退し、アルバイトで生計を立てながら副業として事業を模索する日々が続いた。なかでも継続して手がけたのが、男女の出会いを提供する「街コン」イベントだ。関西全域で月に30回以上、300人規模のイベントも開催し、毎月およそ1,000人を集めるまでになった。
やがて心斎橋に街コンの店舗を構え、月に800人ほどが訪れる場へと育てる。その過程でコンセプトカフェ事業も並行して始め、大阪・日本橋で6店舗を約10年にわたり経営してきた。
順風満帆に見えた事業にも転機が訪れる。東京進出を目指して現場を離れたところ、大阪の店舗経営が傾いてしまったのだ。高宮氏は大阪に戻って立て直しを図りながら、ひとつの教訓を得る。
「失敗した理由は、属人性が高すぎたこと。だからもっと違う業態をやろうと思った」
そこから高宮氏は、それまで縁のなかった交流会や経営者コミュニティに足を運び始める。この2年ほどは毎日、多い日には1日3回参加し、20以上のコミュニティに身を置いた。ユーザーとして市場を体験し尽くした先に生まれたのが、Deal Denだった。
「意味のあるコミュニティ」を形にする
Deal Denは、サブスク型の会員制コミュニティを軸とする事業だ。現在は130名ほどの経営者・事業者が参画し、法人単位での加入も広がっている。月に7回ほど開かれる交流会には毎月200名近くが集まり、年間では延べ2,000名を超える。
コンセプトは「コミュニティをシェアするプラットフォーム」。医療、農業、美容といったジャンルごとのコミュニティが同居し、あらゆる業種の経営者が集う。高宮氏はその構造を、こう表現する。
「大きなショッピングモールの中に、それぞれのショップがあるような形。入ってから細分化して、深くつながれる状態をつくっている」
来月には、心斎橋・アメリカ村の好立地に約300平米(90坪)の複合施設「ビジネスカフェ」をオープンする。イベントスペース、シェアオフィス、展示室を備え、会員自身が「医療カフェ」「農業バー」といったコンセプト別の催しを主体的に開いていく場だ。オンラインで築いたつながりを、オフラインの拠点でさらに深める狙いがある。
強みは、その継続率の高さにある。退会者はごく少数にとどまり、継続率は90%を超える。数多くのコミュニティをユーザーとして体験してきたからこそ、「意味のなかった部分」を反面教師に、価値のある場を設計できたと高宮氏は語る。
売り込まない、という戦略
会員制サービスにつきものの「強引な勧誘」を、Deal Denは良しとしない。その姿勢は、高宮氏のビジネス観に根ざしている。
「なぜ勧誘をしないといけないかというと、結局は売れないサービスだから。サービス力が弱いから、売り込まないと入らない」
高宮氏はほぼ一人で営業を担うが、いまや入会者からの紹介が多くを占める。交流会の場でその日の入会を案内することはあっても、断った相手を追いかけることはしない。それでも人は集まってくる。
「入った人の満足度が高くて、他の交流会に行っている人が『ここがいい』となれば、普通に入る。交流会ひとつ取っても、どこにも負けない自信がある。だから追う必要がない」
サービスそのものの優位性で選ばれる——そのシンプルな原則が、勧誘に頼らない集客を成り立たせている。
AIの時代に残るものへ賭ける
高宮氏がこの事業を選んだ背景には、時代の大きな変化への読みがある。AIがホワイトカラーの、ロボットがブルーカラーの仕事の優位性を奪っていくなかで、最後に残るものは何か。高宮氏はそれを二つに絞り込んだ。エネルギーや宇宙開発、メタバースといった先進的なサービスか、あるいは人と人との出会いか。
「前者は資本力を持つ側が強い。うちにその資本力はない。だから後者、人という部分に、もう一度着手していく」
Deal Denは交流会やコミュニティの運営それ自体を目的にしているわけではない、と高宮氏は繰り返す。大阪で形が整ってきたいま、来年からは各地に支部を展開し、日本国内にとどまらず世界各国へと広げていく構想を描く。株式会社Deal Denから関連会社へ出資し、その関連会社単体もスケールさせる——見据えるのは「世界的企業」の創出だ。
一方で、課題も明確に見据えている。高い継続率もサービス品質も、現状は高宮氏個人のマンパワーに支えられている面が大きい。今後は会員自身が提供者側に回る仕組みへと移行させ、支部も意欲ある人に委ねていく。属人性からの脱却こそが、スケールへの鍵だと自覚している。
来月オープンする拠点は、当初計画の3倍の規模へと膨らみ、家賃も内装費も想定を超えた。それでも既存の会員基盤があるため、初月から黒字を見込む。読者へのメッセージを、高宮氏はこう締めくくった。
「Deal Denは、時代が変わってもずっと進化し続けて残るサービス。興味のある方は、ぜひ一度来ていただけたら」
会社概要
- 会社名:株式会社Deal Den
- 代表者:高宮秀行
- 設立:2026年1月
- 事業内容:経営者・事業者向け会員制ビジネスコミュニティの運営、交流会・ビジネスカフェの運営
編集後記
イベント運営からコンセプトカフェ、そして経営者コミュニティへ。高宮氏の歩みは一見バラバラに見えて、「人が集まる場をつくる」という一本の線で貫かれている。AIとロボットが優位性を書き換える時代に、あえて「人と人との出会い」に賭けるという選択は、逆説的でありながら確かな手応えを感じさせる。属人性という自らの弱点を直視し、仕組み化へと踏み出そうとする姿勢に、この事業が一過性で終わらない予感を覚えた取材だった。
