株式会社ロワールは、介護施設向けの委託給食を中心に、社員が施設の厨房で朝昼晩の食事を調理・提供する給食事業を手がける。代表を務める四ツ井隆裕氏は、家業を継いだ二代目。前職の印刷営業から家業に入り、専務を経て代表となった。約290名の従業員を「食のインフラを支える仲間」と位置づけ、「まず従業員、その次にお客様」という順序を徹底する。休日を増やすかどうかさえ社員自身に委ねる経営の裏側と、給食業界の未来像を聞いた。
印刷営業から、家業の給食会社を継ぐまで
四ツ井氏は埼玉県本庄市の出身。創業者ではなく、家業を継いだ後継者である。前職は印刷会社の営業を3年半経験し、25歳のときに当時父親が営んでいた現在の会社へ入社した。
「兄が先に入っていたので、私は入らない予定だったんです」。もともと家業に加わるつもりはなかったという。会社が忙しくなり人手が足りなくなったことで、兄から入社を打診されたが、一度は正式に断った。
「兄弟でやりたくないというか、弟として入ると、ずっと兄の下で活躍することになる。性格上あんまり慣れないので」。しかし、その一年後に改めて頼まれたとき、四ツ井氏は二つ返事で入社を決めた。専務として実務のほとんどを担い、代表就任へと歩を進めていく。
「従業員第一」が生む好循環
四ツ井氏の経営哲学は明快だ。最も大切にするのは従業員、その次にお客様。この順序には、はっきりとした理由がある。
「従業員が満足度高く働ければ、お客さんに出す給食のクオリティが上がる。利用者さんが満足すれば施設が満足し、預けているご家族も満足する。それがまた収入となって返ってくる」。足元である従業員を大切にすることで、関わるすべての人が幸せになる——四ツ井氏はそう考えている。
背景には、給食・介護業界の慢性的な人手不足がある。「辞める、また入るを繰り返すと、知識も財産も身につかない。だったら今いる社員が安心して働ける環境を整えることが、うちの財産になる」。教育コストの観点からも、定着こそが会社の力になるという確信がある。同時に、人の入れ替わりに左右されない「人に依存しないビジネスモデル」づくりも並行して進めている。
休みを増やすかは、みんなで決めた
従業員第一という言葉を、四ツ井氏は具体的な行動で示す。象徴的なのが、休日を増やす取り組みだ。
「働きやすさって、言葉は綺麗で簡単ですけど、実際に何で満足度が上がるのかというと、休み・福利厚生・給与・労働時間・労働環境なんです」。中でも分かりやすいのが休みと給与。ただ、会社が一方的に「休みを増やす」と決めても、労働日数が減れば仕事は凝縮され、それを負担と受け取る人も出てくる。
「何をやっても全ての人が大満足の政策はないんです。だったら自分たちで決めた方が、同じ結果でもある程度飲み込める」。そこで四ツ井氏は、休みを増やすかどうかを従業員自身に委ねた。自分の考えとして「増やしたい」と伝えたうえで、半年間かけてみんなで考えてもらい、最終的に増やす結論に至った。現場では6日ほど、本社の事務所ではさらに多くの休日が増えたという。
休みに限らず、全員に関わり強制力の働く事柄は、できるだけ社員自身の判断に委ねる。「大義名分としていい方向へ進める案を会社が考え、それに対してみんながどう思うかを叩きながら進めていく」。少しずつ環境を改善していく、その積み重ねだ。
一緒に働きたいのは「受け取り方が上手な人」
現在、約290名が在籍するロワール。求人にも積極的だ。四ツ井氏が「一緒に働きたい」と語るのは、ポジティブで、物事の受け取り方が上手な人だという。
「休みを増やすと言ったとき、『日々が大変になるじゃん』と捉えるのか、『増やしてくれてありがとう』と受け取るのか。受け取り方が上手な人が集まると、何に対しても前向きだし、できない理由ではなく、どうすればできるかを探すようになる」。会社が投げかける提案は、お客様・会社・従業員のためを思ってのもの。その前提を上手に受け止められる人が増えるほど、組織全体が前向きになるという。
一方で、組織としての課題も率直に語る。「今ほしいのは、私の右腕・左腕です」。調理人や栄養士といった実務のプレイヤーは多いが、中間管理職層が薄い。兄が社長、自身が右腕として動いていた体制から代表に変わったいま、その2番手・3番手が育ちきっていない。「這い上がってくる人が出てほしい。頑張っている人を応援したい」と、社内からの成長に期待を寄せる。
食のインフラを、次の世代へ
42歳の四ツ井氏は、20年以上先を見据えて事業の柱を組み替えようとしている。現在の介護施設向け給食は続けつつ、高齢者人口の減少を見越し、新たな領域へ踏み出す構えだ。
一つは、高校・大学の寮の食事。多くはスポーツ強豪校の寮で、選手が集まる場だ。四ツ井氏自身も野球を続け、高校時代は寮生活を送った経験を持つ。「スポーツをやってきた子を応援したい。そこへの親和性もある」と語る。
もう一つが、本社工場を改修して取り組む調理済み真空パック事業だ。セントラルキッチンで大量生産し、衛生管理を徹底したうえで介護施設や障害者施設、グループホームなどへ届ける。委託給食の現場にも調理済みのものを送れば、現地は袋を開けて出すだけで給食が成立する。「人に依存しないビジネスモデルになるし、味の濃い薄いも一定になる。現地も働きやすくなる」。属人性を減らし、安定した品質を届けるための一手だ。
四ツ井氏は自らの仕事を「食のインフラ」と呼ぶ。「レストランは潰れても行かなければいい。でも私たちの給食は、なくなると何千人、何万人と困る。電気・ガス・水道と同じように、なくてはならないもの」。だからこそ、自社だけで抱えきれない仕事は同業他社と手を組みたいと考える。「断るのではなく受けて、グループに投げる。共に発展していきたい」。特に関東圏、なかでも埼玉県内に事業所を置く給食会社との連携を呼びかける。
そして、給食の仕事を志す人へ。「給食を経験したことがない日本人は、おそらく一人もいない。幼稚園から小中学校、高校の学食、社員食堂、介護施設まで、一生涯の食事を出している。ホテルのシェフのように派手ではないけれど、給食業界は素晴らしい。決して地味でつまらない仕事ではないので、毛嫌いせず飛び込んでほしい」。
会社概要
- 会社名:株式会社ロワール
- 代表者:四ツ井隆裕
- 事業内容:介護施設向けの委託給食を中心とした給食事業(社員を施設の厨房に派遣し、現地で朝昼晩の食事を調理・提供)
- 所在地:埼玉県深谷市樫合903-2

編集後記
「まず従業員、その次にお客様」。多くの経営者が口にする言葉を、四ツ井社長は休日制度の決定権を社員に委ねるという形で行動に移していた。派手さのない給食を「食のインフラ」と言い切り、同業他社にまで手を差し伸べようとする姿勢からは、業界そのものへの静かな誇りが伝わってくる。人に依存しない仕組みづくりと、人を何より大切にする哲学。その両輪を回しながら、二代目は次の世代へと歩みを進めている。
