株式会社フェローシップ代表取締役社長・小山剛生氏は、リクルートで10年を過ごしたのち34歳で独立し、AIとグローバルに軸足を置いたHRサービスを育ててきた。人口減少と円安という日本の構造課題を「事業のチャンス」と捉え、リアルビジネスにテクノロジーを重ねて社会を動かそうとする。本記事では、「社長業をやりたい」という原点から、組織づくりの痛みを経て練り上げた使命と価値観、そして数年先を見据えた展望までを聞いた。
「社長業をやりたい」——事業ありきではない起業
小山氏の起点は、事業アイデアよりも先に「経営者になりたい」という思いにあった。学校卒業後、新卒でリクルートに入社して10年勤め、34歳のときに独立を決めている。
「元々、社長業をやってみたいという気持ちがありました。社長をやるとすると、自分で独立するのが一番手っ取り早い。だから独立しようと思って、一人で始めたんです」
事業を決めてから起業したのではなく、まず独立し、そこから「何をやるか」を考え始めた。順番としては逆だと本人も認める。そのうえで、自分が世の中に最も価値を出せるものは何か、どんな事業アイデアが描けるか——その掛け合わせで領域を定めていった。以来、やっていることの本質は変わらず、対象領域を広げ、新しい業態を加えながら現在に至る。
HRを核に、AIとグローバルへ
現在の事業は大きく二つ。核となるのはヒューマンリソース(HR)サービスで、成長ドライバーとしてAIやグローバル化のコンサルテーションを位置づける。
コアのHRサービスは、さらに三つに分かれる。一つはAI人材の育成・派遣。二つ目は外国人材の育成・派遣。三つ目が人材紹介で、単なるマッチングにとどまらず、次の時代の社会や企業をリードするリーダーシップのある人材を専門に集め、企業へ紹介する。
顧客は創業以来、ベンチャーや成長を志す企業が中心だ。必然的にIT系やエンターテインメント、あるいは独自の技術を持つ製造メーカーなどが多い。他社との違いを問うと、答えは明快だった。
「領域をAIとグローバルに絞っている。そこだと思いますね」
全員が辞めた日——「組織はトップの鏡」
代表になって一番大変だったのは、と尋ねると、迷いなく「組織づくり」と返ってきた。意思疎通の難しさ、思うような採用ができないこと、採用できても教育しきれないこと。その難しさを、小山氏は忘れていない。
象徴的な出来事がある。創業から1年半ほど、従業員が8人になった頃のことだ。「数字に厳しくて大変だ」「大切にしてくれない」という声が広がり、ほぼ全員が辞めていった。残ったのは1人だけだった。
「みんなを大切にしていないわけではない。ただ、会社として成長を志している中で、今の要望に全部合わせれば成長は止まる。だから、付いてくるか辞めるか、どちらかにしてほしいと求めたんです」
その決断自体は正しかったと今も考えている。以来、人事制度をつくっては見直す繰り返しだ。この経験から得た気づきを、小山氏はひとことで言い表す。
「組織はトップの鏡だなと。自分がどういう人を必要とし、何を評価し、どんな組織をつくりたいのかを明確にしていなかった。だから社員が違う方向を向いたり、違うことを求める人が入ってきたりしたんだと理解しています」
使命とスタンス——組織を貫く二つの軸
経営で大切にしているのは二つ、と小山氏は言う。一つは「この会社は何を目指すのか」という使命。他社でいうミッションやパーパスにあたるものだ。もう一つが、どんな姿勢・行動で組織をつくり進んでいくのかを言語化した「フェローシップスタンス」である。
スタンスは「GCOM」という四つの言葉に集約される。G=グロース(成長)、C=コラボレーション(真の協働意識)、O=オーナーシップ(高い視座に立った当事者意識)、M=ミッション(使命感を持って世界に貢献する)。使命は追い続ける目的であり、スタンスはそこへ向かう姿勢を示す。最終的にはこの二つに集約されると小山氏は語る。
顧客と向き合う際に意識するのも、この延長線上にある。
「お客様が言われていることが全てではない。潜在的なところをつなぎ合わせ、気づきを提供して初めて出せる価値がある。その姿勢は持ち続けています」
「未来を握手できるか」——採用で見るもの
人事・組織のポイントは三つに絞られる。徹底的にこだわる採用、どんなミッションを与えるか、そして評価。「ほぼこの三つで、人事組織の部分は決まっていると意識しています」。
いまは人員を一気に増やすフェーズではないという。AIによる合理化や生産性向上を追う局面でもあるからだ。そのうえで、どんな人と働きたいかを問うと、答えはやはり使命とスタンスへの共感に戻ってくる。
「多くの人は、どんな仕事ができるか、どんな教育や報酬か、という今の条件で会社を比較します。それは間違いではないけれど、本質ではない。大事なのは、一緒に働くことで未来をコミットできるか。フェローシップは数年後こういう会社を目指す、あなたは数年後どうなりたいのか。そこで握手できるかどうかだと思うんです」
会社もやることもAIによって大きく変わっていく時代だからこそ、目の前の仕事だけで選ぶ関係は長続きしない、と小山氏は見ている。
「リアルとテックで世界を動かす」——日本の危機を土台に
今後の展望を、小山氏は日本という国全体の課題から語り始めた。人口減少と円安。働き手だけでなく、消費する人も、技能や知識を次代へ伝える人も減っていく。円安も相まって経済が進みにくくなる——「世界で誰も経験したことのない危機的な状態に向かっている」という危機感が根底にある。
だからこそ、そこにフェローシップの役割があると考える。海外から働き手や消費者を呼び込み、AIを活用して生産性の高い仕事ができる人を育てて送り出し、社会を変えようとする志の高いリーダーを紹介する。「ある意味、日本の未来をなんとかしようという、社会未来創造型の会社だと思っています」。日本のピンチが自社のチャンスになる——その土台をさらに磨き込んでいく構えだ。
掲げるビジョンは「リアルとテックで世界を動かす」。人材ビジネスはまさにリアルなビジネスであり、そこにテクノロジーを重ねて付加価値を高める。同時に、テクノロジーのプロダクトも自ら手がけ、人材の供給だけにとどまらないサービスを提供していく。
読者へのメッセージも、この当事者意識に貫かれていた。
「我々は日本という国の、いわば株式会社日本の当事者です。目の前の営業や業績も当然考えなければいけないけれど、それだけでなく、5年後10年後の日本を見据えて何をすべきかを考える。経営者なら、その目線で発信してほしい。求職者なら、会社の未来を見て、自分がそこで力を発揮するのかを判断してほしいと思います」
会社概要
- 会社名:株式会社フェローシップ
- 代表者:小山 剛生(代表取締役社長)
- 事業内容:HRサービス(AI人材の育成・派遣、外国人材の育成・派遣、人材紹介)、およびAI・グローバル化に関するコンサルテーション
編集後記
「社長業をやりたかった」という率直な原点から始まり、全員が辞めた日の話まで、小山氏は飾らず語ってくれた。印象的だったのは、組織の失敗をすべて「トップの鏡」と自らに引き受ける姿勢だ。人口減少と円安という重い現実を、悲観ではなく事業の土台として引き受け、「リアルとテック」で動かそうとする。危機を当事者として引き受ける経営——その静かな覚悟が、言葉の端々ににじんでいた。
